ファミリービジネスにおける寄生虫(パラサイト)

セラピーの立場からファミリービジネス支援をして、たびたび話題となるのが、ファミリービジネスにおける「寄生虫(パラサイト)」の存在です。

「仕事をしないのに高額の給料を支払っている家族メンバーがいる。それをやめるのはどうしたらいいか?」

「合理的理由のないまま高額の給料を払い続けるのは、従業員から見て不公平感があって、従業員のやる気を削いでいるのではないか?」

「高齢の親が大株主なので毎年高額の配当金を支払っている。それも問題だと思うが、それ以上に、株主ではない家族メンバーに毎月法外な金を渡している。それを何とかしたい。ビジネス上まずいのはわかっているが、家族のしがらみで止めることができない」

といった相談を受けます。

仕事に見合っていない給料をもらったり、株式を所有していないのに法外な金を受け取ったりするのは「寄生虫」です。寄生虫は、たくさんのファミリービジネスを悩ませる問題です。

私たちは、「寄生虫」をファミリービジネスにおける(「個人」的問題でなく)「システム」的問題と考えます。それは、ビジネス上のではなく、基本ファミリー内での問題です。

ファミリー内の問題がファミリー間で解決できないため、金の絡むビジネスシーンに持ち込まれて、金でごまかされて寄生虫として問題化します。

「システム的問題」とは、どういうことでしょうか?

(1)家族という「システム全体」にまつわる問題であり、

(2)家族メンバーすべてが、多かれ少なかれ寄生虫的意識を抱えていることを意味します。

(3)家族のシステム上の問題が、家族内のある個人によって「顕在化」されている(にすぎない)とする考え方です。

それを真に解決するのは、家族システム全体への働きかけが欠かせません。

寄生虫的意識とは、どういったものを言うでしょうか?

「被害者意識」が背後にある意識です。寄生虫は、被害者意識から生まれます。

どういうことでしょう?

「私は家族の犠牲者になって来たのだから、家族やビジネスからその犠牲に見合った報酬(慰謝料)をもらって当然だ」

「家族に不当に扱われ、犠牲を強いられてきたのだから、金をもらって当たり前」といった「病理化し、ゆがんだ甘え意識」が背後にあります。

それは、正確には「被害者-甘え―寄生虫意識」です。

被害者-甘え―寄生虫意識のある家族では、それは家族のある個人(だけ)が抱く問題ではなく、家族の何人もが、場合によっては家族のほとんどが、内に秘めている思いです。

それを放置しておくと、「犠牲の度合い(誰がファミリービジネスのためにより犠牲になったか)」を家族メンバーが比較競争し合ったり、「自分も犠牲になってきたのだからあなた/お前も犠牲になって当然だろう」と犠牲を強要したりします。

それを、精神科医でファミリーセラピストのB.ナージは、「破壊的権利付与(破壊的経験をさせられてきた自分は、破壊的なことを、家族の他のメンバーや次世代に付与する権利が自分にはある、とする妄信)」と呼びました。

犠牲者―甘え―寄生虫意識は、金(現ナマ)をいくら渡しても終わることはありません。

なぜでしょうか?

それは、本来、金の問題ではなく、ファミリーにおける関係性や心や精神の問題だからです。ですので、人間関係や心や精神に働きかけなければ、金の無心(パラサイト)が止むことはありません。

そこには「自分の人生を犠牲にして、ファミリービジネスを守り、維持し、繁栄させてきた」という自負心、意地、プライドが、絡んでいるため取り扱いが難しい。犠牲に対する適切な労い、貢献への承認しや感謝が欠けていると、犠牲者-甘え―寄生虫意識が生まれて、システム全体に蔓延します。

こうなると、ファミリービジネスへの犠牲への報いとして、自分が金を受け取って当たり前だという、ゆがんだ甘え精神が生まれます。

ではどうすればいいのでしょうか?

犠牲者-甘え―寄生虫精神のはびこるファミリービジネスには真の絆や、豊かな情緒的関係が希薄であったり、欠落したりします。そのため、犠牲や報いに見合った労い、承認、感謝が不足します。

そこで、セラピストがまず試みるのは、家族内に心の通うコミュニケーションを育成することです。それには、ファミリー(システム)全体への介入が求められます。そうしてファミリー内の人間関係、心、精神の修復を試みるのです。

それが叶ってこそ、寄生虫や金の無心問題が(自ずと)解決されるでしょう。

その具体的方法や事例については、別の機会に譲ります。

今回は、ファミリービジネスを内側から苦しめる「寄生虫(パラサイト)」について、簡単に述べさせていただきました。

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