「ファミリービジネスで、ないがしろにされがちなファミリー面を支援する『弱さの力』」
ファミリービジネス(FB)には、ファミリー側面と、ビジネスの側面とがあります。この両側面を尊ばなければ、FBの長期的な成功、健康、幸福はかなわない、という考が、FBAAの中核にあります。
FBコンサルティングが、従来の経営コンサルティングや事業承継コンサルティングと「質」が異なるのは、「ファミリー」の側面を、はっきりと意識化し、その側面を、「ビジネス」の側面と同じように、大切にしているからです。
今から10年前に、次のような経験をしました。ある有名な経営コンサルタントに、FBコンサルティングについて話した時のことです。
「富士見さん、企業/会社経営者で、家族のことを相談する人などいないよ。家族のことには恥、人間関係のダーク面、表沙汰にできない、したくない弱み、ヤバイことでまみれているから、そのFBコンサルティグとか何とかいう商売は、成り立たないし、うまくいかないだろうね」
そのコンサルタントは、「プロ・セラピストは守秘義務を厳守すること、知りえた秘密は墓場まで持っていく」、という倫理のあることを知らなかったのだと思います。
後に聞こえてきた噂によると、そのコンサルタントの家族は、バラバラ・ボロボロだとのことでした。その人の陰で、妻や子どもが苦悩し泣いている、というのです。もしその噂が本当なら、私の発言が家族のことを隠したい、表にしたくない、というその人の思いに触れ、心の地雷を踏んでしまったのかと考えます。そしてその心を防衛するために、負の気持ちを、私にぶつけ吐き出していたのかと思います。
従来の経営コンサルタントで、自分の家族のことをないがしろにしている人は、少なくないのかもしれません。あなたは、どう思いますか?
FBに関するある講演会でのこと。その講演者は、FB関連の専門家でした。その人の話が、高齢の企業オーナーに関する内容になった時のこと。
「みなさん。高齢のオーナー経営者のことは、かまわず放っておきましょう。考えても無駄ですから。高齢オーナー経営者には、ファミリーで、オモチャでも与えておけばいいんです」
ファミリーを専門としている私としては、ショックでした。ファミリーの側面や老いてビジネス力、オーナー力のなくなった人を、ないがしろにする発言だったからです。ファミリービジネスに関わっている専門家の発言だとは、思えなかったためです。
という具合に、ファミリーの側面は、今でも脇に置かれがち、無視されがちです。従来のコンサルティングでも。また、FBコンサルティングでも。
ファミリーの側面で、最も無視され、ないがしろにされがちなことに、高齢者や心および身体の障碍者「ケア(care)」があります。なぜなら、利益、金、儲けを生まないからです。金儲け(のみ)を優先する新自由主義(ネオリベラリズム)の考え方に、毒されているためでしょうか?
一方、私たちは、ファミリーのケアのあり方を大事にしているFBこそ、長期的な成功や繁栄を生む、と考えています。これは、私たちの30年以上の臨床実践から見えてきたことです。
あなたは、高齢者、障碍者、子どもや赤ちゃんを大切にするFBをイメージできますか?そこには「心の温かさや豊かさ」が、流れあふれています。
サン=テグジュペリ著『星の王子さま』に、有名な言葉があります。「大切なことは、目には見えない」という。
ビジネスの側面では、「金儲け」「利益」「数字」は大事です。
それは目に見えます。
一方、ファミリーの側面で大切なことは、「一緒にいて、それだけでほっとできる安心感」「温かさ」「やさしさ」「愛情」です。それらは、目に見えません。数値化できません。金儲けに直結しません。「心の目で見なければ、見えません」
私たちはみな、生涯どこかでケアを必要とします。母胎にいるとき、乳幼児期、また病気やけがを負ったとき、老いて介護が必要になったとき、そして死の床において、さまざまなケアを体験します。
この世界にケアを必要としない人、「弱者」に一度もならない人はいません。ケアは「お互いさまのもの」です。
私たちは、FBセラピーを行う際に、ファミリーの弱者、ケアを必要とする人に、必ず着目するようにしています。そのケアのかなうのが、FBです。それは、経済的利益中心の非FBではできないあるいは困難な、FBの強みの1つです。
英語に”vulnerability(脆弱性)”という単語があります。その語源的意味は、”vulner(脆弱)”になることの可能な”ability(能力)”です。ファミリーでは、自分の辛さ、悲しみ、ダークサイドを、心を開いて話すことの可能な「脆弱能力(vulnerability)」がとても大切です。それが、良質なファミリーを育成します。脆弱力がなければ、あなたは心をオープンにすることは、困難でしょう。
脆弱能力は、ビジネス場面における「強さ」とは、相いれません。が、FBの長期的成功には、ビジネス場面での強さと、ファミリー場面での脆弱力(=弱さの力)と、両方が求められます。しかし、その2つは正反対、相反するものであるため、両者を身につけるのは、大変です。
私たちは、ビジネス的強さと、ファミリーにおける繊細さ、オープンマインドのバランスを図るセラピーを、提供しています。それが、FBの全体性を支援することになり、長期的成功、健康、幸福、繁栄につながるからです。
あなたは、「弱さの力」に関心がありますか?
Author Profile
ファミリー・ビジネスを持続・永続的に行うには、経営コンサルティングや税務アドバイスのような「ハード・スキル」と、ファミリー・セラピー(家族療法)のような「ソフト・スキル」の3面からの統合的支援が求められます。私は、家族の「癒し」と「再建」のためのファミリー・セラピーと、家族の健全さの「維持」と「予防」と「発展」のためのファミリー・アドバイスを34年にわたり行ってきました。
また、ファミリー・ビジネスのオーナーや大企業のエグゼクティブに対するコーチングにも、たくさん携わらせていただいています。
現在は事業承継・相続や経営について学び、各専門家と協力・協働しながら、日々ファミリー・ビジネス・アドバイスを行っています。
ファミリーとビジネスの結びつきを背景から支援するファミリー・セラピーに、より一層励んでいきたいと考えています。
現在、ファミリービジネス支援センター(FBSC)共同代表、セブン・スプリングス株式会社メンバー、一般社団法人FBAA・ファミリービジネスアドバイザー資格認定証保持者(フェロー)。
著書『痛みと体の心理学』(新潮社)他、訳書アーノルド・ミンデル著『オープン・フォーラム』(春秋社)他多数。