自己心理学と理想

今回は、アメリカで最も人気があり、アメリカのファミリービジネス(FB)の人たちの利用する機会の多い「自己心理学(self psychology)」から、『理想』について書きます。

なぜなら、理想は、FBにとって不可欠な「ビジョン、ミッション、目的、目標、北極星」の土台となるからです。

あなたは、あなた個人の理想を思い描くことができますか?
《真に腑に落ちる》理想を見出すのは、難しくないでしょうか?
では、あなたのFBの目標、目的、ビジョン、ミッション、北極星については、いかがですか?

オリジナルの理想、目標、目的、ビジョン、ミッション、北極星を見出すのに、苦悩している人やFBは、少なくありません。

1960年代から、フランスのポストモダン思想の影響が徐々に強くなり、欧米そして日本の大学の社会科学および人文科学の世界では、理想はよく言って「相対的」、悪く言って「幻想/妄想で、無意味」
と捉えられるようになりました。1990年代になると、理想を語るのは時代遅れかまたはダサイ、と解されるようになりました。

しかし、近年の脳科学によると、私たちの脳は、世界、事象、内的出来事を「意味付け」しないことはできません。ですので、人生に意味、理想、目標を持たない場合、脳は、文字通りに意味、理想、目標がない、と理解せ《ず》、

「意味、理想、目標がない」を、人生の意味、理想、目標としているのだ、と捉えます。すると、あなたは、意味、理想、目標がない人生を理想として、邁進することになります。あなたの理想は、いわゆる「虚無主義(ニヒリズム)」となるでしょう。

すると、あなたの脳や無意識は、虚無や無意味に向かって仕事をし、生活をすることになります。

さて、自己心理学に話を戻しましょう。自己心理学によると、私たちの心あるいは自己(self)は、「2つの極」から成ります。その2つの極のバランスが保たれている時、心または自己は、健やかな状態になる、またイノベイティブな創造性を発揮する、といいます。

2つの極とは、「野心の極」と「理想の極」です。

子どもは、「自己対象(selfobject)」を必要とします。「自己(self)」と「他人/相手/対象(object)」とは、元来、別の存在です。が、自己心理学では、「自分であり、相手でもある存在」を想定し、それを一語(one word)で綴る「自己対象(selfobject)」という言葉を創作しました。

自己対象の1つは、「自分の思ったように自分を承認し、ほめてくれる存在」です。

それは、自分の心に移植され、内面化されると良い存在です。それには、まず、心の外側で、承認しほめてくれる存在が、必要です。

それは、たとえば、子どもがお砂場でお城を作ったら、「〇〇ちゃん、素敵なお城を作ったわね。ママは嬉しくて、誇らしいわ!」と喜んでくれる外的存在です。

自己心理学は、私たちは幼少期に、万能で全能の「誇大自己」イメージを、心に抱くといいます。「僕/私は、すごいんだ、偉いんだ」と妄想するのです。それは、妄想ですが、子どもがそう想うのは健全です。また、子どもの心や自己が健全に成長するには、そうした万能的な勘違いを抱くこと(抱ける能力)が、大切です。

子どもの誇大自己に対して、「立派なお城を作れて、すごいわね。よかったね。おめでとう」と応答すると、誇大自己は満足して、《気持ちが収まり》、質のいい「野心(=やる気)の極」が、心の内側に育成されます。承認しほめてくれる外側の自己対象~たとえば応援してくれる優しいママ~が、心に移植され、内面化されたからです。

一方、質のいい野心の極の欠落している人は、幾つになっても「承認し、ほめて」もらいたくて、仕方がありません。いつも「俺/私はすごい偉い」と思わずにはいられません。子どもの時に、《適切に》認めてもらったり、ほめてもらったり、しなかったため(=欠損感のため)です。

すると、その野心=やる気の極は、貧相な状態となります。ですので、やる気、本気が出なかったりします。やる気が出ても、空元気で、気持ちや気分を無理やり盛り上げて、ガンバらなければならず、疲労や疲弊が絶えません。

それをごまかすための、アルコール、セックス、ポルノ、ギャンブル・・・の依存症がよくあるのも、貧相なまたは欠損した野心の極の特徴です。

もう1つの極は、理想の極です。これは、生き方の『方向性』や『道徳』『倫理』を身につけるうえで、不可欠な極です。それには、『理想的な自己対象』が、必要です。

自分の思った通りの/自分の想いの延長線上にある、期待通りの万能的な存在、または尊敬できるスゴイ存在が、「理想化自己対象」です。

その存在の下にいると、私たちは「誇り」や「安心感」を持つことができます。

そして「立派なお父さん/お母さんのようになりたい」と思ったり、「悪事をしてはいけない」「道徳的に生きたい」などと、自己規制する欲求が、自ずと芽生えてきます。こうした経験を積み重ねる過程で、良質な理想の極が《内面》に築かれます。

そのために、私たちは、尊敬できる親や理想化できる先生や師匠、セラピストを必要とします。そうした外的な自己対象が、内的自己対象として、心に根づくのを、自己心理学のセラピストは、支援します。

ここに問題があります。現代人は、心ないし自己が《満たされる》には「承認」や「ほめてもらうこと」が必要だと思い込んでいます。しかし、それは半分正しくても、半分は誤りです。なぜなら、「承認してくれる人」と『憧れることのできる人』との2つが、必要だからです。

が、現代では、理想の対象は、相対的で、時代遅れ、と思われています。自分が充足するのに、そうした《外側》の理想化対象が必要などとは、夢にも思われていないし、聞いたこともないでしょう。結果、心の《中》の理想の極は、貧相になります。

すると、心は満足しません。満足しないので、承認と褒められることを、さらに得ようとします。もっとほめられれば心が満たされる、と勘違いをします。が、さらなる承認の獲得『成功』は、2極のバランスを、著しく悪化させて、心あるいは自己の状態を不安定にします。

現代人のアンバランス状態の心は、理想を思い描くことの大切さを、理解していません。
心に北極星がないため、迷い子になっています。生きる目的がなく、進む方向性がわかりません。羅針盤(コンパス)が、ありません。こうした人が、現代人には多い。
気づかれてはいませんが、75歳の後期高齢者になっても、この問題を抱えた人は、少なくありません。

すると、目の前の短期的利害、損得、勝ち負け、快不快に左右される刹那的生き方をする以外にない、といったことになりかねません。が、利益、勝利、快楽を得ても心は空虚です。

こうした人は、いつも、どこか不満足、不機嫌、不愉快で、イライラしています。

そうした生き方は、ベビーブーマーや団塊の世界の世代が生まれた1960年代以降、欧米と日本とに、急激に増えました。理想、目標、目的、ビジョン、ミッション、北極星を妄想、無意味、ダサイと切り捨て、行く道、方向性を見失った人たちのライフスタイルです。

理想を失い迷子になった心に対して、どうするといいのでしょうか?
意識していようとしていまいと、現代人に蔓延している虚無主義に、どう対応したらいいのでしょうか?

自己心理学が、有益です。それは、理想の極の貧困や欠損のある心の修繕と癒しのための最良のセラピーです。FBをいい形で末永く経営するには、良質な目標、目的、ビジョン、ミッション、北極星の確立が欠かせません。私たちは、自己心理学を参照し、FBとそのファミリーの理想、ビジョン、ミッション、目的、羅針盤の創造と育成の支援を行っています。このための具体的方法については、いつでもお問い合わせください。

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