「問題の外在化」~家族療法やナラティブセラピーのテクニック~

あなたは、家族で世代間連鎖する心の負債について聞いたことがありますか?

今回は、心の負債を「問題の外在化」から考えます。

問題の外在化は、家族療法やナラティブセラピーで使われる洗練されたテクニックです。

ある共依存夫婦では、夫はギャンブル依存症に、妻は慢性的なうつ状態に陥り、行き詰っていました。

夫が言うには、「妻が落ち込んで家庭が暗くなるので、ギャンブルをして気分を持ち上げる」とのことです。

一方の妻の言い分は、「夫がギャンブルにはまってお金を浪費するので、そのたびに気分が落ち込み、うつ状態になる」でした。

夫は妻のせいで、妻は夫のせいで、2人の関係が悪くなっている、と考えています。

こうした考えは「直線的」因果論とよばれます。

それは、原因や悪者を「特定」するアプローチです。

一方、家族療法は、「妻が落ち込んで家庭が暗くなるので、ギャンブルをして気分を持ち上げる」と、「夫がギャンブルにはまって、お金を浪費するので、気分が落ち込み、うつ状態になる」とは、循環してグルグル回っている、と考えます。

大事なのはどちらが原因か、悪者か、の特定ではなく、2人が陥っている「(悪)循環」や「パターン」に着目することだ、と述べます。

この見方を「循環的または円環的」因果律といいます。

ちなみに「共依存」の観点は、「妻が落ち込んで家庭が暗くなるので、ギャンブルをして気分を持ち上げる」と述べる夫と、「夫がギャンブルにはまって、お金を浪費するので、気分が落ち込み、うつ状態になる」という妻とは、

どちらも「共依存関係」が強化され、悪化するように無意識裡に加担しあっている、と考えます。

夫と妻は、共依存の「共犯者」です。

 

さて、夫の実家では、父も、祖父も、曾祖父も「ギャンブル」中毒でした。

そこで、ナラティブセラピーは世代をまたいで家族で連鎖する「ギャンブル中毒 / 依存症」に目を向けます。

夫や妻のパーソナリティ(人格)を問題とするのではなく、「ギャンブル依存」に着目し、それを「課題」と考え「外在化 / 見える化」するのです。

そして、「ギャンブル依存」が、曾祖父、祖父、父、夫と、多世代にわたって承継されてきた「家族の心の負の遺産あるいは借金」ととらえるのです。

「ギャンブル依存」を、家族の心の負の遺産あるいは借金の「裏にいるボス」と擬人化して見てみるのです。

これは、夫や妻の人格を否定したり、病気とみなしたりする見方や考え方を回避するテクニックです。

代わりに、今のマイナスの夫婦関係を生み出した、あるいは夫婦関係に入り込んできた「ギャンブル依存」という問題(裏ボス)に、どう対処すればいいか、と考えるのです。

すると夫と妻には、協力してギャンブル依存に取り組もうとする可能性が生まれます。

 

そこに、2人からなる ” We(私たち) “あるいは「チームワーク」 の形成される余地が出てきます。

 

セラピストが、 ” Weチーム ” に加わるのは当然ですが、夫の父母、また祖父母も、そこに参画するかもしれません。

が、問題はまだあります。

妻の実家では、妻の母も、祖母も、実は、うつ病を患っていたからです。

その「うつ状態」も多世代的な家族の心の課題です。

うつ状態は、「お金の貧困妄想」を、たびたび生じさせます。

ですので、「ギャンブル依存」の外在化だけでは、足りません。

「うつ状態」の見える化も必要です。

 

さらに、「ギャンブル依存」と「うつ状態」との『関係』や『悪循環』を外在化しなければなりません。

その作業は、大変困難で面倒くさく映ります。

しかし、やりがいのある心と関係性の仕事です。

なぜなら、「承継されてきた家族の負の遺産あるいは借金」を、丁寧にこつこつ返済する作業をしていると、心に筋肉がつき、陶冶されて、人格に深みや厚みができてくるからです。

それは肉眼には見えませんが、手ごたえ、生きている実感、納得感の伴う良質な作業です。

その作業が進むと、それまで曖昧でよく把握できなかった「家族(とういもの)」が、自分にとってどういうものか、心の内側から見え始めたりします。

そのときあなたは、腑に落ちる形で家族と関わり始めるでしょう。

 

あなたがセラピストやコーチであれば、クライエントの家族に関する課題〜心の負の遺産や借金〜に、まっすぐに寄り添うことができるでしょう。

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