日本のファミリーガバナンスの系譜

日本のファミリービジネスにおける「イエのルール作り」は、近世の武家や商家の家訓にその源流を見ることができます。武家社会では、家の名誉や忠義、節度を守り、家名を永続させるための規範として家訓が定められました。そこでは、当主は家を私物化する存在ではなく、先祖から受け継いだ家を次世代へ引き渡す管理者であるという意識が重視されていました。一方、商家でも家業の永続を目的として家訓や家法が整備され、倹約や信用第一といった倫理だけでなく、相続や分家の統制など、経営や資産の維持に関する具体的な規律が定められていました。
明治時代になると、西欧型の近代国家建設の過程で1898年に民法が制定され、「家制度」が法的に確立されます。家は国家社会を構成する基本単位と位置づけられ、華族や大商人、新興財閥などの家では「家憲」や「家法」と呼ばれるルールの策定が盛んに行われました。これらの家憲は、儒教的な倫理観を背景にしながらも、家業や資産を守るための実践的な統治ルールとして機能しました。
特に大正時代には、三井・住友・三菱などの財閥が家憲や同族規定を整備し、家産は個人ではなく「家のもの」であるという考え方のもと、同族会議や評議制度などの仕組みを導入しました。これは、所有と経営を分離しながら家業を長期的に維持するためのガバナンスの仕組みであり、現代のファミリービジネス・ガバナンスの原型ともいえるものです。
しかし戦後、1947年の民法改正によって家制度が廃止されると、こうした家のルール作りは「封建的」と見なされ、社会の表舞台から姿を消しました。近年になり、ファミリービジネスの持続的発展のための仕組みとして、ファミリー憲章やファミリーガバナンスが改めて注目されています。経済産業省の「ファミリービジネスのガバナンスの在り方に関する研究会」から、「ファミリーガバナンス・ガイダンス」が近く発表されるとのことです。これは、日本の歴史の中で培われてきた「イエのルール作り」を、現代的に再解釈する試みとも言えるでしょう。
こうした歴史的背景や実践知を学び、現代のファミリービジネス支援に生かしていくことが、FBAA(Family Business Advisors Association)の活動の大きな目的の一つです。ファミリービジネスに関わる専門家が知見を共有し、互いに学び合うコミュニティとして、ぜひFBAAにご参加いただければと思います。
Author Profile
慶応義塾大学経済学部卒。
コロンビア大学ビジネススクール経営学修士(MBA)。経済産業省「地域経済におけるファミリービジネスに関する研究会」委員(平成21年度)。
キャラクター商品メーカーを経て家業の寝具製造卸会社に勤務。基幹業務システム設計導入、リストラプラン策定実施、新規事業立ち上げの後、4代目社長。その後IT関連の起業に参加。'03年WellSpring設立。'24年2月にセブン・スプリングス株式会社設立、代表取締役・ファミリービジネスコンサルタントとしてコンサルティング・講演・研修・執筆活動を行っている。
著書:「同族経営はなぜ3代で潰れるのか?~ファミリービジネス経営論~」クロスメディア・パブリッシング、「ほんとうの事業承継」共著 生産性出版 他