病態水準とファミリー分野のセラピー

ファミリービジネスは「ビジネス」「オーナーシップ」「ファミリー」の3サークルからできています。

「ビジネス」については経営コンサルタントと素人、「オーナーシップ」に関しては税理士、会計士、弁護士と一般人との「質的違い」および「境界線」が明確です。良質なファミリービジネスの当事者は、プロと自分との差異を踏まえたうえで、プロフェッショナルな支援を上手に活用するでしょう。

が、なぜか「ファミリー」においては、プロと素人の線引きがなされません。あるいは、曖昧です。

セラピーについての情報が少ないからでしょう。

近年の警察白書によると、日本における凶悪犯罪は約1,000件です。その半数以上は、「家族がらみ」です。

いま、家族は、日本における治安の最も危険な場所の1つです。

書籍によると「グッチ家」では殺人が生じ、「林原家」ではDV(ドメスティック・バイオレンス)が度々ありました。

「ファミリー」の殺人や暴力については、素人では対応できません。私たちのところには、弁護士、税理士、経営コンサルタントが相談に来ます。

理由の1つは、プロのセラピストであれば手を出さないファミリーの(メンタルに関する)「火中の栗を素手で拾い」、燃え尽きてメンタルをやられるためです。

プロ・セラピストは、ファミリービジネスのどの問題であればプロとして対応可能か、どの問題は対応不可能か、わきまえています。たとえば「オーナーシップ」や「ビジネス」の領域には、手を出しません。

「ファミリー内」のことについても、同様です。ファミリーのどの側面はセラピーの対処可能範囲か、どの側面は(セラピー、カウンセリング、コーチングではなく)たとえば精神科の領域か、の『線引き』を、しっかりとします。

たとえば、私たちがグッチ家や林原家に関わることがあったなら、必ず精神科医を入れ、そのうえでファミリー・セラピーを行ったでしょう。そして、司法、経営、オーナーシップ、ファイナンスのプロたちと「チーム」を組み、協働したでしょう。

「ファミリー」には、素人がかかわり可能な「健康/健全な範疇」の問題、トラブル、悩みと、プロに相談すべき「不健康/病的」な問題、トラブル、悩みとがあります。

後者の中で、長期にわたって慢性化しているもの ~たとえば引きこもり、依存症、DV~や、殺人、自死、解離、精神病、パーソナリティ障害に絡んでいるものは、ぜひ専門家に相談してください。放っておいて良くなる、自然治癒することはまずありませんので、プロの活用をお勧めします。

では、どうすれば、「健康/健全な範疇」と「不健康/病的な範囲」とを分けることができるでしょうか?

プロ・セラピストは「病態水準」という古典的な『見立て』ツールを用います。近年、セラピーの領域でさまざまなアセスメント・ツールが生まれ、私たちも参照しています。

しかし、病態水準が最も信頼できます。

あなたがセラピストや精神科医と協働したり、セラピストを活用するとき、その専門家の仕事が病態水準を踏まえているか、いないか確認してください。

あるいは、病態水準に代わるアセスメント・ツールを持っているか、持っているとしたら、なぜそれを病態水準の代わりに使うのか、しっかりと質問してください。

病態水準はスペクトラムで、大別して3つからなります。

1つが「神経症」水準、もう1つが「精神病」水準です。その間にあるのが、「パーソナリティ障害」水準です。

通常のカウンセリングやコーチングが対象にするのは、以上のいずれにも入っていない「健康」水準です。多くのセラピストは、神経症水準(まで)を相手にします。特別なトレーニングを積んだセラピスト(だけ)が、パーソナリティ障害と精神病水準とに取り組みます。

肝は『精神病水準』です。パーソナリティ障害には、神経症と精神病水準とが混在しています。家族の困難な精神的問題~殺人、解離、DV(ドメスティックバイオレンス)、アルコール、薬物、ギャンブル、ゲーム、セックス、買い物、摂食などの依存症と共依存症、縁切り/絶縁、引きこもりなど~には、精神病水準や精神病水準が含まれているパーソナリティ障害水準が、まま介在しています。この2つの病態水準に不慣れでは、家族の大変な精神的悩みを支援できません。

精神病水準でよく見られるのは、「統合失調症」と「躁うつ病」です。

現代のセラピーは、誰の心の中にも~あなたや私の心にも~、「健康な側面」と「精神病的/病的側面」~統合失調症的や躁うつ的側面~とが、『必ず』あると仮定します。

「精神病水準」は、トラウマ(心的外傷)や無思考/盲目的思考、認知の(大きな)ゆがみ、

破滅-解体妄想、迫害妄想などを内包しています。そうしたことは他人事ではなく、「窮地」に陥ったとき誰にでも浮上しうる難題です。

ファミリービジネスは「窮地」「修羅場」「極限状態」の連続です。

たとえば、ビジネスは倒産するのではないか、次世代は会社をつぶしてしまうのではないか(という破滅-解体妄想)、銀行から借金の貸しはがしにあうのではないか、ビジネスを誰かに乗っ取られるのではないか(という迫害妄想)が、その一例です。

そうした窮地、修羅場、極限状態において、あなたや私の「精神病的側面」が刺激されて、ブチ切れたり、自暴自棄になったり、飲んだくれになったりする危険は、常にあります。

それでは、あなた個人にとって、ビジネスにとって、ファミリーにとってよくありません。

ファミリービジネスのオーナーや跡継ぎやその家族は、破滅-解体妄想や迫害妄想にさらされやすい環境にいます。早めにメンタルの専門家の支援を活用してください。

問題は、ファミリービジネスのセラピー以外の領域の専門家と、ファミリービジネスの当事者とが、DV、依存症、解離、パーソナリティ障害、精神病に『(なんとなく)なじんで』しまっていることです。

そのため、精神的問題解決が、「なあなあ/まあまあ」の雰囲気の中で先送りされ、見て見ぬふりをされたまま放置されることです。問題は『甘く見られて』慢性化し、最悪の状態を招きかねない点です。

セラピー以外の領域の専門家とファミリーとが、「共依存関係」に陥っていることも少なくありません。

人間には、「悪い(ブラック)環境」への『適応力』があります。この「適応力」は、危険です。

ブラック状態を「慢性化」させる一因となるからです。

2世代先までならブラックのままごまかせても、永続するファミリービジネスを創造するうえで早晩ネックとなります。

あなたの世代で、取り組んでいただきたい。

最後に、3つの病態水準の違いをごく簡単に書きます。

より詳しく知りたい方は、ご連絡ください。

「神経症水準」は、自分が狂っていることを知っていて止められないのが、特徴です。

たとえば、自分が何度も何度も鍵が締まっているのが気になり、30回40回も締まっているか確かめるのは狂っている、と知っている。が、止められない。

自分がいまアルコール/不倫を止めないと、パートナーに離婚されるのは分かっている。けど、止められない。

一方「精神病水準」は、自分が狂っていることを知らないのが特徴です。30回鍵を確かめるのは、魔物が家に入って来るから、いやもう入っている(はずだ)から。ドアを開けて、魔物の有無を確かめ(何十回も)鍵を閉めるのは当たり前だ。

神経症水準では「病識」があり、精神病水準では「病識」はありません。この2つには、精神の「質的相違」があります。

では「パーソナリティ障害水準」では、どうでしょうか?自分が、狂っていないこと、普通の凡人であることを(どこかでちゃんと)知っています。にもかかわらず、興奮、強度、スピードを喚起する行動を『あえて』起こして、自らすき好んで狂った状態に入る点、特別な人になろうとする自己愛的な点に特徴があります。

心の痛み、辛さ、悲しさ、嫌なことを忘れるために、人一倍はしゃいで盛り上げ、イケイケ、ノリノリにして躁転し、時に、いやしばしば精神病水準に足を突っ込んで、人生、ビジネス、ファミリーを台無しにしかねない危険をはらんでいるのが「パーソナリティ障害水準」です。

今回は、「病態水準」から、ファミリー、ファミリービジネス、メンタルについて書かせていただきました。

各領域の専門家のメンタルを守るため、またファミリービジネス・クライエント支援のために、ご参照いただければ幸いです。

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