ファミリービジネスの哲学と理念
ファミリービジネス(FB)には、現在2つの代表的前提があります。
1つは、それが、『長期的視点』から考えられるべきである、という前提。
2つは、FBが、「ビジネス」「オーナーシップ」「ファミリー」という『3つ』の下部システムを「含んで超えた」1つの上位システムから成るという前提。
私たちは、「ビジネス」「オーナーシップ」「ファミリー」の3つの下部システムは、『構造的』に矛盾を抱えているため、『そのまま』にしておくと、早晩相反し始める、
結果、その3つを含んで超えた1つの上位システムは、『内部』に解決されない矛盾を抱え、自ずと崩壊する危険にさらされ、永続性がままならない、と考えます。
たとえば、ファミリー・システムは、家族間の愛情に基づいた親密な関係や交流を、最も大事なもの、ととらえるでしょう。一方、ビジネス・システムは、金儲け、利潤、効率、有用性を、一番重視するでしょう。
その2つのシステムを、そのままにしておくと、2つは、敵対しあい、問題を生むことになります。それは、その2つのシステムに属するメンバーの問題というより、2つのシステム間に『元来』潜む構造的違いあるいは問題である、と考えます。
ですので、FBを永続させるには、3つの下部システムを放置したり、自然に任せたりするのではなく、『外側から、人工的に、意志と戦略を持って』介入することが不可欠です。外側からの人工的介入の代表が、「ガバナンス」や「マネージメント」です。
そして、ガバナンスとマネージメントは、『哲学』や『理念』を基に進められることになります。たとえあなたが、その哲学や理念に気づいていなくても。
あなたは、ビジネス、オーナーシップ、ファミリーの各下部システムの背景に、哲学や理念が、『無い』と思いますか?
私たちは、そうは考えません。ビジネス、オーナーシップ、ファミリーの各下部システム(に属する人の頭、脳、心)には、必ず、何らかの哲学や理念が潜んでいると思います。違いは、各人が、それを、『自覚』しているか、いないか、です。
自覚していない場合は、あなたは潜在的哲学や理念に、突き動かされることになります。
たとえ、その哲学や理念が、大変劣等なものであっても。
哲学や理念は、FBにとって大切な中核的『精神的資産/資本』であるにもかかわらず。
FBの前提の1つは、「長期/永続性/サスナビリティ(sustainability)」です。
私たちがサスナビリティを考えるとき、現在まで最も長く(数千年にわたって)生き残ってきた「哲学」「宗教」「神話」を参照します。また、将来、千年から二千年生き残りそうな骨太の思想に、思いを馳せます。
すると、ヒンズー教、仏教、老荘思想(タオイズム)、儒教、土着神道、ソクラテス=プラトン、キリスト教・・・が、想起されます。
それらは、二千年~二千七百年間以上続いています。
世界各国に伝わる神話は、もっと長く永続しています。そして、それら(の幾つか)は、今後、千年から二千年後も生き残るでしょう。
それらを、FBのサスティナブルな哲学や理念を確立するうえで、参照しない手はありません。ちなみに私たちは、生まれて二百年しかたっていない若い哲学ですが、カント哲学を、好んでいます。
あなたがFBの永続性に関心があれば、古典的な哲学/思想、宗教、神話を参照しては、いかがでしょうか?
それらに共通して見られるのは、次の問いです。
「私は、何のために、生まれてきたのか/生きているのか?」
「(私の)人生の意味や目的は、何か?」
「人生に意味や目的はないのか?」
「(私の)人生のビジョンやミッションは、何か?」
「死とは何か?死んだら、どうなるのか?」
宗教や神話は、そうした質問に、答えを用意しています。
一方、哲学や思想は、答えを、必ずしも、提供していません。
にもかかわらず、あなたが生きていくうえでの「心/精神の芯(しん)や柱」を築くうえで、とても大事です。
私たちは、現代のFBを長期的に存続させたい、と望んでいる人たちは、以上のような問いを、明に暗に抱いていて、悩んでいる、と思います。特に若い世代は、そうした質問と答えへの渇望を強く持っている、と考えます。ここを、徹底的に考え抜かないと、FBを納得をもって継承する気にならない若い世代が、少なくないと思います。
私たちのファミリー・セラピーでは、そうした問いを、あなたとご一緒に深く模索し、考察します。
以上の問いは、以下の問いに連なります。
「私が、FBを承継する/経営する意味、ビジョン、ミッション、目的は、何か?」
「世界/社会/世間は、私たちのFBの永続性に、何を望み期待しているか?」
「私が死んだ後、FBはどうなるのか?」
「FBの永続のために、殺すべきFBの側面は何か、刷新すべき部分はどこか?」
それらの問いは、あなたのFBに芯、核、柱を築く助けになるでしょう。
ファミリー・システムと、『構造的』に相反しやすいのが、ビジネス・システムであると述べました。
ビジネス・システムに属する人は、「マテリアリズム(materialism)」と「プラグマティズム(pragmatism)」という哲学を、短絡的にまた無意識的に、抱いていることが少なくありません。このサブシステムの人は、
自分がそうした哲学や理念を持っていることに自覚がありません。が、その2つの哲学を持っていることが、よくあります。
そして、そのことが、ファミリー・システムに属する人との、葛藤を生みます。
どういうことでしょうか?
マテリアリズムは、通常「唯物主義」と訳されますが、「拝金主義」も意味します。プラグマティズムとは、「実用主義」です。
この2つの哲学を潜在させたビジネス・システムに属する人は、即かつ無自覚的に、次のような問いを抱きがちです。
「〇〇は、役立つのか、金儲けにつながるか?」「どくらいの期間で、効き目が出るのか、金が儲かるのか?」「すぐに結果を出せるのか?」「それは、損か得か?」
これらは「目の前」の、「短期的」利益を求める発想です。FBの長期性の考え方と、たびたび相反します。
また、人を「唯物、物=金(かね)」の面から、また「役に立つか、立たないか」の面から、見て、評価しがちです。
そのため、ファミリー・システムに属する人と、葛藤を生みます。なぜなら、ファミリーメンバーは、自分を、物や金の面から、また役立つか立たないかの面から評価されたいとは、思っていないからです。ファミリー・システムでは、家族間の情緒、親密さ、思いやり、やさしさ、誠実さの方が、ずっと大切と考えられるからです。
拝金主義、実用主義、短期的損得からビジネス的利益を得て、オーナーシップ的に富裕になっても、ファミリーメンバーに嫌悪されて、FB全体から見ると失敗そして不幸になる人やケースが、たくさんあります。
高齢者になっても、拝金主義、実用主義、損得の考えしか持ててない場合、それらは、その人を不幸、空虚、失望に陥れかねません。
ちなみに、ファミリー・システムには、たとえば「愛(love)」や「共苦/共悲/コンパッション(compassion)」「誠実さ(integrity)」といった哲学や理念の潜んでいることが、よくあります。それらは、金、実用性、損得とは、関係あり/相いれません。
ですので、ファミリー・システムの哲学である「愛」「コンパッション」「誠実さ」と、ビジネス・システムの哲学や理念である「拝金主義」「実用主義」との、ぶつかることが、よくあります。今回は、詳しく書き
ませんでしたが、オーナーシップ・システムは、ある場合はビジネス・システム寄りの、別の場合にはファミリー・システム寄りの哲学や理念を抱きます。
さて、FBの3つの下位システムには、実は、哲学や理念間の「衝突」や「葛藤」が潜在します。私たちは、その問題を解決するために、数千年間生き伸び、将来数千年生存し続けるであろう古代から続く哲学、宗教、神話を参照しています。それらが、FBのガバナンスやマネージメントを、外側から、人工的に、意志と戦略をもって介入するうえで、『鍵』になると考えるからです。
あなたは、数千年間生き伸び、将来数千年生存し続けるであろう古代から続く哲学、宗教、神話から、「あなたのFBにフィットするオリジナルな哲学創り、理念育成」に、関心がありますか?それは、FBに潜在する3つの下位システム間の構造的問題を、あなたに合ったやり方で、解決するでしょう。3つの下位システム全体の最適化を促し、永続性を可能にする、1つの上位システムを生むでしょう。
Author Profile
ファミリー・ビジネスを持続・永続的に行うには、経営コンサルティングや税務アドバイスのような「ハード・スキル」と、ファミリー・セラピー(家族療法)のような「ソフト・スキル」の3面からの統合的支援が求められます。私は、家族の「癒し」と「再建」のためのファミリー・セラピーと、家族の健全さの「維持」と「予防」と「発展」のためのファミリー・アドバイスを34年にわたり行ってきました。
また、ファミリー・ビジネスのオーナーや大企業のエグゼクティブに対するコーチングにも、たくさん携わらせていただいています。
現在は事業承継・相続や経営について学び、各専門家と協力・協働しながら、日々ファミリー・ビジネス・アドバイスを行っています。
ファミリーとビジネスの結びつきを背景から支援するファミリー・セラピーに、より一層励んでいきたいと考えています。
現在、ファミリービジネス支援センター(FBSC)共同代表、セブン・スプリングス株式会社メンバー、一般社団法人FBAA・ファミリービジネスアドバイザー資格認定証保持者(フェロー)。
著書『痛みと体の心理学』(新潮社)他、訳書アーノルド・ミンデル著『オープン・フォーラム』(春秋社)他多数。