夫婦・カップル療法
1)近年、夫婦療法やカップルセラピーのニーズが高まっています。しかし、この領域で専門的トレーニングを積んだセラピストはほとんどいません。
そのため、セラピストやコーチが、夫婦やカップルの悩み、課題、訴えに、適切に応えることができていません。
個人セラピストやコーチが、従来のやり方の延長や応用で、夫婦・カップル療法を行っても良質な支援を提供できません。かえって、関係性を悪化させてしまうことさえあります。
たとえば、個人カウンセリングで当たり前とされてきた傾聴や共感が、夫婦やカップルの関係の分断を助長したりします。
2)なぜでしょうか?
従来の個人を対象としたカウンセリング、セラピー、コーチングとカップルや夫婦を相手にしたセラピー、コーチングとの「枠組み(パラダイム)」や「質」が異なるからです。
今までのカウンセリング、セラピー、コーチングのほとんどは、「個人(I)」に向けたものでした。
一方、夫婦やカップルに向けたセラピーやコーチングは、「関係性」「システム」「私たち(We)」「チーム」を対象としたものです。
3)夫婦・カップル療法には、「I」から「We」へのパラダイムシフトが必要です。
パラダイムシフトには、「質的」「次元的」「構造的」変化が伴います。
4)それを無視した「個人」セラピーは、「カップル・夫婦関係」を『内側』から崩壊させます。
一見、非侵襲的な傾聴や共感であっても、そうです。
この点に無知で、善意の個人療法家は少なくありません。
5)なぜ「個人(I)」への眼差しが、「関係性」「システム」「私たち(We)」「チーム」を破滅させるのでしょうか?
「I」と「We」とに、『次元的』『構造的』違いがあるからです。この違いについて知らないためです。
この点を明確に指摘したのが、思想家アーサー・ケストラーの「ホロン(holon)」という切り口です。
それは、統合的心理学のケン・ウィルバーが、継承したことで知られています。
私たちは、ホロンの切り口を、夫婦・カップル療法に応用しています。
6)夫婦・カップル療法では、まず「個人(I)」と「私たち(We)」との構造、次元、質の違いをはっきりとさせていきます。
そして、夫婦やカップルの語りの中で、どの発言が「個人(I)」に基づいたものか、また、どのやりとりが「私たち(We)」をベースとしたものか、見極めることを実践しています。
7)次に、「私たち(We)」を起点としたコミュニケーションが、「個人(I)」次元のやりとりに、陥らない介入や工夫を試みます。
ここでいう「We」は、カップルや夫婦の「肯定的」アイデンティティ、「プラス」のやりとりや交流、「ウィン-ウィン」のコミュニケーションを指します。
適切な介入や工夫がなければ、夫婦やカップルは、「私たち(We)」の次元から「個人(I)」の次元へ(早晩)退行し、関係性は分断、解体されてしまいます。
なぜなら夫婦・カップル関係で、「個人(I)」次元にあるのは、やりとりの「行き詰まり」や交流の「不在」、あるいは「ルーズ-ルーズ」のコミュニケーションである場合が、少なくないからです。
8)夫婦やカップルの肯定的やりとりや交流、ウィン-ウィンのコミュニケーションを促し、やりとりの行き詰まりや交流の不在、あるいはルーズ-ルーズのコミュニケーションを回避するには、個人療法では用いることの(少)ない「マネージメント」「カットイン」「ブレーキ」といった技法を率先して用いる必要があります。
9)このとき大切なのは、『セラピスト側』のパラダイムシフトです。
パラダイムシフトが叶うならば、従来の個人療法も、個人療法で使われてきた技法〜たとえば傾聴や共感〜も、みな夫婦・カップル療法の「要素」として有効活用することができます。
この考え方は、セラピーやコーチングの異なる学派を超えて、全ての「個人」療法に当てはまります。
ですので、これまで「個人」セラピーやコーチングを実践してきたあなたに、夫婦・カップル療法のパラダイムを、ぜひ学んでいただきたい。
10)が、セラピスト側のパラダイムシフトは簡単ではありません。
その理由と対応策について、ご関心があれば、ご連絡ください。
あなたが個人を対象としたカウンセラー、セラピスト、コーチ、アドバイザーで、これから夫婦やカップルの支援を希望しているなら、セラピスト側のパラダイムシフトについて、学んでいただきたい。
11)セラピーに来る夫婦・カップルの多くは、基本的に「信念対立」に陥っています。
双方が、それぞれ「私個人(I)」の「信念(belief)」に執着し、「自分は正しい」と思い込んでいます。
相手が「正しい」(かもしれない)と思うことはまずありません。
そんな信念対立への処方箋の1つは、『メンタライズ能力』です。
12)メンタライズとは、「相手の目線から自分(の信念)がどう見えるか、リフレクト(熟考・想像)する能力」です。
それは、従来の共感や理解の一歩先を行くものです。
メンタライズは、「相対化能力」で、関係性を豊かにします。
夫婦・カップル療法の中で、どうすれば2人にメンタライズ能力が身につくか、具体的に学びませんか?
それは、夫婦やカップルに、「私たち(We)」「関係性」「チーム」の観点を育成します。
13)さらに、「We」にもまして重要なのは、「Not-We(私たちでない私たち)」です。
これは、ソリューション・フォーカスト・セラピーで『例外』と呼ばれるものであったり、プロセスワークの「カップルの(夜)見る夢」であったりします。
「Not-We」は、「We」のシャドウ(影)です。
Not-We(影)への眼差しは、不可思議で、奇跡的で、魔法のような治癒を、時に喚起します。
No-Weについて理解できると、あなたは、夫婦・カップル関係の中で、畏怖に満ちた、豊かで不可思議な体験を促すことができるでしょう。
No-Weへの眼差しは、夫婦・カップル療法におけるプロと素人とを分かつ点です。
14)夫婦やカップルは、ファミリーやファミリービジネスの中核に位置する大切な関係性です。
あなたが、ファミリーやファミリービジネス支援に興味があるなら、夫婦・カップル療法について、是非、学んでください。
Author Profile
ファミリー・ビジネスを持続・永続的に行うには、経営コンサルティングや税務アドバイスのような「ハード・スキル」と、ファミリー・セラピー(家族療法)のような「ソフト・スキル」の3面からの統合的支援が求められます。私は、家族の「癒し」と「再建」のためのファミリー・セラピーと、家族の健全さの「維持」と「予防」と「発展」のためのファミリー・アドバイスを34年にわたり行ってきました。
また、ファミリー・ビジネスのオーナーや大企業のエグゼクティブに対するコーチングにも、たくさん携わらせていただいています。
現在は事業承継・相続や経営について学び、各専門家と協力・協働しながら、日々ファミリー・ビジネス・アドバイスを行っています。
ファミリーとビジネスの結びつきを背景から支援するファミリー・セラピーに、より一層励んでいきたいと考えています。
現在、ファミリービジネス支援センター(FBSC)共同代表、セブン・スプリングス株式会社メンバー、一般社団法人FBAA・ファミリービジネスアドバイザー資格認定証保持者(フェロー)。
著書『痛みと体の心理学』(新潮社)他、訳書アーノルド・ミンデル著『オープン・フォーラム』(春秋社)他多数。