真の事業承継支援と地域金融機関の役割
- 承継を支援するアドバイザーに求められること
T型人材としての特性
承継を支援するアドバイザーには、T型人材としての特性が求められます。T型人材とは、特定の専門分野において深い知識とスキルを持ちつつも、顧客の視点に立って多様な論点を同時に考慮し、広い視野で未来を見据えたアドバイスができる人材を指します。例えば、財務や法律の専門知識に精通しているだけでなく、顧客のビジネス全体を見渡し、長期的な視点で戦略的な提案を行うことができることが重要です。このようなアドバイザーは、顧客が直面する複雑な問題に対して総合的な解決策を提供し、顧客の信頼を得ることができます。
ネットワークの構築
さらに、アドバイザーはさまざまな専門家とのネットワークを構築し、ビジネス、ファミリー、オーナーシップの三つの面から総合的な支援を行うことが求められます。例えば、税理士、弁護士、コンサルタントなど多様な専門家と連携することで、顧客に対する支援を多角的かつ包括的に行うことができます。このようなネットワークを活用することで、アドバイザーは顧客のニーズに迅速かつ的確に対応し、より効果的なアドバイスを提供することが可能となります。
Trusted Advisorとしての信頼性
アドバイザーは、オーナー経営者および後継者の双方から信頼される存在、すなわちTrusted Advisorであることが重要です。信頼されるアドバイザーは、顧客との信頼関係を築くことで、より深いレベルでのコミュニケーションが可能となり、顧客の真のニーズや課題を把握することができます。例えば、オーナー経営者からの信頼を得ることで、企業の長期的なビジョンや戦略についてのアドバイスが求められる場面でも、適切な提案を行うことができます。また、後継者からの信頼を得ることで、次世代の経営者としての成長をサポートし、企業の持続的な発展に寄与することができます。
- ファミリービジネスを支援する者として地域金融機関に求められる役割
長期的な視点での付き合い
地域金融機関は、中小企業と長期的に継続的な関係を築く重要な役割を担っています。この役割は、単なる短期的な売上や損益にとどまらず、地域経済を支える企業を育成し、成長を支援する立場にあることを意味します。例えば、地域金融機関が企業との長期的な関係を構築することで、企業の事業素質を見極める姿勢にもつながり、企業の成長をサポートすることができます。これにより、地域経済全体の発展に寄与することができます。
後継者の育成への着意と支援
また、地域金融機関は親世代(現社長など)だけでなく、後継者とも早い段階から関係を築き、後継者の育成にサイドサポートを行うことが求められます。例えば、後継者が企業の経営を引き継ぐ前に、地域金融機関が適切な教育やトレーニングプログラムを提供することで、後継者が必要なスキルや知識を習得し、企業を効果的に運営するための準備を整えることができます。このようなサポートにより、後継者は企業の経営に自信を持ち、企業の持続的な成長を実現することができます。
目に見えない資産の理解
金融機関は一般的に目に見える資産の承継に関心が向きがちですが、目に見えない資産が目に見える資産を創り出すという理解が必要です。例えば、企業のブランド価値や顧客との信頼関係、従業員のスキルやモチベーションなど、目に見えない資産は企業の成功に不可欠な要素です。これらの目に見えない資産を理解し、支援することが地域金融機関の役割に加わることで、より効果的な顧客サポートが可能となります。実際に、地域金融機関が企業の目に見えない資産を重視し、支援を行った優良事例も多く見られます。
金融機関内の人材に係る人材育成と人格形成
地域金融機関がその役割を果たすためには、人材育成も重要であり、人格形成を含めたリカレント教育が求められます。例えば、単に会社から指示されたスキルを勉強するのではなく、主体的に顧客に信頼される人材となるためのリカレント教育が重要です。特にシニア人材は、これまでの豊富な経験を活かしつつ、新しい目線で謙虚に向き合うことが求められます。具体的には、地域金融機関がシニア人材に対してリカレント教育を提供し、彼らが企業の経営者や後継者に対して信頼されるアドバイザーとしての役割を果たすことを期待することができます。
私たちは、このような高い倫理観をもった金融機関の役職員が、長期的な視野をもって地域を支える中核となるファミリービジネスを支援していくことこそが、地域経済に貢献する金融機関を作るために必要なことと確信しています。
私たちFBAAには、このような志の高い金融マンが集い、さまざまな業種の人たちと一緒に学び、その後の関係を構築しています。これこそが本当に有意義なリカレントの機会になると信じてやみません。
Author Profile
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日本興業銀行、みずほ証券にて、M&Aアドバイザリー、経営企画、コーポレートコミュニケーショ等に従事したのち、ウェルスマネジメント本部長を務める。
2017年に㈱ソーシャルキャピタルマネジメントを設立、代表取締役社長に就任、現在に至る。経営戦略、M&A、理念浸透を含むコミュニケーション、ガバナンス、サステナビリティなどの観点から、社外役員、コンサルティング、社員研修、後継者育成支援など、さまざまな業務を行う。
FBAAには2016年より参画、2022年2月より執行役員プレジデント、11月より理事プレジデントに就任。
ファミリービジネス学会、事業承継学会会員。日本跡取り娘共育協会代表理事、グロービス経営大学院教員も兼任。