ファミリー企業における「家族の目的」~それはどのようなもので、なぜ重要なのか。
Family Purpose in Family Firms: What it looks like and why it’s important

今回はFFI Practitioner 2022年3月16日号より、老舗のファミリー企業における家族の目的の本質を調査した「家族の目的プロジェクト(The Family Purpose Project)」をご紹介します。このプロジェクトでは、26のビジネスファミリー、91人へのインタビューが行われました。

近年、ファミリービジネスアドバイザーは、企業や従業員のために「目的」の重要性を認識している

ハーバード・ビジネス・レビュー、ウォール・ストリート・ジャーナルなど、広く読まれている著名な機関誌等では、”目的志向の組織づくり” や “ビジネスが目的の力を活用しなければならない理由” といったテーマの記事が発表されています。Big4の一つであるErnst&Young は、2020年12月発行の記事(*1)の中で、企業の目的を “人間性に根ざし、行動への呼びかけを促すような、志の高い存在理由 “と定義しています。さらに、長期的な思考の必要性や信頼感の向上の重要性など、今日のすべての企業にとって目的が不可欠である理由をいくつか挙げています。

そのような中で、「家族の目的プロジェクト(The Family Purpose Project)」という老舗のファミリー企業における家族の目的の本質を調査したプロジェクトが立ち上がりました。これはKendall Cotton Bronk(クレアモント大学院大学)、Tarek el Sehity(ジークムント・フロイト大学)、Heinrich Liechtenstein(IESE)、William Damon(スタンフォード大学)が中心となって行った多国間研究で、家族の目的が、家族がビジネス上の目標を達成する上で、またファミリー企業が公共の利益に貢献する上で、結果的に重要な役割を果たすかどうかを探ったものでした。

ファミリー企業は、企業の目的の必要性は共有しているものの、ファミリービジネスに参加する家族の間で目的をつくり育んでいく上では、ファミリー企業特有の機会と課題に直面している

過去にも、研究者たちは家族の目的について論述してきましたが、その定義には一貫性がありませんでした。例えば、ある場合には、家族の慈善活動を指す言葉として使われ、またある場合には、ビジネスファミリーに喜びをもたらしてくれるものを指す言葉として使われ、さらにある場合には、家族の富やレガシーを守るための戦略を意味する言葉として使われてきたのです。

どのように使われるにせよ、研究者やアドバイザーは、家族の目的というコンセプトがもたらす可能性を指摘しています。アドバイザーは、家族の目的が変化に適応するのを助け、若い世代を教育し、リーダーシップに備えさせる取り組みを支援し、ビジネスファミリーが地域社会に貢献するのを可能にすると論じています。

家族が意識的、意図的に自分たちにとって最も大切なものを振り返ることで、自分たちのリソースを有意義に使う方法を決定し「なぜ一緒にいたいのか」についてコンセンサスを得ることができる、と提案する人もいますし、家族の目的がファミリービジネスの長期的な成長を確保するための最も効果的な方法であるとまで主張する人もいます。

このように、家族の目的がビジネスファミリーの企業目標や社会貢献の目標の達成に重要な役割を果たすというコンセンサスは高まっているものの、何が本当の家族の目的を構成するのか、何をもって家族の目的とするのかについては、十分に知られていないのが現状です。「家族の目的プロジェクト(The Family Purpose Project)」の目的は、明確で一貫した家族の目的の定義をつくること、家族の目的がどのような形態をとることができるのかを明らかにすること、そして家族の目的がビジネスファミリーの世代を超えて培われる方法を明らかにすることでした。

家族の目的を定義する

「家族の目的プロジェクト(The Family Purpose Project)」は、ファミリービジネス研究者やビジネスファミリーメンバー等との協議の結果、研究者の調査の指針となる定義を提案しました。

「家族の目的とは、家族が世代を超えて共有する長期目標であり、ファミリーメンバーの若い世代が自分たちの実力以上に世界に影響を与えるような行動を達成するための計画を立てる際に意味をもつようになるものである」

この定義には、5つの重要な側面があります。

  1. 家族の目的の追求は、長期的な意思を表しています。家族の目的は、時間の経過とともに変化するかもしれませんが、その中には時間や世代を超えて、明確に一貫した焦点とビジョンとして変わらずに残り続けるものがあります。
  2. 家族の目的は、ファミリーメンバーにとって意味のあるもので、家族にとって大切なことです。単に家族の目的について話すだけでのものではなく、ファミリーメンバーはその目的を磨き上げ発展させることに積極的に関わっていくのです。
  3. 家族の目的は、家族の歴史、現在の活動、そして将来の計画に反映され、長年にわたって家族の行動と一致しています。
  4. 家族の目的は、家族だけにとどまらず、社会にも目を向けたものです。共有する事業を目的のための手段として利用することもあれば、事業からの収益を自分たちが大切にしている目的の支援に充てることもあります。いずれの場合も、家族が意図する対象は、家族を超えたところにあるのです。
  5. 家族の目的は、多くのファミリーメンバーによって共有されます。家族全員がその目的を積極的に支持しているわけではありませんが(100人以上、あるいは1,000人以上の家族がいる大家族では、そのようなことはあり得ません)、ほとんどの家族が、その目的を家族にとって重要で意味のあるビジョンであると認識しているのです。

この定義に基づけば、医療関連企業の同族経営者は、困っている人々に質の高い医療を提供することに目的を見出すことができるでしょう。また、同族経営の金融サービス会社であれば、環境保護に取り組む企業への投資機会を顧客に提供することに目的を見出すかもしれないし、同族経営の小売企業であれば、経済的に困窮している地域に雇用を提供することに目的を見出すかもしれません。

家族の目的の形

「家族の目的プロジェクト(The Family Purpose Project)」は、過去3年間にわたり、26のビジネスファミリー、91人にインタビューを行いました。また、各家族の中で少なくとも3世代3人以上と面談することを心がけました。その結果、4つの明確な家族の目的の形態や事情が浮かび上がってきました。

インタビューに応じた半数近くの家族が、5つの定義をすべて満たしており、明確な目的意識を持っていることがわかりました。その中に、ある不動産業を営んでいた家族がいました。この家族は不動産業に加え、大規模な家族財団も運営していました。ある家族によると、この家族が共有している目的は、「善意の力となること」であり、高い倫理観を持って事業を運営することでした。一族のメンバーは、重要なビジネス上の決定をする際にはこの目的を参照していました。また、一族は一貫して、ビジネスの目的に沿った社会貢献活動に惜しみなく取り組んできました。例えば、「環境に優しい」建築の実践を支援しています。宗教的な価値観は、家族の目的を共有するための重要な基盤となっていることも特筆されます。

インタビューのうち、4分の1のサンプルは、家族の目的の芽生えを示しています。これらの家族では、年長世代ではなく若い世代のメンバーが、目的を共有することにコミットしていました。

一方で家族の目的が薄れている家族も散見されました。これは、年長世代は目的の重要性を感じているものの、若い世代のメンバーにはその兆候が見られないというケースです。

最後に、サンプルのほぼ4分の1は、目的を共有する明確な兆候が見られませんでした。これらの家族では、多くのファミリーメンバーが個人としては公益に貢献しようと努力していますが、その努力は、共通の焦点や共通の組織的枠組みを示すものではありませんでした。

例えば、ある家庭では、父親は地元のスポーツ選手を奨学金で支援し、妻は特別なニーズを持つ子供のための学校でボランティアをし、娘は赤十字でボランティアをしていると話していました。このように、それぞれの目的はあっても、家族で共有する目的はなかったのです。

まとめ

家族の目的という概念を厳密な方法で定義し、家族の目的がどのような形態を取り得るのかを明らかにしたことに加え、インタビューからは、目的を共有する家族は一緒にいようとする強い動機を持っていることが示唆され、また目的を持つ家族は特に親密である傾向がありました。

今回の研究では、目的を持ったすべての家族が結束していましたが、結束している家族がすべて目的を持っているわけではありませんでした。家族の結束は、家族の目的を達成するための必要条件ではあるが、十分ではないようです。

しかし、目的を持つ家族が親密であることは、驚くべきことではありませんでした。結束力のある家族は、断絶された家族よりも共有されたコミットメントを維持することが容易だろうし、有意義な目標を共有しコミットしているファミリーメンバーで構成される家族は互いに親密なつながりを感じている可能性が高いでしょう。

家族の目的を発展させることは、家族、ファミリービジネス、そしてファミリービジネスが奉仕する社会に重要な利益をもたらす可能性が高いのです。

(*1)EYのサイトはこちら

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FFI practitioner 2022年3月16日号
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(投稿者)
Kendall Cotton Bronk, PhD, is the principal investigator for the Adolescent Moral Development Lab and a Professor of Psychology in the Division of Behavioral and Social Sciences at the Claremont Graduate University. She is a developmental scientist interested in understanding what it means to live life with purpose. Her research examines the effects of purpose on well-being among diverse groups of individuals, and she has created and tested interventions designed to cultivate purpose. In addition to studying purpose among individuals, she has also studied collective forms of purpose, including family purposes. She can be reached at kcbronk@cgu.edu.

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