次世代は何を必要とし、何を望んでいるのだろうか?~次世代が求める35の質問~
To Empower Members of the Next Generation, We Need to Answer Their Questions
今回はFFI Practitioner2022年2月9日号より、100を超える家族のシニア世代と次世代メンバーへのインタビューを数年に渡って行った結果、公表された「次世代が求める35の質問」について解説します。
35の質問についてはこちらの書籍からご覧いただけます。
次世代に耳を傾ける
シニア世代と次世代との間では、正しい質問をすることよりも正しい答えを導き出すことに多大な労力を費やしていることが多々見受けられます。シニア世代の希望と、次世代メンバーのニーズや懸念の間にはしばしば理解不足が存在し、相手が何を求めているかを理解しようとするよりも、自分の意見を主張したり、状況を望ましい方向に導くことに重きが置かれがちなのです。もし、次世代が自分たちの価値観や目標が家族と一致しないことに気づいたら、次世代への移行は難しくなり、また実現されなくなることもあります。
残念ながら、これまで研究やアドバイスの対象は、権力を握っているシニア世代が中心でした。そのため、研究者たちは、「次世代は何を必要とし、何を望んでいるのだろうか?」という、次世代を意識した調査を実施し、次世代を担う人たちの意見、考え方、起業家精神に関する悩みなどを聞いてみました。その結果、世界中の次世代を担う者たちが直面している35の最も重要な質問をリストアップし、それぞれの質問に対して主要な学者とビジネスファミリーが回答してくれました。
次世代が抱く最も切実な疑問
私たちの調査は、100を超える家族のシニア世代と次世代への公式・非公式なインタビューから始まり、数年に渡って続けられました。その結果、次世代が抱える課題や疑問は、シニア世代が抱える課題とは異なることに気づきました。そこで、「次世代」の視点をもっと積極的に取り入れる必要があると考え、「次世代」の質問を体系的に集めました。そして、さらに70人の次世代メンバーに意見を求め、最終的に35の質問をリストアップすることができました。
例えば以下のようなものがあります。(翻訳:WellSpring)
- なぜ次世代メンバーの多くは家業を成功させることができないのか?
- ファミリーの一員とみなされるのは誰か?
- 自分は家業のオーナーとしての責任を積極的に引き受けたいか?
- 家業を(完全に)捨てて、他のことをする自由があるか?
…
※FBAA会員の方はこちらから35の和訳のリストをご確認いただけます
正しい質問をするよりも、正しい答えを導き出すことに多大な努力を払うことが多い
例えば、「誰が家族の一員とみなされるのか」「どうすれば家族以外の役員や幹部から信頼を得られるのか」のように、ファミリービジネスに新規参入する人にとっておなじみの質問は予想通り多く出されました。
また、「私の両親は退職後のことについて話さない」など、シニア世代と次世代の間で重要な会話がなされていないという、既成概念を裏付けるものも多くありました。
「親と “引退後のこと “について話し合うにはどうしたらよいのでしょうか?」「自分は事業や財産を受け継いでもいいのか(受け継ぐに相応しいのか)」といった不安や懸念の声も聞かれました。このような問いが次世代を担う者の心に重くのしかかり、もしその疑問が解消されなければ、多くの若者はファミリービジネスから遠ざかっていくことでしょう。
私たちはこの35の質問を「スリー・サークル・モデル」というフレームワークを用いて質問を整理することにしました。しかし、質問の中には、スリー・サークル・モデルでは整理できない、ファミリー・オフィスとの付き合い方、ファミリー・フィランソロピーとの付き合い方、コンサルタントとの付き合い方、事業撤退後の新しい役割の見つけ方、といったものもあげられました。このような例外から、私たちは、もうひとつのサークル「富」と新しい役割「非家族メンバー」を追加することにしました。下記の図をご参考ください。
次世代を担う若者の質問に共通すること
35の質問をファミリー、ビジネス、オーナーシップ、富、という異なるシステムに分類してみると、質問はこれらのシステムの2つ以上にまたがっていることが多いことに気づきました。このような重複は、次世代を担う人々が、家族の代表者、責任のある所有者、富の管理者、事業のリーダーといった異なるシステムの中での役割をどのように担うのか、また、しばしば矛盾するそれぞれの規範をどのように調和させるのか、という問題を複雑にしていることをさらに際立たせています。
実際、次世代を担う者たちは、相互に関連する4つのシステムの複雑さを管理するための助けを求めていました。なぜなら、他のシステムでの結果を考慮せずに、あるシステムで専門家のアドバイスを受けたことがあまりにも多かったからです。
答えの提供
選んだ質問をもとに、次世代を担う者たちのニーズを満たすにはどのような指導が有効かを尋ねました。その結果、「学術的な表現を避ける」「簡潔に答える」「各章をひとつのモジュールとして読めるようにする」などの意見が出ました。また、次世代だけでなく、第一線の学者や実務家に相談し、回答してもらうことも勧めています。
私たちは、学術的な手法に精通し、かつ実務家としての生活にも精通している専門家を探しました。そして、その回答が届いた後、再び著名なビジネスファミリーにコメントを求めました。その結果、35の質問に対して、第一線の学者や実務家から35の回答が、そしてビジネスファミリーからは35のコメントが寄せられ、グローバルなコミュニティが次世代の呼びかけに応えることになったのです。
キッチンテーブルや役員会議テーブルを囲んで必要な議論を始める
次世代は、同族企業の衰退につながるという汚名を着せられることがしばしばありますが、私たちは30カ国以上の次世代との交流から、異なる印象を受けました。次世代は、VUCA(Volatile, Uncertain, Complex, Ambiguous)の世界で育ってきたのです。彼らはグローバルに活躍し、技術的な知識も豊富で、ビジネスファミリーの複雑さに対処する方法を学ぶことを熱望しているのです。しかし、4つのシステムのそれぞれについては十分なサポートを受けることができても、4つのシステムの横断的なサポートを受けることができず、また、彼らの懸念に耳を傾け、質問に答えてくれる人はあまりに少ないのです。
これらの質問と回答、そして意見を収集するための総合的な努力が、次世代が家族の一員、オーナー、従業員、家族の富の管理者、コミュニティの構築者、そして社会のリーダーとして変化をもたらすことに繋がることを心から願います。次世代を担う者に権限と資産を渡す時代がこれからやってきます。正しい質問、すなわち、彼らが自ら問いかけているものの回答を一緒に考えることが、彼らが自らのレガシーを築くための最善の方法なのです。
FFI practitioner 2022年2月9日号
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投稿者の紹介
Peter Jaskiewicz, FFI Fellow, is a full professor of family business at the Telfer School of Management in Ottawa, where he holds a University Research Chair and is the Academic Director of the Family Enterprise Legacy Institute. published in the Wall Street Journal, Harvard Business Review, and other leading academic and practitioner journals. In his advising practice, he trains family enterprise advisors on succession planning and helps prepare the next generation of responsible owners and effective next generation teams. He can be reached at peter.jas@uottawa.ca.
Sabine Rau is well known for moderating succession processes and co-creating family protocols in Germany and abroad. She holds visiting professorships at the Telfer School of Management (University of Ottawa) and at the European School of Management and Technology (ESMT) in Berlin, and teaches at the Université de Luxembourg. Until the beginning of 2017, Sabine was a Full Professor of Entrepreneurship at King’s College London. Before she started her academic career, Dr. Rau founded her own business and worked in her family’s business. She now serves on several boards as an independent director. Sabine can be reached at sabine.rau@forstgut-hundscheid.de
Katrina Barclay is Communications Manager at the Family Enterprise Legacy Institute (FELI) at the Telfer School of Management, University of Ottawa. Before becoming involved in family business study and advising, Katrina founded and ran her own business for 10 years, working closely with several family firms on a national and international level. Prior to this, Katrina worked in media and communications for such organizations as the CBC and BBC. Katrina can be reached at kbarc051@uottawa.ca.
Author Profile
FBAAファミリービジネス・アドバイザー資格認定証保持者。
監査法人及び都内コンサルティング会社に勤務した後、独立。父が経営する会計事務所とともに相続・事業承継案件を中心にサービスを展開している。
また、出産・育児を通して母や子供目線の事業承継やオーナー教育の大切さ実感しており、業務の傍ら調査・研究を進めている。