家族会議におけるコンフリクトマネジメントのための8つの戦略
ファミリーミーティングは、コンサルタントにとって難しい課題です。自分の専門分野(法律、慈善事業、組織開発など)に集中する必要があるだけでなく、何か重要なテーマが取り上げられる際には頻繁に発生する家族の対立に対処しなければならないからです。
コンフリクト(対立)とは、反対や意見の相違と定義されています。
対立は、意見の相違に直面したとき、他人の感情、思考、行動を変えようとするときに発生します。また、自分にとって必要なものを得られていないために、他人に自分のニーズに応えてもらう場合(ある時には強制的に、あるいは力ずくで)にも、対立が発生します。
どの家族も、プレッシャーがかかると緊張が高まります。リラックスした家族は、緊張した家族とは全く異なるものになります。ストレスが高まると、人々は明晰にじっくりと、柔軟に考える能力が低下し、対立が生まれやすくなります。リラックスした家族は、より良い決定を下すことができるのです。
家族会議で対立が生じた場合、コンサルタントは、全員の激しい感情に対処し、家族が内省と生産的な対話に適した考え方を取り戻すための方法を知っておくことが重要です。また、その対立が会議の目的達成の障害にならないようにする必要があります。意見の相違や反対意見、あるいは激しい議論が問題なのではありません。
問題は、表面化した感情が、家族が解決策を見出す能力を阻害してしまうことなのです。
家族会議中の緊張を和らげるための戦略
1. 感情的な反応を調節する
人間は、他者、特に家族のしぐさや態度に対して非常に敏感です。視線、特定の身のこなし、物理的な近さ・距離、声のトーンなどは、しばしば脅威として解釈されます。脅威は即座に感情的な反応を引き起こし、対立につながる可能性があります。
このような反応を管理するために、コンサルタントは、参加者が自分に向かって発言するよう求めると、家族間の直接的なやりとりを最小限にすることができます。
コンサルタントは、一人の意見を聞き、その意見を明確にし、広げるための質問をした後、次の人に移ります。こうして、コンサルタントと家族の間に対話が生まれ、他の参加者はそれを見守る。このような構成にすることで、話している人は自分の考えをより明確に伝えることができ、他の人は即座に返答しなければならないと焦ることはなく、話を聞いて検討することができます。
このような相互作用により、より思慮深い話し合いに繋がる傾向があります。
2. 話の視点を変える
ある話題があまりに大きな緊張をもたらすと、感情が高まり、人々は声を荒げたり、攻撃したり、非難したり、会話に参加することを辞めたりするようになります。このような危機的状況に陥ったときは、数分間、話の視点を変えることをお勧めします。このテクニックによって、人々は自分の感情を調整し、より冷静に目の前の問題に戻ることができるのです。
3. 問題を広い視野でとらえる
感情が思考を支配すると、複雑な現実が単純化される傾向にあります。単純化は、特に危険な状況下で迅速な判断が求められる場面で役立つメカニズムですが、複雑な事柄を扱うときにはあまり効果がありません。
これは「トンネル・ビジョン」と呼ばれる問題解決方法で、特定の情報だけに注目し、他の情報を無視する現象です。コンサルタントは、幅広い質問をすることによって、家族がより広い視野を持ち、議論されている問題の多面性を検討するように促す必要があります。
例えば、“その問題はいつ、どのような状況で発生したのか?” “意思決定には誰が関わっているのか”、また、“それぞれの決定が、どのように個人または集団に影響を与えるか”といった質問により、どのような視野でその問題を見ているかを把握し、また、単純化しすぎないようにすることでその場の緊張を和らげることができるのです。
4. 事実に集中する
人々の現実の認識が主観に支配されていると対立が起こりやすくなります。コンサルタントが事実の解釈(他人の意図や動機に関する憶測など)ではなく、事実に集中すれば、デリケートな話題の議論もより客観的なものになりやすいのです。
“コンサルタントは、家族会議で対立が生じた際に家族が内省と生産的な対話に適した考え方を取り戻すための方法を知っておくことが重要である”
5. 感情を認識するが、それに焦点を当てない
感情は、自分自身や人間関係の中で起こっていることについての良い情報源です。
対人関係では、怒り、罪悪感、悲しみなどの否定的な感情が支配的です。
感情を無視するとイライラが募り、感情に集中するとその感情が悪化する傾向があります。その場その場で感情を把握し、名前をつけ、表現する場を持つことが大切です。同様に、家族が感情的になるのではなく、批判的思考力を維持することも重要です。
例えば、コンサルタントは、「あなたはビジネスにおける自分の仕事が評価されていないと感じていて、それがあなたを苦しめているようですね?」「いつからそう感じるようになったのですか?」「あなたは怒りを感じ、起こったことは不当だと感じていますね。家族の中で誰か他にも怒りを感じていると思いますか?」といった質問をするかもしれません。
これらのタイプの質問は、その人が今感じていることを認識し、検証しながら思考を促し、生産的な話し合いを続けられるようにします。
6. その状況や家族に興味を示す
コンサルタントが好奇心をもって家族と関わると、家族もフラストレーションのような感情から好奇心を持って家族と接するようになる可能性があります。家族への関心は、問題解決につながる思考の活性化に寄与します。
もしコンサルタントが、違いがどのようにして生まれたのか、違いは何なのか、誰が他の人と同じような考え方をしているのか、違う考え方をしているのかを理解することに興味を示せば、その人のエネルギーは、他の人の考え方を変えることではなく、家族の考え方を広げることに注がれます。
これによって、会議の雰囲気が変わり、より生産的になるのです。
7. 家族の目的を念頭に置く
コンサルタントは家族会議中に話が本題から脱線し始め対立が生じていることに気づいた場合、より生産的な対話に戻す方法の一つは、その家族会議開催の目的を持ち出すことです。家族を集めた目的に言及することは、家族をその話に戻すのに効果的な方法です。
8. 個性を尊重する
個性の尊重は、コンセンサスを得ることと相反するように思われますが、そうではありません。個人が自分の意見を述べることができる会話、つまり、異なる視点が共存できる会話こそが、合意形成の第一歩なのです。
家族の中で対立は、自分の信念を通すためというより、相手に対する反発のために起こるからです。コンサルタントは、参加者に個人的な見解について考えてもらい、例えばそれ書き出してから共有することで、感情的な反応から離れ、冷静になる時間を作ることができます。参加者は自分の考えを明確にした上で、それを他の人の考えと対比させることができます。
そうすれば、会話は、関係者についてよりも、むしろ各人の意見について焦点が向くようになるのです。
“コンサルタントにとって家族の力学を認識することは、自分の提供するサービスにプラスになる”
家族関係は、良くも悪くも、人の人生の中で最も重要で、最も濃密な関係の一つです。特に親族は互いに強い影響力を持ちます。家族関係ほどストレスがたまるものはありませんが、家族が与えてくれる愛情や安心感、満足感にかなうものがないことも事実です。コンサルタントにとって家族の力学を認識することは、自分の提供するサービスにプラスになります。この知識は、家族会議での対立をより生産的に管理することを可能にするのです。
Author Profile
FBAAファミリービジネス・アドバイザー資格認定証保持者。
監査法人及び都内コンサルティング会社に勤務した後、独立。父が経営する会計事務所とともに相続・事業承継案件を中心にサービスを展開している。
また、出産・育児を通して母や子供目線の事業承継やオーナー教育の大切さ実感しており、業務の傍ら調査・研究を進めている。