カップル関係とお金との関係とを支援する カップル・ファイナンシャル・セラピー
今回は、カップルセラピーとファイナンシャル・セラピーの相乗効果(シナジー)、および好循環を意図した「カップル・ファイナンシャル・セラピー(CFT)」について書きます。
ファミリービジネスでは、カップル関係またお金との関係は、中核テーマの1つですので、CFTの視座が、あなたに有益だと幸いです。
あなたは、カップルセラピーのまなざしが、あなたのお金との関係を健康で幸せにすること、またファイナンシャル・セラピーの観点が、あなたのカップル関係を豊かにすることをご存じですか?
日々のセラピーでは、お金とカップル関係についての訴えが絶えません。
たとえば、
- お金ことを考え始めたら心配で、夫婦2人とも安心して眠ることができなくなった。
- 借金返済のことを話題にしたら、言い争いになった(カップル間の衝突・戦争)。
- ファミリービジネスを営む夫婦で、パートナーに「Aさんをひいきしているのではないか」と質問したら、2人の間に会話がなくなり、家庭内離婚状態(夫婦間冷戦)が続いている。
- 投資の失敗について互いにいがみあい、相手を「敵化(enemyfying)」した状態にハマっていると、子どものアトピーが悪化する気がする。
- 貧乏な状況に対して無力な両親を見て、進学をあきらめたが、それが劣等感となって、恋愛を回避してしまう。
- 父親がギャンブル依存、母親が買い物依存という家庭で育った自分が、結婚したら相手を不幸にするのではないかと心配している。
CFTは、敵対的関係、葛藤関係にあるカップルが、ファイナンス(お金)の話題を起点に、生産的、クリエイティブ、そして親密な関係になる支援について取り上げます。
お金についてオープンに語ることのできるセラピーの現場は、今でもほとんどありません。
セラピストやカウンセラーが、お金にタブー意識や偏見をいだいているためです。
が、お金との健康で豊かな関係は、カップル関係の健康さや幸福に、密接に関連しています。
ですので、セラピー、カウンセリング、コーチングでは、カップルや夫婦関係におけるお金について、積極的に取り上げ話題にし、取り扱うことが求められます。
CFTは、そうしたニーズを潜在的にもっているあなた、またファイナンス(お金)に関する感情、考え、気持ち、思いを主体的、能動的に取り扱いたい、と希望するセラピスト、カウンセラー、コーチ、そしてファイナンシャル・プランナーやアドバイザー、に向けたものです。
さらに、カップルセラピーの実践に興味にあるあなたにも、有益です。
さて、いま着目されている”wellbeing (ウェルビーイング)”は、「健康」や「幸せ」と訳されます 。
wellbeingを 、分解して見直すと、” well “は「良く」、”being” は「存在すること」。
つまりwellbeing とは「良く存在すること」となります。
するとwellbeingが、西洋的なあり方、存在の仕方であることがわかります。
なぜなら東洋思想にはbeingという単独的存在はなく、あるのは”inter-being(間的存在あるいは関係的存在)”だからです。
間(あいだ)的存在とは、「間(の)人」つまり「人間」です。
哲学者の西田幾多郎は、それを「じんかん(人間)」と呼び直しました。
東洋的には、私たちは、自分独りでbeing(存在すること)はできません。
そうではなく、人と人との「関係」や「間」によって存在します。
であるならば、wellbeingを、”well inter-being(ウェル・インタービーイング)”と書き直すと、いいのではないでしょうか?
ウェル・インタービーイングは、私たちに、よりぴったり、しっくりと来るように思われます。
ウェル・インタービーイングとは、「あなたの健康で幸せなことが、私の健康や幸せ」あるいは
「あなたと私の『関係』や『間』が健康で幸せなことが、あなたと私の健康や幸せ」とするありようです。
CFTでは、カップルの健康や幸福と、カップルのお金との関係の健康と幸福とが、補完しあい、反映しあっている、とする点に着目します。
ファイナンシャル・セラピーによると、お金との健康で幸せな関係を持っている人は、健康で幸せなカップル関係の育成を意図しています。
お金との豊かな関係には、カップル間の信頼、誠実、絶え間ないコミュニケーションが、見られるといいます。
カップルにおけるお金の健康や幸福をはばむものに、「ファイナンシャル・トラウマ(FT)」があります。
FTは、お金について、親から受けた小さなトラウマの積み重ねによる場合もあれば、自分に影響を及ぼす対人関係で被った大きなトラウマのことによる場合もあります。
FTは、カップルの健康や幸福と、お金との健康で幸福な関係の両方に、重大なマイナス影響をもたらします。
その癒しは欠かせません。
ファイナンシャル・セラピーによると、私たちのお金についての行動は、私たちの健康な考え、あるいは幸せを願った望みからではなく、過去に経験したFTを回避する「防衛」のためであることが少なくありません。
お金儲けにこだわること、お金を使わず溜め込むこと、見栄を張ること、禁欲的に働くこと、無理な投資すること、宝くじを買い続けること、ギャンブル依存、買い物依存、浪費などは、(実は)「我欲(エゴ)」のためではなく、癒えていないFTの再燃を「防ぐ」ためだというのです。
しかし、防衛がトラウマを真に癒すことは、ありません。
FTの癒しには、外的な人間関係と、心の内なる人間関係の、2側面に着目することが求められます。
心の「内的」人間関係へのまなざしは、ファイナンシャル・プランナー、アドバイザー、コーチに、欠落している点です。
近年の行動経済学、脳科学、対人関係生物学によると、私たちのファイナンスに関する行動の、何と90%以上は(脳の合理的側面からではなく)、非合理的側面からなされています。
ですので理性的で数字に強く頭のいい人が、こと自分のお金となると、非合理的に考え振る舞ってしまう、といいます。
大切なのは、非合理的側面、たとえば感情、無意識、身体性に、目を向けることです。
非合理的側面と、ファイナンシャル・トラウマ(FT)とは意識の水面下で絡み合い、悪循環、悪影響を生みます。
カップル関係が難しいのは、2人の「過去」に被ったFTが、(間違いなく)「今」のカップル関係で再演されてしまう点です。
お金は、カップルにとって回避できないテーマです。そのため、FTとの真摯な取り組みが、2人のウェル・インタービーイング育成に欠かせません。
お金とカップルという切っても切れない関係、それは複雑さ、想定外、不思議さを(いっぱい)潜在させています。
CFTは、その不可思議さ(wonder)を尊び、あなたのお金との関係、そして人間関係とから(不思議さがなくなるのではなく)”wonderful(=full of wonder)” 、つまり不思議さでいっぱい、ワンダフルになる支援について教えます。
それは、お金とカップルのウェル・インタービーイングを育成するでしょう。
カップルセラピーとファイナンシャル・セラピーの相乗効果、好循環、ウィン-ウィン関係を生むでしょう。
Author Profile
ファミリー・ビジネスを持続・永続的に行うには、経営コンサルティングや税務アドバイスのような「ハード・スキル」と、ファミリー・セラピー(家族療法)のような「ソフト・スキル」の3面からの統合的支援が求められます。私は、家族の「癒し」と「再建」のためのファミリー・セラピーと、家族の健全さの「維持」と「予防」と「発展」のためのファミリー・アドバイスを34年にわたり行ってきました。
また、ファミリー・ビジネスのオーナーや大企業のエグゼクティブに対するコーチングにも、たくさん携わらせていただいています。
現在は事業承継・相続や経営について学び、各専門家と協力・協働しながら、日々ファミリー・ビジネス・アドバイスを行っています。
ファミリーとビジネスの結びつきを背景から支援するファミリー・セラピーに、より一層励んでいきたいと考えています。
現在、ファミリービジネス支援センター(FBSC)共同代表、セブン・スプリングス株式会社メンバー、一般社団法人FBAA・ファミリービジネスアドバイザー資格認定証保持者(フェロー)。
著書『痛みと体の心理学』(新潮社)他、訳書アーノルド・ミンデル著『オープン・フォーラム』(春秋社)他多数。