ファミリービジネス研究史からファミリービジネス・アドバイザーの現在地を考える

 

新年おめでとうございます。

昨年から経済産業省で「ファミリービジネスのガバナンスの在り方に関する研究会」が行われ、「ファミリーガバナンス」や「ファミリー憲章」が今年のキーワードになりそうです。今回はこの背景にある、ファミリービジネス研究と実務の歴史に触れてみます。

ファミリービジネス研究は、一般的な経営学とは異なるユニークな出自を持っています。その起点は、理論ではなく「現場」でした。

1960〜70年代のアメリカでは、同族企業の承継問題や親子間の葛藤に悩む経営者が増加していました。こうした現場に寄り添い、心理的・家族的側面から支援を行ったのが Leon Danco です。Dancoは、創業者の引退不安や後継者との関係性といった“人の問題”を正面から扱い、ファミリービジネスを「人と関係性のシステム」として捉える視点を提示しました。ここに、今日のファミリービジネス・アドバイザリーの原型を見ることができます。

その後、1970〜80年代に John Davis と Renato Tagiuri によって提唱された「三円モデル(家族・所有・事業)」は、ファミリービジネスを理解するための共通言語となりました。問題は個人ではなく、複数のシステムが重なり合う構造から生じる――この視点は、現在のFBAAアドバイザーの実務においても不可欠な基盤です。

1986年には Family Firm Institute(FFI) が設立され、1988年には学術誌 Family Business Review が創刊されました。初代編集長はFBAAのアドバイザーを務めるIvan Lansberg氏。ここからファミリービジネスは、実務知と研究知が往復する独立した学問分野として欧米で確立していきます。FBAAが大切にしている「実務と理論の架橋」は、この流れと強く共鳴しています。

1990年代以降、研究の関心はガバナンスや所有構造へと広がり、2000年代にはエージェンシー理論やスチュワードシップ理論など、主流経営学との接続が進みました。さらに2010年代には、利潤だけでなく誇りや評判、家族のアイデンティティといった非財務価値を重視するSEW(Socio Emotional Wealth:社会情緒資産)理論が登場し、ファミリービジネス特有の意思決定を説明する重要な枠組みとなっています。

2008年のリーマンショック以降、こうした知見は実務の世界でも本格的に活用されるようになりました。承継、ファミリーとビジネスのガバナンス、資産保全へのニーズが高まり、PwC や EY などのプロフェッショナルファームが、ファミリービジネス支援を専門領域として体系化していきます。

この研究史が示しているのは、ファミリービジネス支援の本質が「制度」や「数値」、
「マネー」だけでなく、「人」「関係性」「意味」に根ざしているという事実です。FBAAに求められているのも、まさにこの複合的な視点をもって、ファミリーと企業の持続性に伴走するアドバイザーの育成だと考えています。

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