「情動」に働きかける「脳科学的関係セラピー」とは?
死が迫ったとき、人が「後悔」するのは、どのようなことでしょうか?
亡くなっていく人を支援する中で、私たちが経験したのは、たとえば
・もっと金儲けをすればよかった
・地位や名誉が、ほしかった
・立身出世できず、立派になれなくて残念だ
といったことではありません。
そうではなく、
・がむしゃらに働いてきて、親密な関係をないがしろにしてしまった
・もっと人間関係を良好なものにするために、時間を使えばよかった
・家族に、もっと愛情を表現しておけばよかった
・つまらないプライドなんか捨てて、ちゃんとパートナーや子どもに、あやまっておけばよかった
・対人関係や家族関係についてのセラピーをもっと早く、真摯に受けておけばよかった
といった、人間関係にまつわることがほとんどです。
では、どうすれば、親密な人間関係が、良好で豊かなものになるでしょうか?
「心の二人三脚」を心がけることです。
「同期/共時(シンクロナイズ)」に着目することです。
(心の)二人三脚がうまくいくと、それだけで妙に幸せで、嬉しく、楽しくて、その日一日豊かな気持ちになる、ということがあります。
それは、相手と自分との間に「同期」が起きるからです。
『サピエンス全史』の著者ユヴァリ・ハラリによると、他の種に比べて肉体的に脆弱な人類(サピエンス)が、生存戦略として選んだのは、「他者と関係的/集団的」に生きることです。
その選択は、人類のDNAの中に、刻印されているといいます。
関係的に生きることを選んだサピエンス(人類)にとっての最大の喜び(の1つ)は、他者との同期にある、と私たちは考えています。
親密な人間関係での同期不全や同期欠如に関する後悔について、死の床で物語る人を、たくさん見てきました。
さて、豊かな同期は、自然発生的に生じます。
それは、ジャズのインプロビゼーション(即興)のようです。
この「同期」は、「同調圧力」とは異なります。
あなたは、同期/共時(シンクロナイズ)と、同調(圧力)との質的相違について、ご関心がありますか?
新しい精神分析的発達心理学を確立したダニエル・スターンは、お母さんと赤ちゃんや、セラピストとクライエントの間における最も大切なものを「情動調律(affect attunement)」と述べました。
それは、相手の情動/感情/情緒(affect)に、チューニング(attunement)する能力です。
情動/感情/情緒のチューニングに必要なものは、認知や思考ではありません。
それには、同期(シンクロ)への感性が求められます。
調律や同期は、従来の心理セラピーで、主に用いられてきた認知や思考では、到達できない領域です。
(注、これまでのセラピーは、「認知」や「思考」をベースに素るものがほとんどでした。
いま、心理セラピーの最先端は、「情動」「脳科学」「身体性」「関係性」を総合したものです)
情動の調律には、ジャズ・ミュージシャンのような即興性や調律に向けた関係(間主観的的)センスが必要です。
対人関係神経生物学(という最先端の心理学)によると、情動の調律は、認知優位の左脳によってではなく、右脳と右脳との目に見えない交流を通じて行われている、と述べます。
それは、fMRI(脳画像検査法)によって、明確に見える化され、証明されるようになりました。
右脳と右脳との目に見えない交流は、どのように行われているのでしょうか?
それは、(何と)千分の1秒以下の超高速で起きていますが、たとえば顔の表情、言葉のトーン、匂い、触覚的感覚、雰囲気、距離感などを通じて、です。
それは、お母さんと赤ちゃんとのやり取りに顕著ですが、セラピストやコーチとクライエントとの交流においても、同様に起こります。
腕のいいセラピストは、認知や思考とは異なるレベルや領域におけるやりとり、すなわち顔の表情、言葉のトーン、匂い、雰囲気、距離感を通じた交流に、そしてその間合いのセンスに長けています。
右脳間のやり取りを重視する精神分析家のアラン・ショアは、顔の表情や言葉のトーン、匂いや雰囲気、距離感に着目するセラピーは、「技法」を超えたやり方~つまりセンスによるもの~である、と述べています。
また、セラピーの「中身」でなく、「プロセス」や「コンテキスト(文脈)」を重視すると指摘します。
それは、認知の生まれる以前の(0歳~2歳前後の)情緒領域でのトラウマや解離に働きかけるセラピーです。
それが求められるのは、この情緒領域でのトラウマ(=発達性/複雑性トラウマ)が、アルコール、ギャンブル、ゲーム、薬物、摂食、セックス、買い物などの依存症、共依存、DV(家庭内暴力)、各種パーソナリティ障害、発達障害、精神病な、双極性障害どに、密接に関係しているからです。
今あげたた精神/心理的課題に苦しんでいる人のいるファミリービジネスやファミリーに、対人関係神経生物学セラピーを、お勧めします。
Author Profile
ファミリー・ビジネスを持続・永続的に行うには、経営コンサルティングや税務アドバイスのような「ハード・スキル」と、ファミリー・セラピー(家族療法)のような「ソフト・スキル」の3面からの統合的支援が求められます。私は、家族の「癒し」と「再建」のためのファミリー・セラピーと、家族の健全さの「維持」と「予防」と「発展」のためのファミリー・アドバイスを34年にわたり行ってきました。
また、ファミリー・ビジネスのオーナーや大企業のエグゼクティブに対するコーチングにも、たくさん携わらせていただいています。
現在は事業承継・相続や経営について学び、各専門家と協力・協働しながら、日々ファミリー・ビジネス・アドバイスを行っています。
ファミリーとビジネスの結びつきを背景から支援するファミリー・セラピーに、より一層励んでいきたいと考えています。
現在、ファミリービジネス支援センター(FBSC)共同代表、セブン・スプリングス株式会社メンバー、一般社団法人FBAA・ファミリービジネスアドバイザー資格認定証保持者(フェロー)。
著書『痛みと体の心理学』(新潮社)他、訳書アーノルド・ミンデル著『オープン・フォーラム』(春秋社)他多数。