ファミリーオフィスは、その設立初期から失敗してはいないか?
Starting on the Wrong Foot When Creating Family Offices?
どれだけの家族がファミリーオフィスに期待しているでしょうか?
どれだけの家族が、自分たちのファミリーオフィスが経済的な豊かさだけでなく、自分たちをより豊かにしてくれると信じているでしょうか?
世代交代を経ても存続できるファミリーオフィスを持っている家庭がどれだけあるでしょうか?
現実は、あまりに少ないのが現実です。
まずは、ファミリーオフィスの原点に立ち返って、その成り立ちをよく見てみましょう。そうすれば、ファミリーオフィスの前に立ちはだかる制約や偏見が見え、さらにはイノベーションを起こす必要性を感じることができるかもしれません。
今回はFFI Practitioner 2022年5月11月号より、ファミリーオフィスが直面している課題についてご紹介します。
「税金は期限内に申告しなければならないが、喜びや幸せ見つけることに期限はない。ファミリーオフィスは期限や責任を果たすべきことにフォーカスする傾向がある」
ファミリーオフィス(特にシングルファミリーオフィス)は、一般的に以下のような現実から生まれ、形成されています。
①ファミリーオフィスは、機会やビジョンにより設立されるよりも、むしろ必要性が生じて設立される。
- 投資や税金の管理といった明白で分かりやすいニーズは、一般的に家族がファミリーオフィスを設立するきっかけとなる重要な事柄である。
- 多くの家族は、家族で共有する目標や財産形成の目的といった目に見えない家族のニーズを認識するよりも前に、財産的な明白で分かりやすいニーズに直面する。
- 税金は期限内に申告しなければならないが、喜びや幸せ見つけることに期限はない。ファミリーオフィスは期限や責任を果たすべきことにフォーカスする傾向がある
②ファミリーオフィスをはじめたばかりの企業は、新しいアイディアや多様な意見を取り入れない傾向にあり、標準を複製することに安全性を見出す。
- 事務所を立ち上げたことのないプロフェッショナルは、自分と同じような考え方を持つ仲間から洞察を得ている。
- 事務所を立ち上げたことのないプロフェッショナルは、一般的に仕事柄リスクを回避しがちであり、話を聞いた同業者の標準偏差の範囲内にとどまりたいと考える傾向にある。
- ファミリーオフィス設立の経験があるプロフェッショナルは、以前と同じプロセスや考え方を売り込んで仕事を獲得しようとする。
③ファミリーオフィスは、ハンマーしか持っていないため、あらゆるものを釘のように扱う傾向がある。
- プロフェッショナルは、その専門性を買われたのだから、その専門性に寄りかかり、自分が一番良く知っていることや自分の主観でファミリーが望んでいることを想定して、優先順位付けや意思決定をしていく。
- 一方、ファミリーは専門家ではないので、ファミリーオフィスの運営をプロフェッショナルに委ねることになる。
- ファミリーは技術的な専門家を雇うことが多く、ファミリーのシステムを深く理解し、ファミリーの繁栄に専心する専門家を雇うことはほとんどない。そのため、家族の財産の維持・管理が最優先にされてしまうし、ファミリーオフィスに関する会話(コミュニケーションや文化等)の内容はファイナンスや富に関するものになりがちである。
④ファミリーオフィスをはじめたばかりの企業は、効果的でない不健全な考え方によって形成される可能性がある。
- 金融資本は、守るべき優先事項であると同時に、家族が金融資本に踊らされないように家族を金融資本から守らなければならないものでもある。
- ファミリーオフィスは、一族や個人への投資としてではなく、コスト・センターとみられる傾向にある。
- ファミリーオフィスは、世代間のヒエラルキーによって構成されており、少数のトップが多数のボトムに対して意思決定を行う。
- どんな手段をとっても金を儲け、それを手放そうとする計画は依然として顕著である
⑤プロフェッショナルはファミリーメンバーではない。
- 家族が何を望んでいるのか、家族にとって何がベストなのかを深く考えることを、家族のことを知らないプロフェッショナルに委ねてしまうことがよくある。
- 複数の家族のためにオフィスを作る専門家は、その家族を構成するファミリーメンバーのことはほとんど知らないし、そのファミリーメンバー同士がオフィスを通じてつながりを保つことが健全であるかどうかもわからない。
- プロフェッショナルは、「戦略的思考モード(よく考えて行動するモード)」よりも、「実行モード(物事を積極的に進めていくモード)」でファミリーオフィスの構築を始める傾向がある。
- プロフェッショナルは、具体的で分かりやすい数字目標に責任を負っており、数字では測れない大切なことを代償に、数字目標達成のために尽力する傾向がある(家族もそこを評価している)。
⑥ファミリーメンバーはプロフェッショナルではない。
- ファミリーオフィスの多様なモデルや可能性について熟知しているファミリーメンバーはほとんどいない。
- ファミリーオフィスを立ち上げるファミリーメンバーは、同業他社を参考にすることが多く、その結果、オフィスとは何か、あるいはどのようなものになりうるかについて、小規模で特異なデータセットしか得られていない。
- ファミリーメンバーのつながりを維持するための決断が、ファミリーメンバー同士でなされることはほとんどない。
金融資本は、守るべき優先事項であると同時に、家族が金融資本に踊らされないように家族を金融資本から守らなければならないものでもある。
シングルファミリーオフィスを最初から欠陥のあるものと見なすことは、ファミリーオフィスが家族のためになっているポジティブな効果を見落としてしまうことになるので望ましくはありません。しかし、有能なプロフェッショナルは、自分を雇ってくれたファミリーを支援するために、自らを省み、探求し、革新的です。
6項目は例示ですが、これらの課題をどう受け止めて発展させていくかについて決まった方法はないので、ファミリーオフィスの設立に携わる方は関係者とともにこれらの考えを検討することで、より幅広く多様な考えを呼び起こすことができるかもしれません。
ファミリーオフィスを運営するプロフェッショナルは、これらの考えを吸収し、「ハッ」とする瞬間があるかどうかを確認する時間を持つことが有益でしょう。
いずれにせよ、ファミリーオフィスの現状に挑戦し、プロフェッショナルがファミリーオフィスの形態や機能にどのような影響を与えているかを意識することが、未来のファミリーオフィスのかたちを見出していく出発点になるかもしれません。
About the Contributor
Jim Coutre, ACFWA/ACFBA, is vice president of Insights and Connections at Fidelity Family Office Services in Boston. Jim is a member of the GEN faculty and will be co-leading GEN 504 Philanthropy, Investing and the Family Enterprise: An Advisor’s Role in Supporting the Family’s Pursuit of Impact in September 2022. He can be reached at James.Coutre@fmr.com.
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Author Profile
FBAAファミリービジネス・アドバイザー資格認定証保持者。
監査法人及び都内コンサルティング会社に勤務した後、独立。父が経営する会計事務所とともに相続・事業承継案件を中心にサービスを展開している。
また、出産・育児を通して母や子供目線の事業承継やオーナー教育の大切さ実感しており、業務の傍ら調査・研究を進めている。