「家族における「全体性」支援」
応用生態学者ロブ・ダン教授著『家は決して一人じゃない』によると、
どの家にも約20万種の細菌、真菌、節足動物などが存在しています。
20でなく20“万”です。
食べ物のカス、人間やペットの毛、フケ、垢、埃、朽ちて
きた畳や木材が全て、そうした生物たちの食物です。家は、
そうしたものたちの住みかでもあります。
その本を読んだ人は、家を無菌状態にしたい、という欲望に
駆られるかもしれません。しかしダン教授によると、それは
絶対に無理だし、それ以上に「危険」です。なぜなら家の中
で培われてきたエコロジー(生態系)のネットワークや
バランスが、破壊されるからです。
殺虫剤で “無害” の多様な生物を殺すと、その間隙をぬって、
殺虫剤に対する耐性を身につけた別の生物が大量に発生して、
生態系の調和をダメにします。耐性を得た生物がもし “害” を
なすタイプであったら、その家は危険なものとなります。
作家の五木寛之さんが、北欧で湖を見てその水の美しさに
感嘆したときのこと。現地の案内人が「だから、この
湖には魚が生息していません」と述べたそうです。
まさに「水清ければ魚棲(住)まず」だったそうです。
深層心理学者C.G.ユングは、完璧さ、強さ、光だけを
一面的に信奉する理念、信念、生き方、ビジョンを
偏執狂(パラノイア)、精神病、強迫性障害ととらえ
危険視しました。
彼はそうではなく、強さと弱さ、光と影の両側面を
兼ね備えた「全体性(whole)」を大事にしました。
全体性は弱さや影を含みますので「完全/完璧性」とは
異なります。
ユングは「”不完全さ”のスピリチュアリティ」を尊びました。
ちなみに英語の”health(健康)”、”heal(癒える)”、
“holy(神聖)”やドイツ語の”heil(救い、幸福、健康)”
の語源は、古代ギリシャ語の”holos(全体)”です。
ユング心理学的には、私たちが「全体」であるとき、
私たちは健康、幸福であり、癒しや救いが喚起され、
暮らしに聖なる側面を取り入れることができます。
一方、完璧さを求め、弱さや影を排除しようとすると、
強迫的、パラノイア的、精神病的になりかねません。
極端な清らかさの追求は「魚住めず」状態を生み、
害や毒を繁栄させかねません。
大事なのは、全体性とバランスです。
強さと弱さ、光と影の共存です。
家族も同じです。
家族を無菌状態にするのは、危険です。
ユング的に良い家族は、多様なタイプの人が
共存共栄できるファミリーです。
あなたは多様性のある家族を想像できますか?
そこには、たとえが悪いですが細菌、真菌、
節足動物のような人がいますか?
イタリア人映画監督フェデリコ・フェリー二の映画には、
細菌、真菌、節足動物のような人がたくさん登場します。
その人たちに対するフェリーニの愛情やコンパッションが
ダイレクトに感じられます。
- 既にできている家族のエコロジー・ネットワーク
(=システム)を尊重する、 - そのバランスの崩れを回復させる、
- 改善すべきところがあれば、しっかりと手を入れる、
- 強迫的で完璧を目指す光だけの理念、哲学、ビジョンに
よって魚が住めなくなった湖(=家族)に、命の再生や繁栄
がもたらされるようにサポートする、
それが私たちの実践するファミリーセラピーです。
それには多種多様性に対するフェリーニのような
愛情、コンパッション、寛容さを培う必要があります。
それを支援するのもセラピーの役割です。
本コラムは2名で書いております。
・FBAAフェロー 富士見ユキオ
・FBAAフェロー 岸原千雅子
岸原千雅子 -Profile-
臨床心理士/公認心理師
「オーナー・コーチング:登録商標:」コーチ
ファミリービジネス・アドバイザー認定資格保持者
交渉アナリスト1級 日本交渉協会認定
相続アドバイザー協議会認定会員
英国IFA認定アロマセラピスト
お茶の水女子大学卒業(文教育学部)
認定プロセスワーク2ndトレーニング教師
日本ホリスティック医学協会 顧問
日本トランスパーソナル学会 理事
株式会社インテグリティ 代表取締役
一般社団法人ファミリービジネス支援センター 代表理事
「アルケミア」こころとからだの相談室 代表(2002年開業)
各種家族療法の知見を取り入れ、カップル・セラピー、フ
ァミリー・セラピーの実践に長年取り組んでいます。
また、
・心療内科(赤坂溜池クリニック)での15年にわたるカウンセリング
・小・中学校、看護学校でのスクールカウンセリング
・がん患者と家族のためのカウンセリング(vol-next)
・医学・心理学関連の、編集・ライティングの経験
などを活かし、医療機関や学校との連携、家族や子どもの支援、
患者と家族の支援なども広く行っています。
《ファミリービジネスの心理支援について》
ファミリービジネス(家族経営企業)のご家族に特有の、以下のような心理支援を行っています。
・家族の円滑なコミュニケーションを図りたい
・ファミリー間の心理的な葛藤や紛争状況を解決したい
・事業承継にまつわる行き違いやトラブルの対処
・オーナーの心の悩み
・後継者世代の心の悩み
・先代と次世代、現社長と後継者の間の、関係改善
・家族メンバーそれぞれの自己実現の応援
・家族会議やファミリーミーティング開催の支援
《その他の支援について》
・相続にまつわる家族関係の修復・改善、および心理的な支援
・離婚や結婚にまつわる心理的な支援
・子育てや子どもに関する悩みの支援
Author Profile
ファミリー・ビジネスを持続・永続的に行うには、経営コンサルティングや税務アドバイスのような「ハード・スキル」と、ファミリー・セラピー(家族療法)のような「ソフト・スキル」の3面からの統合的支援が求められます。私は、家族の「癒し」と「再建」のためのファミリー・セラピーと、家族の健全さの「維持」と「予防」と「発展」のためのファミリー・アドバイスを34年にわたり行ってきました。
また、ファミリー・ビジネスのオーナーや大企業のエグゼクティブに対するコーチングにも、たくさん携わらせていただいています。
現在は事業承継・相続や経営について学び、各専門家と協力・協働しながら、日々ファミリー・ビジネス・アドバイスを行っています。
ファミリーとビジネスの結びつきを背景から支援するファミリー・セラピーに、より一層励んでいきたいと考えています。
現在、ファミリービジネス支援センター(FBSC)共同代表、セブン・スプリングス株式会社メンバー、一般社団法人FBAA・ファミリービジネスアドバイザー資格認定証保持者(フェロー)。
著書『痛みと体の心理学』(新潮社)他、訳書アーノルド・ミンデル著『オープン・フォーラム』(春秋社)他多数。