ESGを活用して「信頼というボーナス」を再構築する
Using ESG to Rebuild the “Trust Bonus”

今回はFFI Practitioner2022年9月14日号のご紹介です。

ファミリー企業は、昔から非ファミリー企業に比べて「信頼というボーナス」の恩恵を受けてきました。それは、深く根付いた家族の価値観、長期的な視点、従業員との密接な関係といった利点から生じています。

しかし、社会とデジタルの大きな変化に対応するためにファミリー企業が変革しなければならない今、その信頼というボーナスはかつてないほど脅かされています。

2022 Edelman Trust Barometer(*1)によると、ファミリー企業やその家族も含め、私たちは皆、不信の輪に囲まれた世界で生活し、働いています。多くのステークホルダーは、企業経営者やリーダーが地球が直面する最大の問題に取り組むことで、この輪を断ち切ることを期待しています。これらの問題には、どのような共通項があるのでしょうか。それは、環境・社会・ガバナンス(ESG)問題です。

この期待は社会全体の変化であり、すべての企業を未知の領域に引きずり込みました。気候変動、プラスチック汚染、経済的不平等などの問題に積極的に取り組んでいるかどうかは、今や消費者の信頼と購入の意思決定の中心的な要素になっています。そのため、企業は利益を上げることだけを優先するのではなく、世の中にプラスになるようなポジティブな影響を与えることも考慮して、優先順位を見直すようになってきています。

気候変動、プラスチック汚染、経済的不平等などの問題に積極的に取り組んでいる組織かどうかという問題は、今や消費者の信頼と購入の意思決定の中心となっています。

次世代への挑戦

このような変化は、ファミリー企業、そして何よりもファミリー企業の次世代を担うリーダーたちに大きな影響を与えます。なぜでしょうか?次世代が経営権を握るとき、彼らは企業の信頼というボーナスを守り、再構築する責任を負うことになるからです。

そこで重要なのは、彼らがいかにして家族のレガシーの責任ある管理者として行動し、同時に必要な変革を起こせるか、ということです。その答えは、責任ある株主として、有能な取締役として、あるいは先見性のあるリーダーとして、ファミリー企業におけるすべての役割に関わるものです。また、彼らのスキル、教育、後継者育成にも大きな影響を与えます。

サステナビリティに対する意思と行動のギャップが開きつつある

まず、スキルに目を向けると、ビジネスを成功に導く能力や戦略は変化しており、多くのファミリー企業の経営はその対応に遅れているように思われます。Family Capitalの調査によると、過去10年間、ファミリー企業の市場価値は、同業他社の上場企業よりも低くなっています。その大きな理由の1つは、上場企業が投資家や世間からの圧力に応え、 ESGの優先順位を率先して決めていることでしょう。

しかし、よりポジティブに考えると、PwCの調査によると、次世代たちはこの問題を理解していることがわかります。PwCの「Global NextGen Survey 2022(*2)」でインタビューを受けた1,036人以上の次世代のうち、 59%が自身のファミリー企業のサステナビリティへの取り組みが遅すぎると感じており、72%が自分達がこの取り組みを担うことになるだろう認識していることが分かりました。

これらの調査結果を総合すると、ファミリー企業のサステナビリティに対する意識と行動の間にギャップが生じ、信頼というボーナス、ひいては市場価値を低下させていることが示唆されます。今後、ESG革命が加速するにつれ、ビジネスの成功と環境・社会的目標の達成との関連性は強まる一方でしょう。

持続的成長の実現を加速させる4つのステップ

私たちは、次世代を担う経営者たちが、サステナビリティに対する意識と行動のギャップを埋め、持続的な成長を通じて家族のレガシーを築くために、今できる4つのステップを考えています。それは、以下の4つです。

  • より持続可能な世界での成功を考え直す

金融機関、顧客、従業員、そして一般市民がESGについてより早い進展を求めている中、次世代のメンバーは、サステナビリティを完全に取り入れるためにビジネスを変革する責任を負っています。そのためには、ESGのパフォーマンスがどのように企業価値を生み出し、あるいは損ねるかを理解することが重要です。PwCの調査は、次世代がサステナビリティを優先していることを裏付けています。現在のリーダーのうち、社会的責任とサステナビリティへの注力を高めることが優先事項であると考えている人はわずか16%ですが、ミレニアル世代の次世代は32%、Z世代の次世代は38%がその重要性を認識しているのです。企業の存在意義は、利益と相反するものではなく、むしろ補完関係にあるのです。

  • ESGがどのように家族の富を育むかを理解する

今日の不確実な世界では、ファミリー企業の富を次世代に残すことは難しくなっています。富を築くには、コアビジネスの価値を高めるか、ファミリー・オフィスを通じて多様化し投資するか、そのどちらかになります。今回の調査では、次世代を担う回答者の42%が、自分の家族がファミリー・オフィスを持っていると回答しています。興味深いことに、ファミリー・オフィスを持っている人の43%がサステナビリティ戦略を持っているのに対し、ファミリー・オフィスを持っていない人では37%しかサステナビリティ戦略を持っていませんでした。また、ファミリー・オフィスがある家庭では、規約、後継者計画、投資ガイドラインが明確に定義されていることが多いようです。

  • 従来のスキルや教育に疑問を持つ

次世代のリーダーを育成するためには、従来のMBAの枠を超えた考え方を含め、新たな資格やアプローチが必要とされています。多くの次世代はこのことを意識しており、28%がパンデミックによってスキルアップとさらなる教育の必要性が明らかになったと回答しています。しかし、何を学ぶべきかという質問に対しては、ほとんどが財務などの伝統的な分野を取り上げ、サステナビリティと答えた回答者はわずか4分の1でした。より前向きな意見としては、3分の2の企業が、持続可能なビジネスと収益性の高い成長を両立させるために、ファミリー企業が先導的な役割を果たすことができると考えていることが挙げられます。これを実現するために、次世代のメンバーは新しいスキルを必要とします。そのために、ビジネススクールやネットワークは、将来のリーダーがビジネスについて異なる考えを持つための新しい機会を数多く提供しています。

  • 世代間で新しい合意を得る

ファミリー企業のリーダーシップが移行するとき、現世代は次世代に安心して任せられると確信し、全員が自分に何が期待されているかを理解しなければなりません。パンデミックは、多くの点でファミリー企業の絆を深めるのに役立っています。2022年の調査では、61%の次世代が何らかの後継者計画をもっていることがわかりました。パンデミック以前は、正式な後継者計画を持っていたのは15%、40%が何らかのロードマップを持っていました。このように新たに構築された後継者計画の基盤の上に、後継者のステージと条件を明確にし、さらに重要なことは、家族のコアバリュー、ビジネスにおける家族としての使命、そしてそれらがどのように事業運営や投資計画に反映されているかを世代間で合意することなのです。

ファミリービジネスアドバイザーへのメッセージ

このことは、ファミリービジネスアドバイザーにとってどのような意味を持つのでしょうか。私たちの調査によると、ファミリー企業は、サステナビリティに関するアクションプランがあっても具体的な行動はともなっておらず、次世代が重要な役割を果たす機会があることが確認されています。アドバイザーはここで役立ちます。

出発点は、ファミリーのコアバリューとESGへのコミットメントを含むファミリー企業のミッションステートメントをつくり、文書化することです。これらはオーナーや従業員が暗黙のうちに理解していると思われがちですが、文書化され、すべてのステークホルダーに適切に伝達されないと、認識も遵守もされないことが多いのです。

現時点では、こうしたステークホルダーとの対話はビジネス的な側面に焦点が当てられることが多く、企業の存在意義と利益との間のトレードオフ関係、サステナビリティが収益性や成長に貢献しているかどうか、さらには規制遵守の問題や一時の流行に過ぎないかどうかといった疑問が呈されています。これらの見解はいずれも古い考え方を反映しており、サステナビリティが信頼や成長に繋がっていくという関係を無視しています。アドバイザーは、ファミリーのコアバリューやミッションというものを議論の中に入れていくことで、対話を新しいものにすることができます。

サステナビリティは、今や成長の原動力となっています。サステナブルな活動への投資、ビジネス手法や様々な投資活動は事業に携わっているかどうかに関わらず、家族全員のアイデンティティと誇りの源となり、ひいては家族の結束、信頼、信用に貢献するのであれば、それは非常に有益なことです。

PWCの「Global NextGen Survey 2022のためにインタビューした1,036人以上の次世代のうち、59%が自身のファミリー企業のサステナビリティへの取り組みが遅すぎると感じており、72%が自分達がこの取り組みを担うことになるだろうと回答している。

明確な行動計画を立て、サステナビリティに焦点を当て、透明性を高めなければ、家族の価値観や長期的な成長が損なわれる可能性が高くなります。その結果、競合優位性と信頼というボーナスがより削られていくことになるのです。そしてこれらのことは、すでに多くの大きなファミリー企業で起きているのです。

今こそ「信頼というボーナス」を取り戻すとき

これまで、世界中のファミリー企業は、そのタフさと長期的な視点によって予測不可能な変化を乗りきれることを実証してきました。しかし、その成功を支えた信頼が今、危機に瀕しています。次世代経営者は、サステナビリティを核としながら、大胆かつ戦略的にビジネスを展開することが求められています。私たちが世界中で1,000人近い次世代と仕事をしてきた経験から、彼らは信頼というボーナスを取り戻したファミリー企業の未来をダイナミックに創造することを望んでおり、そのために必要な現在のリーダーたちと関わり合いをサポートしてくれるメンターを高く評価しています。その結果、家族、企業、そしてメンターとしてのアドバイザーの三者にとって、Win-Winの関係を築くことができるのです。 

About the Contributors

Andrea Baars, MBA, ACFBA/ACFWA, is NextGen Program Lead in PwC’s Global Entrepreneurial and Private Business team. She has 15 years of experience in developing, mentoring, and advising about 1,000 next-generation members in family enterprises from around the world. Andrea co-invented the NextGen Academy concept together with the University of St. Gallen, Switzerland, which is now part of the PwC NextGen suite of offerings. She is a certified trainer in social styles and supports her clients in their leadership development by interacting with teams and family members effectively. She can be reached at andrea.baars@pwc.com.

Cydnee Griffin, CFBA/CFWA, joined PwC’s Global Entrepreneurial and Private Business team five years ago. As Family Business and NextGen Program Manager, she drives annual thought leadership pieces and flagship family enterprise and next-generation initiatives, such as the Global PwC NextGen Network and its exclusive platform, which accommodates about 2,500 next-generation members from 68 countries. She can be reached at cydnee.griffin@pwc.com. 

(*1)

https://www.edelman.com/sites/g/files/aatuss191/files/2022-01/2022%20Edelman%20Trust%20Barometer%20FINAL_Jan25.pdf

(*2)

https://www.pwc.com/gx/en/services/family-business/nextgen-survey.html

全文はこちらからご確認いただけます。

https://digital.ffi.org/editions/using-esg-to-rebuild-the-trust-bonus/

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