経産省ファミリーガバナンス・ガイダンスと、その先にある『ファミリーを整える』という視点

2026年6月5日、経済産業省は「ファミリーガバナンス・ガイダンス」を公表しました。
本ガイダンスは、日本企業の9割以上を占めるファミリービジネスの持続的成長を支えるために、理念・価値観の共有、ファミリー内の意思決定の仕組み、承継方針、株主間のルールなどを体系的に整理した点で大きな意義があります。特に、これまで税務・法務・事業承継に偏りがちだった議論に対し、「ファミリーガバナンス」という概念を国として示したことは高く評価できるでしょう。
一方で、最終版を読むと、パブリックコメントを通じてFBAAが提起した「ファミリーを整える」という視点は十分には反映されませんでした。ガイダンスは、ファミリー憲章、ファミリー集会、株主間契約などの制度や仕組みについては詳しく述べています。しかし、それらが機能する前提となる「ファミリーの関係性」についての言及は限定的です。実際の現場では、親子間の葛藤、兄弟姉妹間の競争意識、配偶者との価値観の違い、世代間のコミュニケーション不足など、感情や心理に関わる課題が意思決定を大きく左右します。
ファミリービジネスの問題は、制度の不備によって起きるというよりも、関係性の悪化によって制度が機能しなくなることで生じる場合が少なくありません。どれほど立派な憲章や株主間協定を作っても、相互信頼が失われていれば形骸化してしまいます。
ガイダンスでも「日頃からファミリー内での対話・交流を深めることが重要」と触れられていますが、これは本来、ガバナンスの前提条件としてもっと重視されるべきテーマです。
FBAAはこれまでも、「事業を整える前にファミリーを整える」「ルールの前に関係性を整える」という考え方を大切にしてきました。ファミリービジネスの永続性を支えるのは、制度だけではなく、人と人との信頼関係だからです。
今回のガイダンスは、日本におけるファミリーガバナンス普及の第一歩として大きな前進です。しかし同時に、その次のステージとして、心理学やファミリーシステム論の知見を取り入れた「ファミリーを整えるガバナンス」の議論が求められているのではないでしょうか。
FBAAは今後も、制度と関係性の両面から、ファミリービジネスの持続的な発展を支援してまいります。
7月1日(水)のFBAA定例セミナーでは、「ファミリーガバナンスの基礎づくり ~ファミリー憲章の前にやるべきこと~」と題し、「ファミリーを整える」という視点をさらに深めながら、アドバイザーがどのように関わり、支援できるのかを皆さまとともに考えてまいります。
日本ファミリービジネスアドバイザー協会
理事長 武井一喜
Author Profile
慶応義塾大学経済学部卒。
コロンビア大学ビジネススクール経営学修士(MBA)。経済産業省「地域経済におけるファミリービジネスに関する研究会」委員(平成21年度)。
キャラクター商品メーカーを経て家業の寝具製造卸会社に勤務。基幹業務システム設計導入、リストラプラン策定実施、新規事業立ち上げの後、4代目社長。その後IT関連の起業に参加。'03年WellSpring設立。'24年2月にセブン・スプリングス株式会社設立、代表取締役・ファミリービジネスコンサルタントとしてコンサルティング・講演・研修・執筆活動を行っている。
著書:「同族経営はなぜ3代で潰れるのか?~ファミリービジネス経営論~」クロスメディア・パブリッシング、「ほんとうの事業承継」共著 生産性出版 他