「心の深い本音を引き出す、夢分析とは?」
深層心理学では、心の深い本音に到達するために、夜見る夢の分析を行います。
今回はその一端について述べさせていただきます。
緩和ケアに長年携わり、多くの患者の看取りを行ってきたブロニ—・ウェア氏の著書『死ぬ瞬間の5つの後悔』によると、死の間際に私たちが最も後悔するのは、「自分に正直に生きなかったこと」だといいます。
「正直に生きる」というのは、とても難しい。
だから多くの人が死の瞬間まで、自分の心に正直に生きることをしません。
誠実に生きることを先延ばしにします。
なぜでしょう?
自分の心に正直に生きるには、どうすればいいのでしょう?
「夜見る夢」が、その水先案内となってくれます。
夢は、私たちの本音や正直な想いを映し出す水晶玉です。
私たちが、自分に正直かどうかは、意識や理性だけでは、わかりません。
意識下の「無意識」に、着目する必要があります。
深層心理学によると、無意識と向き合わない限り、私たちは自分の本音を深く理解できず、正直に生きることが難しい。
意識下の本音を見せてくれる水晶玉が、夜見る夢です。
メーカー系ファミリービジネスで、社長に信頼されているある幹部社員は、朝社長に会い、
「おはようございます」と言おうとしましたが、
思わず「失礼します。さようなら」と言い間違えてしまいました。
数日前に、彼はその会社に退職届を出すという夢を見ていましたが、忘却していました。
その社員は、几帳面で無断欠勤したことはありません。
退職について、意識的に考えたこともありません。
しかし社長の会社運営に、自分でも気づかないところで、うんざりしていました。
彼は「軽うつ状態を改善したい」という思いをいだいて、セラピーにやってきました。
「言い間違え」とその前に見ていた「夢」の分析を通して、彼は自分の本音に気づきます。
夢分析と夢ワークに納得した彼は、本当に言いたかったことを、正直に社長に伝えることにします。
すると、その社員を評価していた社長は彼の思いを受け止め、二人の関係はより信頼できるものとなりました。
社長は、心的包容力のある人でした。
彼の軽うつ状態は改善され、アサーティブになり、企業にとってもプラスの効果が波及しました。
夜見る夢は、「昼」の人間関係やコミュニケーションに「ふと」〜たとえば「言い間違え」に〜現れます。
夢は夜だけでなく、水面下で昼もうごめき、他者とのコミュニケーションに、想定外の形で割り込んできます。
そう教えたのは、プロセスワークのアーノルド・ミンデルや新対象関係論のウィルフレッド・ビオンです。
うつの人とセラピーを行っていると、本音と建前の葛藤に出会うことが、よくあります。
たとえば「従順で信頼される社員」(=建前)と「社長の会社運営にうんざりしている」(=本音)との葛藤です。
本音は、夜見る夢に現れます。
夢は、自分でも気づいていない正直な気持ちを映す水晶玉です。
夢分析や夢ワークは、私たちが本音で生きるように迫り、強要します。
ですので、夢分析、夢ワークを真剣に行うと、しんどさの伴うこともよくあります。
しかし、心に豊かさや実りをもたらします。
夢分析や夢ワークは、私たちが死ぬ瞬間に後悔しない自分らしい人生を、正直に生きるための水先案内です。
きびしくも、愛ある師匠のようです。
寄稿:富士見ユキオ、岸原千雅子
本コラムは2名で書いております。
・FBAAフェロー 富士見ユキオ
・FBAAフェロー 岸原千雅子
岸原千雅子 -Profile-
臨床心理士/公認心理師
「オーナー・コーチング:登録商標:」コーチ
ファミリービジネス・アドバイザー認定資格保持者
交渉アナリスト1級 日本交渉協会認定
相続アドバイザー協議会認定会員
英国IFA認定アロマセラピスト
お茶の水女子大学卒業(文教育学部)
認定プロセスワーク2ndトレーニング教師
日本ホリスティック医学協会 顧問
日本トランスパーソナル学会 理事
株式会社インテグリティ 代表取締役
一般社団法人ファミリービジネス支援センター 代表理事
「アルケミア」こころとからだの相談室 代表(2002年開業)
各種家族療法の知見を取り入れ、カップル・セラピー、フ
ァミリー・セラピーの実践に長年取り組んでいます。
また、
・心療内科(赤坂溜池クリニック)での15年にわたるカウンセリング
・小・中学校、看護学校でのスクールカウンセリング
・がん患者と家族のためのカウンセリング(vol-next)
・医学・心理学関連の、編集・ライティングの経験
などを活かし、医療機関や学校との連携、家族や子どもの支援、
患者と家族の支援なども広く行っています。
《ファミリービジネスの心理支援について》
ファミリービジネス(家族経営企業)のご家族に特有の、以下のような心理支援を行っています。
・家族の円滑なコミュニケーションを図りたい
・ファミリー間の心理的な葛藤や紛争状況を解決したい
・事業承継にまつわる行き違いやトラブルの対処
・オーナーの心の悩み
・後継者世代の心の悩み
・先代と次世代、現社長と後継者の間の、関係改善
・家族メンバーそれぞれの自己実現の応援
・家族会議やファミリーミーティング開催の支援
《その他の支援について》
・相続にまつわる家族関係の修復・改善、および心理的な支援
・離婚や結婚にまつわる心理的な支援
・子育てや子どもに関する悩みの支援
Author Profile
ファミリー・ビジネスを持続・永続的に行うには、経営コンサルティングや税務アドバイスのような「ハード・スキル」と、ファミリー・セラピー(家族療法)のような「ソフト・スキル」の3面からの統合的支援が求められます。私は、家族の「癒し」と「再建」のためのファミリー・セラピーと、家族の健全さの「維持」と「予防」と「発展」のためのファミリー・アドバイスを34年にわたり行ってきました。
また、ファミリー・ビジネスのオーナーや大企業のエグゼクティブに対するコーチングにも、たくさん携わらせていただいています。
現在は事業承継・相続や経営について学び、各専門家と協力・協働しながら、日々ファミリー・ビジネス・アドバイスを行っています。
ファミリーとビジネスの結びつきを背景から支援するファミリー・セラピーに、より一層励んでいきたいと考えています。
現在、ファミリービジネス支援センター(FBSC)共同代表、セブン・スプリングス株式会社メンバー、一般社団法人FBAA・ファミリービジネスアドバイザー資格認定証保持者(フェロー)。
著書『痛みと体の心理学』(新潮社)他、訳書アーノルド・ミンデル著『オープン・フォーラム』(春秋社)他多数。