100年企業はファミリーガバナンスから生まれる

長寿企業大国日本が危ない

ファミリービジネスの後継者難が大きな問題になっています。長寿企業大国と言われてきた日本で、なぜこのようなことが起きているのでしょうか。私はその背景に戦後の民法が想定した家族の在り方に、多くのビジネスファミリーが適応できていないことに原因があると考えています。

長く続いた武家の「イエ」の在り方を前提とした明治民法では、家督、長子相続が国の制度とされていて、家の事業は長男を筆頭に本家・分家が力を合わせて守り発展させることが当たり前のこととして文化に根付いていました。戦後の民法に変わり、家督の概念は法律的には無くなり、次世代が均等に相続することが基本形になりました。

ところが、民法が改正されても、それがファミリーの文化に根付くまでには何世代かを経ることになります。1947年に民法が改正されて、戦後に創業した企業は70年余り経過し、多くは第3世代がリーダーシップを担う時期に来ています。ちょうど今がその時期であり、第2世代(団塊・ベビーブーム世代)はまだ家督の概念を持ち、それを次世代が引き継ぐのは当然だと考えていますが、第3世代(団塊ジュニア・ミレニアル世代)やその配偶者は、戦後民法に基づいた家族観を持っていて、ここに大きな価値観、家族観のギャップが存在します。

「売り家と唐様で書く三代目」の言葉は、自然の成り行きに任せていれば3代で潰れることになると解釈できます。この言葉の通り、三代目には常に構造的なリスクがあるのですが、民法の変更に伴うこの文化的なギャップが加わり、日本のファミリービジネスの世代交代が困難になっているのです。私のコンサルティングの経験から言えることは、多くのビジネスファミリーで価値観の再確認、ファミリー文化の再構成が必要になっている、という事です。

これは昔のイエに戻ろう、という事ではありません。世代間のギャップをテーブルに載せてファミリー全体で話し合い、わがファミリーはどうしていくべきかを共通認識とすることをお勧めします。

ファミリーガバナンスがビジネスの永続的な発展のカギ

事業の永続的な発展のためには、世代交代を重ねていく必要があります。世代の交代は、関わる全ての人の役割が変化することを意味します。

世代交代のたびに次世代のファミリーが、経営者として、また良きオーナーとして事業をリードし、支えていく事が100年、200年かけて繁栄するファミリービジネスの要です。そのためには、オーナーファミリーは直接事業に従事する/しないにかかわらず、ファミリーの全員でビジネスを支える文化を育むことが重要であり、関わる人たちが心身ともに健康で、ファミリー内外との良質な関係を持つことが求められます。

ファミリーガバナンスは、このような健全なファミリー関係が基礎となり、その力を発揮するものになります。

ファミリーガバナンスとは

思い切ってファミリーガバナンスを一言で言うならば、“ファミリーとしての意思決定ができる状態”と言えるでしょう。家長が一人で物事を決めるのではなく、ファミリー全体が意思決定に参加し、考えを共有し、統一した良質な結論を得ることができるかどうか、ということです。

そのためには、

①共通のビジョン、存在意義、目的意識(精神的資産)、
②知識、経験、好奇心、情熱、思慮深さ、謙虚さ(知的・人的資産)、
③コミュニケーション能力、信頼関係、尊敬と感謝、団結力、人的ネットワーク(社会関係資産)、
④それらを支え、育むために必要なお金(財的資産)

のそれぞれの資産を磨き、高め続ける努力が必要です。いわば「学習するファミリー」であることが求められます。

繫栄するビジネスファミリーとは

あなたの(あるいはあなたのクライアントの)ファミリーは、世代を超えて繁栄するビジネスファミリーと言えるでしょうか。繫栄するビジネスファミリーチェックリストで確認してみてください。

□スマホに従兄妹全員の連絡先が入っている(特に第3世代の場合)。
□従兄妹は電話であなたの声を聴いただけで(名乗らなくても)あなただとわかる。
□ビジネスに関係ないことでも、やりたいことは家族に応援してもらえる。
□家族で共に過ごす時間を定期的に持っている。
□ファミリー内の約束は守る、守れないときはしっかりと説明し、説明を受け止めてもらえる。
□女性も重要な人的資産であり、能力があれば事業に参加できるのは当然である。
□違和感や反対意見があるときには、仲介者を介さなくても直接本人に話すことができる。
□反対意見に対する返答は、頭ごなしではなく、理解しやすい言葉で伝えられる。
□助けが必要になった時には、「助けて!」と声を上げることができる。
□会社を離れた場(食卓など)では互いに役職で呼ばず、家族の呼び名(お父さん、○○ちゃん)で呼び合う。また、仕事の場では、互いに家族の呼び名で呼ばず、役職名を付けて呼ぶ。
□仕事の上下関係を家族の関係に持ち込まない、仕事の関係に家族の上下関係を持ち込まない。
□家族の中でも仕事の話は従業員やお客様に話すように丁寧に話す。
□社長夫妻、会長夫妻はしっかりと意思疎通ができている。
□家族全員が人間として成長しようとする意欲を持っている。
□ファミリーやファミリーに近い人に経験豊かな長老(エルダー)がいて、意見を求めることができる。
□現役世代は長老の意見に耳を傾け、尊重しつつ、社会環境の変化に対応した解決策を見出すことができる。
□ビジネスに直接かかわっていないファミリーメンバーも、会社の役員や主な人材の人となりを知っている。
□会社の役員や主な人材は、オーナーファミリーの会社に携わっていないメンバー、特に次世代にも面識があり、人となりを知っている。
□ファミリーは将来起きるだろう状況(他界、病気、事故、結婚、出産、離婚など)に対して準備している。
□個人の幸福と家族の幸福のバランスよい両立のため、若干の自由を犠牲にすることはいとわない。
□家族への愛情は、費やす金額ではなく、費やす時間で測られることを理解している。
□4代前の先祖について語ることができる。
□家訓や家族全員が大切にすべき価値観を言葉にしたものが共有されている。

ファミリービジネスコンサルタント

永続するファミリービジネスの世代交代は、次世代への交代の最中に次々世代への交代の初期段階が始まるという、連続する終わりのないプロセスです。毎世代、ファミリーメンバーの役割が変わり、子供の頃には無かったような家族関係の変化が起きてきます。

「こんなはずではなかった」はクライアントのファミリーからよく聞く言葉です。世代交代は、これまでのファミリーの関係がいったん壊れ、新しい関係に生まれ変わる、100年企業になるための通過儀礼ともいえるものです。

FBAAのファミリービジネスアドバイザーは、MTA(Most Trusted Advisor)として、このようなファミリーとビジネスのプロセスに伴走し、オーナーファミリーやビジネスに従事する方々と泣き笑いを共にし、ファミリーを励まし、必要な知恵を提供しながら、世代交代という通過儀礼を支援する存在であることを目指しています。

講座は、税務、法務、金融、経営などの専門分野を持つ方、ファミリービジネスのオーナー、経営者、経営幹部、次世代ファミリーの皆様にもご参加いただき、100年、200年続くファミリービジネスを支えるための気づきを得ていただく内容になっています。

読者の皆様のご参加をお待ちしています。

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