3社の事例にみるファミリービジネスの事業承継

事業承継を機にビジネスモデルや企業文化を変革し、成長の機会とした3社の事例を通して、事業承継の成功のポイントを見ていきたい。

事例では、新社長となってからさまざまな改革を実践し、より強い企業となっていることが共通している。

こうした事業承継の成功によるビジネスの強化こそ、ファミリービジネスならではのものである。

後継者の自覚は幼少時から

ファミリービジネスの世襲的な事業承継に対しては、「ビジネスを私物化しかねない」などと批判的な声が少なくない。

ところが、世襲だからこそ、ビジネスが持続し、従業員が守られ、取引先が信頼してくれるというプラスの面が大きいことが、ファミリービジネス研究から明らかになっている。

ファミリービジネスの経営者たちの気持ちを見ると、親として「子どもには苦労を掛けたくない」「子どもには自分の好きな道を歩んでほしい」と望むことが多い。

一方で後継者となった子どもたちは、家業としてのビジネスに自然と興味・関心を持ち、両親や祖父母の生き方を目の当たりにすることから、心構えが養われていくのだと思われる。

創業者である祖父から直接、さまざまな話を聞く機会のあったC社(金属加工業)の社長などは、この好例だ。

B社(建設業)社長も他社への就職後、父と向かい合って語り合う機会があった。

幼少時から長い時間をかけて少しずつ覚悟が培われていくのは、ファミリービジネスならではであろう。

葛藤や確執を経て後継者は成長する

事業承継の道筋が決まったからといって、すべてが世代交代に向けてスムーズに進むというわけではない。

A社(レンタル業)ではたびたび父子の確執が表面化したが、ファミリービジネスにおける世代交代ではこうしたことはよく起きるのである。

改革を急ぎたい子は、一方で親たちが今まで築いてきたものを否定してはいけないという子としての情にさいなまれる。

親は子のチャレンジを応援したいと思う半面、子どもに自らを否定されることの辛さをひしと感じる。

そんなファミリーとしては当たり前の心の動きが、ビジネス上の大きな問題を生んでしまうのだ。

確執は古参社員と後継者の間でも起こる。人はとかく変化を避けたがるものだ。古参社員ほど抵抗するのは当然のことである。

3社の社長たちもみな、こうした問題に悩んだ時期がある。私はこれらの確執・葛藤はある種の通過儀礼だと捉えている。

自分にとことん反対する父親や古参社員と出会い、戦うことで、後継者たちは新たな自己を発見する。

そのプロセスを通じて、従業員とのコミュニケーションのあり方、リーダーシップの発揮の方法、孤独な経営トップの立ち位置などを理解していく。

その中で、有力な支援者に出会えることもある。A社の社長は、父親との関係に悩んだ時に、他社の先輩社長などが相談に乗ってくれた。

自分と父親の関係を見つめ直す体験があったからこそ、抵抗を乗り越えていく心構えができたのだ。

C社には頼りになる古参社員がいた。ともすれば従業員が険悪になりがちなトラブルの際にも、「社内で怒鳴り合うのはやめてください」と収めてくれた。

長年の取引先の事情にも明るく、後継者にとって大きな力となったことだろう。

後継者は次第に「戦う」から「引き受ける」へと、姿勢を変えていく。革新を押し付けるのではなく、革新による変化や圧力を自身が引き受けることで、周囲の納得を得ていくことができるようになるのだ。

後継者に対しては、家族として先代に対する感謝の気持ちをしっかりと表してほしいとアドバイスしたい。

気持ちを形に表して初めて、先代たちは後継者の成長を実感し、経営判断にも納得できるようになる。

家族としての感謝とトップとしての決断の両方を大切にすることがポイントだ。これによって、後継者の果敢な改革が可能になる。

前経営者は一歩引いて

後継者にトップを譲った前経営者の立ち位置もまた、事業承継に大きな影響を与える。

経営者の立場を譲った後も、現場の仕事、特に経営判断に関わることに口を出すなどすれば、社内は混乱するだろう。経営を譲ったからには、前経営者は現場への介入を控えることが大切だ。

一方で、前経営者からのアドバイスほど、後継者にとって心強いものはない。A社では、なかなか成果が出ないと焦る後継者に対し、先代社長が「新事業は難しいから」と理解を示した。

短期間で成果を求めるのではなく、長期的な視野を持つことの重要性を、後継者はあらためて認識できた。

一歩引いて、大局的かつ客観的に会社を見つめ、必要な時に適切なアドバイスをする。そんな立ち位置が、前経営者には求められる。

創業の精神や経営理念を明文化

事業承継は、時代や環境の変化に合わせた戦略転換の好機である。

とはいえ、変えてはならない部分、アイデンティティとなる要素は大切に守っていくことが必要だ。

それは、創業者が守り続けた姿勢や事業に対する考え方、地域や業界の中での会社が果たすべきと考えてきた役割などといったものである。

ファミリービジネスとしての強みを維持するためにも、創業の精神や会社の経営理念を明文化しておくことをおすすめしたい。

ファミリーも、そして従業員も、折に触れて理念を反復することで、会社は結束力を増し、変革に耐え、環境変化に勝ち残るための力を蓄えることになる。

ファミリービジネスが3~4代続けば100年企業に、6~7代続けば200年企業になる。

永続する会社をつくるために、事業承継をチャンスとしていただきたい。

※「しんきん経営情報 2014年12月/2015年1月号」武井寄稿をもとに編集

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