ファミリービジネスにおける女性後継者への事業承継に関する一考察

1.はじめに

ファミリービジネスにおいて重要な課題とされているものの1つに承継があります。

最近では毎日といってよいほど承継に関する内容が紙面や配信ニュース等で取り上げられ、一方では事業承継に関する税制が考えられ、他方では会社の売却に関するテーマが取り扱われるなど、経営者交代の実現に向け様々な対策が掲げられています。

一方、承継を考えられているお客様にお会いする中で、パートナーに先立たれ妻として急遽社長を全うされている女性社長、娘様への承継を考える社長からお聞きする葛藤など、女性が承継の要になっているケースを多く見ます。

それにもかかわらず、女性後継者に焦点が当てられた研究や提言はとても数少ないように思います。

「ファミリービジネスの承継」や「女性経営者」を対象にしたものは多く存在しても、「ファミリービジネス」「女性」「後継者」の3つの要素を含む日本の先行研究はとても少ないのが現状です。

本稿では、拙いながらコンサルティングの現場や先行研究等から見えてきた女性後継者の強みをお伝えできればと思います。

2.増える女性経営者、女性後継者たち

近年、女性経営者の増加に伴い、女性後継者も大きく増えています。

(株)帝国データバンク女性社長比率調査(2018年)では、2018年4月末時点の企業における女性社長比率は 7.8%。30 年前(1988年)は 4.2%、20年前(1998年)は5.5%、10 年前(2008年)は6.3%と推移し、過去から長く上昇傾向が続いています。

ここで注目したいのが同族承継の比率です。

女性社長では「同族承継」の割合が男性社長に比べて高く、とくに新任社長では男性34.7%に対し、女性68.7%と約2倍近くを占めてます。

前社長の高齢化や後継者不足を背景に、配偶者やご両親から経営を承継する女性が増えていることが伺えます。

3.女性後継者の強み

このような女性後継者の増加を背景に女性後継者に関する研究を見てみると、海外を中心にファミリービジネスにおける女性後継者の強みを明らかにしようとする研究が進んでいることが分かりました。

そしてその結果はどれも前向きな結果となっています。

例えば、女性後継者は女性創業者に比べて家族も事業もバランスをとろうとする点に特性を見出したもの、バランス感覚の良さをもつ女性後継者の特性は特に従業員へのケアや従業員への教育が丁寧であることに見出すことができることを指摘したもの、さらに女性後継者によって事業が成功し急成長した要因をその従業員教育であったこと、その結果として企業の継続を実現したことを説明したものなどがあります。

そして、これらの背景にあるのは、女性後継者は「消極的状況からくる客観性」と「バランス感覚」を備えていることでありました。

偶然にも「やむを得ないときに事業承継した」女性だからこそ、客観的に自社を分析できるということが、ファミリービジネスにおいては大きなメリットに働いていることが伺えます。

もちろん、積極的に事業を継いでいらっしゃる女性後継者の方々も多くいらっしゃいますし、逆にご長男が親の会社を継ぎたくなかったもののやむを得ず事業承継する場合もありますが、このことは女性後継者への事業承継を明らかにすることのみならず、男性であっても後継者がそれほど望んでいない事業承継の局面においても参考になることを意味しているものと考えられます。

4.ファミリーアントレプレナーと女性後継者の親和性

ファミリービジネスの中には、「ファミリーアントレプレナー」と呼ばれる、世代交代を機に事業モデルやビジネス領域を大きく転換させる後継者がいます。

彼らの共通点は、営業能力や技術力が長けているといったことではなく、

  1. 自社の中核技術を見極めていることと、
  2. 誰かのせいにすることなく自己責任で物事を達成する意思があること、

の2点といわれています。

消極的状況からくる「客観的に自社を分析できる」という点は、1.自社の中核技術を見極める目をより深くし、経営革新に繋げることを実現します。

女性後継者たちは意識せずともこの視点に立って承継をスタートしており、これはファミリービジネスの永続において非常に大きな強みになっています。

加えて、女性後継者による従業員教育や接し方の変化によりチームワークを向上させることができれば、検討している事業モデルやビジネスモデルの転換を軌道に乗せやすいと考えられます。

ある調査では、一度に複数のことをこなすことができるという女性後継者のバランス感覚が、新しい取り組みや複数事業を並行して実施することに繋がっていることが示されました。

加えて、後継者がそれまでの経緯を踏まえずに新規事業に乗り出し頓挫することがありますが、新しい取り組みとこれまでの経緯とをバランスよく調整することができるからこそ女性後継者が有効であることも示されています。

女性後継者は、ファミリーアントレプレナーとしてより現実的に成功しやすい素質を持っているのではないでしょうか。

5.おわりに

1980年代以後、環境問題や安全な食品を考える主婦たちがその活動を「ワーカーズコレクティブ」として事業化しNPO法人や社会福祉法人にする例が見られましたが、保育・介護サービス、廃油リサイクル、アレルギー対策の自然食品提供など、企業社会の男性たちが目を向けにくい分野でのこれらの試みは、社会性の高いビジネスの可能性を探る意味でも大きな役割を果たしました。

女性と男性で、その経営方法の違いの1つにビジネスアイディアが挙げられると思います。

SDGsが公表され、今後一層企業の「社会の公器」性が問われていくようになるかと思いますが、経営手法の違いを思いっきり発揮する勇気を持つことが女性後継者の承継においては大切ではないかと思います。

女性後継者はバランス感覚が優れているからこそ決断することが難しくなってしまう場面もあるかと思います。

そのようなときは周りが手を差し伸べ、女性後継者と社員が一丸になってファミリービジネスの永続に大きく貢献していくことを願います。

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