ファミリービジネスの自社株式承継対策
自社株式承継対策の主な手法
今回は財産承継としての自社株式の承継対策について記載します。
FBAAではおなじみのスリーサークルの構成要素であるファミリー、オーナーシップ、ビジネスの3つのサブシステムのうち、自社株式の承継対策を考えることは特にオーナーシップの良好なガバナンスづくりのためにも重要なことと私は認識しております。
ファミリービジネスのオーナー経営者が後継者に自社株式を承継させる対策を生前に何もとらなければ後継者はその自社株式を「相続」で取得することになります。
「相続」はいつおこるかわからないですし、発生してしまった場合には株式評価の減少対策等取り得る節税手法も限られます。
また、遺言等で自社株式の行き先を後継者に指定する等の準備をしていなければ遺産分割協議が紛争し、後継者の経営権の確保も危ぶまれるかもしれません。
対策をとらないということはこのリスクにさらされている状況であるといえます。
では自社株承継対策を考えた場合、主な手法はどのようなものでしょうか?
概ね以下の4つが考えられます。
その4つとは
1.暦年課税方式により株式を毎年贈与していく手法
2.相続時精算課税方式により株式を毎年贈与していく手法
3.事業承継税制の納税猶予制度により株式を贈与していく手法
4.後継者個人や後継者の資産管理会社に株式を譲渡して行く手法
です。
その他の手法として、種類株式・信託・組織再編・財団法人・MBO・M&A等の専門的な手法の活用が考えられますが、主な手法は上記4つ(及びこの4つの組み合わせ)ではないでしょうか?
ここで上記4つの手法の活用をイメージしてみます。
1.暦年課税方式により株式を毎年贈与していく手法
贈与税の非課税金額(毎年110万円)を活用しオーナーから後継者に株式を贈与していきます。
長い期間をかけこの対策を行えば110万円の非課税の範囲内でも10年間で1,100万円の無税での贈与が可能となります。
一方で贈与税の税率は高いので一度で高額な贈与を行うと後継者に多額の贈与税が発生してしまう危険があり、計画的な対応が必要です。
2.相続時精算課税方式により株式を毎年贈与していく手法
相続時精算課税は2,500万円までの特別控除の範囲までは無税での贈与が可能です。
(特別控除を超えた部分は一律20%の税率となります。)
この手法を使うと贈与時の税負担は比較的軽くなりますがオーナーの相続発生時には贈与した自社株式は相続財産に取り込まれ贈与税の精算を行うことになります。
相続時に相続財産として取り込まれる自社株式の評価額は贈与時の評価額となりますので、対策により自社株式の評価額を下げた後に相続時精算課税を活用することでかなり有効な節税策として使えそうです。
一方で有効に活用するためには計画的な準備が欠かせません。
3.事業承継税制の納税猶予制度により株式を贈与していく手法
贈与税の納税猶予の適用により贈与税は全額猶予されます。
しかし、その後に後継者が自社株式を譲渡するなど一定の事由が生じた場合には猶予された贈与税が贈与時にさかのぼって課税されることになります。
後継者は事実上亡くなるまでその会社の経営を続けることが必要になります。
またこの施策は発行済株式全体の2/3が限度なので、その他の株式は別の手法を検討する必要があります。
やはり計画的な準備と実行プランが必要です。
4.後継者個人や後継者の資産管理会社に株式を譲渡して行く手法
後継者本人または後継者が資産管理会社を設立して金融機関等から資金調達でオーナーから自社株式を買取る手法です。
オーナーは株式譲渡益に20%の税金が発生しますが売却資金を手に入れることができます。
一方で株式の売却資金を手に入れるのでオーナーの相続財産が増えるので通常これだけでは相続税対策にはなりません。
また後継者及び後継者の資産管理会社は資金調達した資金の返済を行っていく計画をもっていることが必要になります。
結論としては自社株式の承継対策はそれぞれの手法のメリット、デメリットがありいずれを選択するにしても計画的な準備と対策が必要です。
そもそもそのファミリービジネスの状況を踏まえ目的にあった施策の選択が必要です。
やはりファミリー、オーナーシップ、ビジネスの3つのサブシステム全体からその施策の選択、計画的な実行をサポートするという視点が必要不可欠であろうと考えます。