セラピスト/コーチと「心の発達段階」
今回は、プロのセラピスト、カウンセラー、コーチ、コンサルタントなどに必要とされる、心の発達課題/段階について、考えます。
今日、発達心理学では、次の4段階を、心の発達に想定しています。
(A)自己中心/自己愛的段階
(B)自分たち中心/他人軸・世間軸段階
(C)自分軸段階
(D)無心/無我段階
そして、セラピストやコーチが、プロとしての仕事をするには、心が、(C)の「自分軸」段階に、到達していなければならない、と考えられています。
しかし心の発達が(A)や(B)に留まったままの自称セラピストやコーチが、少なくありません。
(A)や(B)段階のセラピストやコーチが、心、精神、メンタルの支援をしたら、どうなるでしょうか?
セラピストやコーチが(A)の段階にいると、クライエントを、自分の自己愛的欲求を満たすための、手足にしかねません。
トランスパーソナル&統合心理学のケン・ウィルバーによると、心の専門家を名乗るセラピストやコーチで、この段階の人は少なくないといいます。
セラピストやコーチが、(B)にいる場合は、どんなことが起きるでしょうか?
心の成長が(B)段階にあるセラピストやコーチ、コンサルタントは、クライエントが「既存」のグループに適応するのを支援します。
しかし、既存のグループからクライエントが卒業し自立/独立することをサポートするのは、困難です。
(B)は、既存のグループの価値観に従順な、「善良な市民」の心を持つ人たちからなる発達段階です。
既存のグループとは、日本では、たとえば「世間」を指します。
既存のグループには、いろいろなものがあります。お砂場で遊ぶお友達グループ、村社会、ママ友、マイルドヤンキー、学級会、部活、日本的企業、同窓会、学会、ファミリービジネス・・・。
日本では、それらの背景には、基本的に世間の論理が働いているケースが、ほとんどです。
心がその段階にあると、人は、「他人が自分をどう思っているのか」「自分は嫌われていないか」「変な言動をしていないか」「他人から後ろ指をさされないか」「笑われていないか」「自分は評価されているか」などが気になって、不安で仕方がありません。
その人の目線や心のエネルギーは《常に》「外=世間」に流失して、心の内面に「自分軸」が育ちません。
この段階は、(A)の、「自己中心」的段階よりも発達、成長した自分《たち》中心主義的段階です。
「独り」よがりでなく、自分を抑えて、「自分たち」のことを、考えます。
しかし、そこにあるのは「他人軸/世間軸」です。そのため、周りをキョロキョロ見ること/盗み見することをやめられません。自分(軸)が、ないためです。
この段階は、(A)より発達していますが、(C)の「自分軸」中心段階よりも、低次の心です。
(C)は、心が(B)の他人軸/世間軸の段階を超えるところまで、成長しない限り、獲得不可能な「軸」です。
にもかかわらず、(B)の人は、(C)の自分軸を、(A)の自己中心的と、「同じ」だと《混同》して、とらえます。
(C)の「自分軸」を(A)の「自己中心性」と誤解するためです。(B)の心は、(C)の段階に到達したことがない/していないので、(A)と(C)との段階の、あるいは質(quality)の違いが、わかりません。
(A)と(C)とは、心の発達段階が、まったく異なります。
(B)に留まったセラピストやコーチは、クライエントが、自分たち中心主義段階を卒業して、「自分軸」を獲得するのを、支援できません。
自分たちの既存グループに適応したり、世間でうまくやっていくのをサポートすることはできます、が。
そうしたセラピストやコーチは、自分たちのグループや世間に従順で善良な人たちです。
他人軸/世間軸で動く人たちです。
K.ウィルバーは、この成長段階に留まった自称セラピストやコーチは、大変多いと述べます。
さて、(D)は、自分軸を相対化し、克服した「無心/無我」段階です。が、これは、自分軸のない他人軸中心の(B)段階とは、質が異なります。(B)も(D)も、自分を主張することの(少)ないことから、同じものと、勘違いされがちです。
が、まったく異なります。
(D)は、いつでも、(C)の自分軸段階に戻ることができます。一方、(B)は、(C)に行くことは、できません。(C)までの、心の成長を遂げていないためです。
(C)は、アブラハム・マズローの「自己実現」の段階、(D)は、彼が晩年フォーカスした「自己超越
(トランスパーソナル)」の段階です。
心の発達の専門家たちによると、心を成長させるには、「心」にまっすぐに焦点づけするアプローチが必要です。学歴や教養のあるなしは、その代替にはなりません。学歴や教養は、「心」の成長や成熟とは、基本的に関係がありません。
ちなみに、プロセラピストは、心を育成するために、自らが疑似的クライエント/患者になる(訓練分析)体験を、1セッション50分で、(学派によって異なりますが、少ないところで150~多いところで300回、数年にわたって)受けることが、課せられます。深層心理学の各流では、必須です。エネルギー、時間、金銭がかかります。
あなたが、プロのセラピストやコーチになることにご関心があれば、心の発達心理学を参照してみては、いかがでしょうか?
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ファミリー・ビジネスを持続・永続的に行うには、経営コンサルティングや税務アドバイスのような「ハード・スキル」と、ファミリー・セラピー(家族療法)のような「ソフト・スキル」の3面からの統合的支援が求められます。私は、家族の「癒し」と「再建」のためのファミリー・セラピーと、家族の健全さの「維持」と「予防」と「発展」のためのファミリー・アドバイスを34年にわたり行ってきました。
また、ファミリー・ビジネスのオーナーや大企業のエグゼクティブに対するコーチングにも、たくさん携わらせていただいています。
現在は事業承継・相続や経営について学び、各専門家と協力・協働しながら、日々ファミリー・ビジネス・アドバイスを行っています。
ファミリーとビジネスの結びつきを背景から支援するファミリー・セラピーに、より一層励んでいきたいと考えています。
現在、ファミリービジネス支援センター(FBSC)共同代表、セブン・スプリングス株式会社メンバー、一般社団法人FBAA・ファミリービジネスアドバイザー資格認定証保持者(フェロー)。
著書『痛みと体の心理学』(新潮社)他、訳書アーノルド・ミンデル著『オープン・フォーラム』(春秋社)他多数。