ファミリービジネスと依存症

あなたは「依存症(addiction)」について聞いたことがありますか?

武井一喜著『同族経営はなぜ3代でつぶれるのか』(クロスメディア・パブリッシング)によると、アメリカのファミリビジネス・アドバイザー団体”FFI (family Firm Institute)” の総会で、毎年「依存症」についての講演が定番になっているとのことです。

しかし、日本でファミリービジネス(FB)が語られるときに、依存症が正面から取り扱われることは、私たちのFBAA(一般社団法人ファミリービジネスアドバイザー協会)での講義を除いて、皆無ではないでしょうか?

ところが依存症は、多くののFBに巣食う大問題です。だからFFIでは、毎年のように依存症を話題にするのでしょう。

アルコール依存症やそれに付随する共依存がファミリービジネス(FB)にあると、たとえば合理的な事業承継が困難になります。適切な事業承継が何か「わからないから」ではありません。事業承継に関しては、コンサルタント、セミナー、書籍などを通じて何年にもわたって学んでいたりします。

「わからないから」ではなく、依存症の背景にある病気(妄想 / 認知のゆがみ)が非合理的で絶大な力を持って、合理的判断を破壊するのです。

日本で最も多い依存症はアルコール依存症です。

これは大問題なのですが、企業社会では正面から問題視されることはほとんどなく、ぼやかされ、ごまかされ、放置されてきました。

しかし、アルコールをはじめとする依存症はFBを内側から蝕み、サステナビリティ(永続性)を危うくします。依存症が、職場でのパワハラや家族のDVといった暴力に連なるケースがよくあります。

今回は依存症について述べながら、FBを考えます。

依存症は大別して3種類あります。

1つ目は、アルコールやドラッグ(薬物)などへの「物質」依存。
2つ目は、スマホ、ゲーム、買い物、ギャンブル、運動、仕事などへの「行為/行動」依存です。
3つ目は人間関係への「共依存」です。

どれも一度かかると治療や回復が難しく、生涯にわたって苦しむことが少なくありません。舐めていると、自分の心身だけでなく、夫婦関係、家族、ビジネスを台無しにしかねません。早めの対策・対応が必要です。

依存症には「鎮静」作用をもたらすものと、「興奮」作用をもたらすものとがあります。

その2つは正反対の働きをしますが、よくあるのは真逆の作用をもたらす2種類の依存症を同時にわずらうことです。

たとえば、アルコールは多量に摂取すると鎮静作用をもたらします。心に鎮静作用を必要とする人は、毎日多量のアルコールを摂取します。

これを続けていると、早晩アルコール依存症にかかります。

が、依存症はこれで終わりではありません。鎮静的(アルコール)依存症にハマっている人は、真逆の興奮作用を求めます。興奮することで、鎮静した状態を持ち上げて、(何とも非合理的ですが)バランスをとろうとするためです。

興奮のために、ある人はたとえばワーカホリック(仕事中毒/依存)にハマります。昼間は気合いを入れて仕事に中毒し、夜は金を浪費しながらアルコールに耽溺(たんでき)します。仕事で気分を「上」げて、アルコールで気分を「下」げることを企てます。

2つの異なる依存症になることで、心にバランスをとろうとするのです。2つはマイナスの形で強化し合い、ジェットコースター的悪循環に陥ります。

ちなみに、仕事は「行為」への、アルコールは「物質」への依存です。

仕事への興奮は心身に「過緊張」を生みます。興奮は、職場の雰囲気や人間関係を「緊迫」させます。この過緊張や緊迫は、なかなか緩みません。

そこで、鎮静作用物質を「過量」に使いたくなります。そのために、たとえば大量のアルコールを飲みます。

アメリカでは過緊張を強いられる状況の中で、優秀なビジネス・パーソンや学生が「アルコール」に加えて、鎮静作用のある「マリファナ」依存になるケースがままあります。ハーバード大学を筆頭とする優秀な大学の学生の間に、アルコール依存症やドラッグ依存症の患者が少なくありません。その学生たちは、依存症者でありながら、学問、人間関係、スポーツなどで優秀さを保持できるため「高機能」依存症者と呼ばれます。高機能ですが依存症をわずらっているため、暴力、うつ、自殺念慮、空しさに苦しむ人、心身を病む人、中長期的に人生を台無しにする人は少なくありません。

あなたの周囲に高機能依存者はいませんか?

私たちは、日本の優秀なビジネス・パーソン、弁護士、医師、税理士、金融関係者、教員、公務員やFBに携わる人たちに、「隠れ」高機能依存症者をセラピーでたくさん見てきました。社会的大問題、大損失だと考えています。

ワーカホリック(仕事依存症)という「行為」依存の人の多くは、アルコホリック(アルコール依存症)という「物質」依存もわずらっています。

しかしそれだけでなく、不倫や出会い系サイトや風俗などをつうじて、「共依存(人間関係依存)」にもハマっていたりします。この人は、パートナーや家族(親世代や子ども世代)とも、ほぼ間違いなく(高機能)「共依存」に陥っています。

依存症の恐ろしいところは、「依存」がアルコールあるいは仕事のような人生の「一側面」にだけでなく、気づくと、アルコール、仕事、浮気、家族など人生「全般」に出ていて、人を圧倒し苦しめる点です。

また、依存症者の人生では「当人」ではなく「依存症」が主役になっている点です。

ある依存症から回復したFBオーナーは、「自分の人生は依存症まみれで、暮らしの隅々にまで依存症がはびこっていた。依存症に人生を乗っ取られて、FBに迷惑をかけてきた」と述べました。

依存症からの回復支援や依存症家族へのセラピー実践から見えてきたのは、個人が依存症にかかっているとき、間違いなくその人のパートナーや家族も共依存をわずらっているという点です。

依存症は、たびたび世代間連鎖します。

こうした依存症から、オーナーシップやビジネスの側面に悪影響の出ていないわけはありません。だからFFIでは、依存症への注意喚起を毎年行っているのでしょう。

依存症への取り組みには、依存症をわずらっている個人だけではなく、パートナーや家族そしてFBのコミットメントが欠かせません。なぜなら、システム論的にはパートナー、家族、FBにも依存傾向や共依存が潜在している可能性が大きいからです。

もう1つ大切なこと。

依存症は、たとえばアルコール(鎮静的作用)だけでなく、その逆の仕事(興奮的作用)にも関係していました。また、人間関係にも浸透していました。

ですので、依存症からの回復にはアルコールにだけでなく仕事に、そして人間関係の全てに隈なく注視することが求められます。

これは、ワークスタイルとライフスタイルと両方の変化を必要とするでしょう。しかし、依存症があっても「高機能」の場合には、人生の破綻が「露呈する」まで上手に隠され続けることがままあり、大変危険です。

依存症の中核にあるのは

「『助けて』の言えないこと、言えないと思い込んでいること」
「甘えられないこと」
「頼れないこと」
「人間関係への不信感」です。

依存症からの回復には「素面さ(sober)」が、鍵になります。

回復が進展すると、家族とビジネスは共に健全さを獲得し、機能する良質でサステナブルなFBになります。それは、次世代が心から承継したくなるFBです。

あなたに是非、依存症に関心をもっていただき、FBの発展と永続性のために役立てていただきたいと思います。あなたがFBにおける依存症に興味があれば、ご一緒に学び、取り組みたいと思っています。

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