オーナーよ、大欲をいだけ(Owners, be ambitious)!
今回は「トランスパーソナル心理学」から始めます。ファミリービジネスに大変有益な心理学だからです。
トランスパーソナル心理学は、ビジネス界でよく知られるアブラハム・マズローや、U理論に多大な影響を与えたケン・ウイルバー、スティーブ・ジョブズが敬愛したラム・ダス(リチャード・アルパート)、「ジェネラティビティ」のエリック・エリクソン派の心理学者らによって、確立されました。
(注、旧トランスパーソナル心理学研究所=現ソフィア大学院大学には、トランスパーソナル心理学に基づいたユニークなMBAプログラムがあります。ご関心のある方はこちらを参照してください。https://www.sofia.edu/ )
マズローは、欲求の5段階説の人と勘違いされていますが、アメリカでは6段階説者として知られています。
彼の心理学は「欲求」~欲深さ、強欲さ~ について、徹底的に追求した結果打ち立てられました。
マズローによると、欲求を深めていくと、金銭や権力や名誉や承認の欲求を突き抜けて、「自己実現」欲求、さらには「トランスパーソナル(超個人)」欲求が表れてきます。
彼は、多くの人はたいして「欲深く」ないので、金儲け、権力、地位、名誉、承認という底の「浅い」欲求段階に留まったまま、事足りると誤解し人生を終える、しかし欲望には、さらなる「深み」がある、といいます。
マズローは、大成功したビジネス・オーナーなどについて研究していくと、彼/彼女たちが、自己実現、さらには超個人(トランスパーソナル)的欲求を精神の「深み」に見出している、と書いています。
日本でも、大成功したビジネス人の書いた自己啓発書がよく読まれていますが、その理由の1つは、そこに「深い」欲望について述べられているからではないでしょうか?
『理趣経』の著者で高野山大学元教授の松長有慶氏によると、弘法大師空海は、仏教僧であるにもかかわらず「欲」を否定するどころか、「大欲」を勧めたといいます。
空海の大欲と、マズローのトランスパーソナル欲求とは相通じます。
トランスパーソナル(transpersonal、超個人的)欲求とは、個人を「超えた」社会的・世界的、グローバルな広がりと、自分の世代を「超えた」将来世代と、スピリチュアルな「深まり」の3つを見据えた「大欲」です。
仏教は「欲望」を苦しみ、迷い、煩悩の根源と考え否定しますが、空海やマズローは欲を深め、大きくすることを考えたのです。
大欲は、社会性や世界性、ジェネラティビティ(創造的事業承継性)とスピリチュアリティとを秘めていて、仏教の「無欲」に通じる欲望です。
なぜなら大欲は、病的自己愛、利己心、自己中心性、つまり「パーソナルな我欲」を抑制できなければ開花しない強欲だからです。
私たちは、ファミリービジネスのオーナーやメンバーには、欲を深め大きくしていただきたいと考えています。
クラーク博士の有名な言葉 “Boys, be ambitious!(少年よ、大志をいだけ!)”があります。その文章の”ambitious(大志)”は、「大欲」も意味します。
私たちは、”Owners, be ambitious!(オーナーよ、大欲をいだけ!)”と応援したい。
大欲は、個人的欲望を「量」的に増やしたものではありません。
欲の「質」を変化させ、深めて大きくしたものです。
あなたには、金品、権力、地位、名誉、承認といった底の浅い欲求を満たすためだけに、ファミリービジネスに携わっていただきたくない。
もっと「欲深く」なって、自己実現さらには自己超越レベルの欲望に触れるファミリービジネスを経営してほしい。
あなたが自己超越的大欲を持つと、あなたは、あなたのファミリービジネスの意義、意味、目的、使命を深いところから、納得する形で想い描けるようになるでしょう。
すると、あなたは、心の底からやる気、エネルギー、喜びを感じ、自己一致してファミリービジネスにコミット(参画)できるようになります。
そのあなたが、ビジネスやファミリーで、上手くいかないわけはありません。
失敗は不可避ですが、良質な意味、意義、目的、使命のお陰で、七転び八起き(レジリエント)力を発揮し、失敗を乗り越えることができるからです。
それに呼応して、あなたのファミリービジネスの金銭面、経営面での中長期的な儲けや繁栄が可能になります。
子どもたちも、豊かな心で事業承継に参画するでしょう。
以上は、マズローのトランスパーソナルな経営理論を基にした考え方です。
大欲は、あなたやあなたのファミリービジネスのパーソナルな欲求と、地域、社会、世界、グローブ(地球)の欲求との両方を含んで超えたホリスティックな欲深さです。
問題は、どうすれば大欲をいだくことができるか、です。
金儲け、権力、地位、名誉、承認の欲求という小欲を持つことは、誰にでもできます。
が、大欲をいだくことは、簡単ではありません。
その難しさは、あまり知られていませんし、欲望なんて誰にでも容易にいだける、と舐められ甘く見られています。
しかし、大欲を描くことは、とても大変です。
だから空海は、それを意識し、意図するように勧めたのです。
あなたに「欲深く」なっていただきたい。
小欲は簡単です。
誰もが持っている本能に従えばいいだけのことですから。
あなたは、大欲の持ち方に関心がありますか?
それは「オーナーコーチング」の中核的テーマです。
「なぜ(why)」大欲を描く/持つのが難しいのでしょうか?
「どうすれば(how)」大欲をいだけるのでしょうか?
あなたがこうした点に興味があれば、ご一緒に取り組みませんか?
あなたの大欲は、何ですか?
Author Profile
ファミリー・ビジネスを持続・永続的に行うには、経営コンサルティングや税務アドバイスのような「ハード・スキル」と、ファミリー・セラピー(家族療法)のような「ソフト・スキル」の3面からの統合的支援が求められます。私は、家族の「癒し」と「再建」のためのファミリー・セラピーと、家族の健全さの「維持」と「予防」と「発展」のためのファミリー・アドバイスを34年にわたり行ってきました。
また、ファミリー・ビジネスのオーナーや大企業のエグゼクティブに対するコーチングにも、たくさん携わらせていただいています。
現在は事業承継・相続や経営について学び、各専門家と協力・協働しながら、日々ファミリー・ビジネス・アドバイスを行っています。
ファミリーとビジネスの結びつきを背景から支援するファミリー・セラピーに、より一層励んでいきたいと考えています。
現在、ファミリービジネス支援センター(FBSC)共同代表、セブン・スプリングス株式会社メンバー、一般社団法人FBAA・ファミリービジネスアドバイザー資格認定証保持者(フェロー)。
著書『痛みと体の心理学』(新潮社)他、訳書アーノルド・ミンデル著『オープン・フォーラム』(春秋社)他多数。