Family Firm Institute (FFI) Global Conference参加のご報告(後編) 5期フェロー 内田博之

2024年に行われましたFamily Firm Institute (FFI) Global Conferenceの参加手記を前編と後編の2回にわたってお届けいたします。(前編はこちら)

Tracking time: Looking forward by Looking back

米国The Family Portfolio社の2名のファミリービジネスコンサルタント、 Ms. Teresa Edmondson、Ms.  Kathy Wisemanによるセッションで、ジェノグラムとファミリーヒストリーの作成を通じ、いかにして過去を振り返り、未来を見据えるためのセッションをファミリーで行うか、実践事例の紹介も交えて説明がありました。

特に、人間関係に問題があるファミリーが、ファミリーヒストリーの作成を通じ、断絶された人間関係をつなぎ、さらにお互いを尊重して話し合えるようできるか、といった点に触れられており、非常に興味深い内容でした。

 

ファミリーヒストリー作成を進める過程では、各ファミリーメンバーが自分自身の考えを臆することなく表明できるようにすると共に、他者の発言を受容することが重要になりますが、これを円滑に進めていくための方法として、以下のような説明がありました。

  • 各ファミリーメンバーが、これまで発生した重要なファミリーイベントを挙げていくと共に、そのイベントがその人にどのような影響を及ぼしたかを発表する。
  • その際、①誰か一方の味方をする、②相手を言い負かす、③不安を煽るような行動を取るまたは発言をする、④教えるまたはアドバイスするといった態度を取る、といったことをしてはいけない。
  • お互いの発言を傾聴することに集中するセッションを何度か繰り返すことにより、各ファミリーメンバーが違った考えを受け入れて、これまでとは違った思考をすることを促していく。

このような思考と意思決定の方法はミツバチの集団的意思決定手法と似ているとのことで、参考書籍としてコーネル大学教授・Thomas D. Seeley氏による”The Lives of Bees”(日本語訳:『野生ミツバチの知られざる生活』青土社)が紹介されていました。

なお、筆者はこちらよりも同氏の別の著作”Honeybee Democracy”(日本語訳:『ミツバチの会議 – なぜ最良の意思決定ができるのか』築地書館)の方が、今回のセッションの理解を深める上で参考になりましたので、合わせて紹介させて頂きます。

Cultural Stewardship in Family Firms:  String, Transmitting and Leveraging Cultural Values

University of Hawai’iのMarjan Houshmand氏によるセッションで、ファミリービジネスにおけるCultural Stewardshipの概念について、ケーススタディを用い、参加者相互で議論しながら理解を深めることを目的としたものでした。

Cultural Stewardshipとは、伝統を保持し、コミュニティのステークホルダーとの関係を強化するために、世代間で文化的な価値観を形成し、移転し、活用していくための意図的な努力である、と定義されていました。

また、この概念は以下の4つのメカニズムで実現されます。

  1. Translating Generational Values
    現在の世代が、先代が創った文化的な価値を理解し、時代に合わせて再適用すると共に、長年にわたり醸成されたファミリー企業の文化とその背景のエッセンスを守っていく、継続的な努力
  2. Cultivating Cultural Resonance
    ファミリー企業の組織文化が地域文化と関連づけられて構築されることで、企業が提供する価値と伝統をより強固にするような、地域との象徴的な関係性を構築するプロセス
  3. Engaging in Community Cultural Preservation
    ファミリー企業が、事業を通じた利益獲得を超え、コミュニティの文化を保持し、伝えることに積極的に関与し、文化的な伝統を守る役割を担う
  4. Evolving to Ensure Future-Focused Cultural Continuity
    ファミリー企業の文化的な伝統を維持、進化させるため、次世代がファミリー企業の核となる理念を守りつつも革新を起こしていけるようにするためのツールを準備する、戦略的な計画・準備

この概念を理解するために紹介されたケーススタディは、ハワイで地元住民向けにリーズナブルな価格でワンプレートの食事を提供するレストランである、Rainbow Drive – inです。

Rainbow Drive – inは1961年に沖縄にルーツを持つ日系アメリカ人、Seiji Ifuku氏が創業したレストランですが、現在は3世代目のChris Iwamura氏に引き継がれています。

実際に、Rainbow Drive-inの実例を上記の4つのメカニズムに当てはめると、以下のように説明できます。

  1. Translating Generational Values
    Chris Iwamura氏がこの事業を継承するにあたって意識していることは、祖父のIfuku氏から引き継いだ責任を果たすことである、とのことでした。創業当時、地域の労働者が低価格で満足できる食事を楽しめるよう、価格を抑えたメニューを揃えることで地元コミュニティに貢献をしていましたが、現在もその祖父のビジョンを継承し、手頃な価格で質の高いメニューを地元コミュニティのために提供しています。
  2. Cultivating Cultural Resonance
    Rainbow Drive-inは、企業が提供する価値(手頃で満足できる量の食事)とハワイの文化(大勢で一緒に食事をする文化、様々な国や地域の料理が反映されたメニュー)の両方を反映したローカルフードを提供している。Chirs Iwamura氏は、この核となる価値を維持しつつ、バックエンドのオペレーションへの新技術の導入、顧客の嗜好の変化に対応した新しいメニューの開発などを行っている。
  3. Engaging in Community Cultural Preservation
    Rainbow Drive-Inは、地域の文化イベントのサポート、地域の子供向けの教育プログラムへの資金支援、ハワイ沖縄連合会(Hawai’i United Okinawa Association)の活動への参画などを社会貢献活動として行っている。
  4. Evolving to Ensure Future-Focused Cultural Continuity
    次世代の若い顧客、後継者候補、従業員向けに、ファミリービジネスの歴史を共有し、伝えている。

ロンドンで、日本にルーツを持つハワイのファミリーの事例が取り上げられ、参加していて非常に楽しいセッションでしたが、Cultural Stewardshipを実現するためには、守るべき文化的な価値を次世代に伝えていくためのストーリーを如何に準備し、伝えていくか、という点が何より重要であることがケースを通じて深く理解することができました。

終わりに

カンファレンスが開催されたLondon Business Schoolは、London中心部ながら自然豊かで静かな場所にあります。このような落ち着いた環境でカンファレンスに参加することができ、より深い学びができたのではないかと感じています。

カンファレンスのエンディングセッションで、ファミリービジネスは1つとして同じ話はなく、テーラーメイドでの対応が必要であるが、一方でそれを進める上でのフレームワークが重要である、とのお話がありました。このメッセージから、FBAA及びFFIで学んだフレームワークを実践で活かしていくことの重要性を再認識することができました。

また、いくつかのセッションの中で、日本のファミリービジネスの事例に触れられることが度々あり、それもあったためか、日本のファミリービジネスのことを知りたい、とのコメントを複数の参加者から頂きました。共に学ぶ場としてのカンファレンスに日本人として参加する以上、日本のファミリービジネスについての情報を発信し、貢献することの必要性も感じました。来年のカンファレンスも予定が合えば参加したいと思っておりますが、その際にはこの点を意識して参加したいと思います。

なお、次回のFFI Global Conferenceは、2025年10月29日から31日の日程で、Bostonで開催される予定です。

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