事業承継計画はなぜ停滞するのか

私のFFI(Family Firm Institute  https://www.ffi.org/ )での師匠である、デニス・ジャフィ氏が、オーストラリア・ニュージーランドの会計士、コーチ、コンサルタント、弁護士、ウェルス・アドバイザーを対象に、なぜ事業承継計画が滞るのかを調査した結果を発表しました。それによると、事業承継が滞る主な要因は、税務や法務といった技術的な問題ではなく、経営者の心理的要因や家族間の人間関係にあります。アドバイザーには、これら感情面や関係性の複雑さを紐解き、実行可能な計画へと導く役割が求められています。

https://digital.ffi.org/editions/minding-the-gap-how-advisors-empower-founders-to-address-transition/

  1. 事業承継が滞る主な理由

調査によると、承継計画が停滞する最大の理由は「経営者の態度とマインドセット(51%)」であり、次いで「家族の力学と葛藤(37%)」が挙げられています。

  • アイデンティティの喪失への恐怖: 多くの創業者にとって、会社は単なる資産ではなく、自身のアイデンティティそのものです。引退を「死」や「無価値になること」と結びつけてしまい、心理的な自己消去を避けるために決定を先延ばしにします。
  • 「手放すこと」への抵抗: 権限委譲への拒絶や、後継者を際限なくテストし続けるといった行動は、支配権を失うことへの不安の裏返しです。
  • 家族間の対立回避: 「どの子が有能か」「配分は平等か」といった困難な議論を避けることで、一時的な平穏を保とうとします。また、先代の「まだ時間がある」という認識と、後継者の「十分待った」という認識のズレも摩擦を生みます。
  • 認知的な過負荷: 税務、法務、統治など計画の複雑さに圧倒され、感情的な困難も相まって、実行が後回しになります。
  1. アドバイザーによる対策と戦略

ジャフィ氏は、彼の長年にわたる経験から、効果的なアドバイザーは、単なる書類作成に留まらず、家族の感情的な適応を支援していると指摘します。

  • 構造ではなく「アイデンティティ」から始める: 法律や財務の話の前に、創業者の意味、目的、将来の役割について対話を開始します。引退後の「次の役割」を具体化することが重要です。
  • 「継続」としての再定義: 承継を「喪失」や「引退」ではなく、世代を超えた「継続」や「成長」のプロセスとして再定義します。
  • 段階的なロードマップの作成: 複雑な計画を小さなステップに分解し、優先順位と期限を設定することで、勢いを維持し進捗を管理します。
  • 世代間の対話と心理的安全性の構築: 家族間でのオープンなコミュニケーションを促し、不確実性や恐怖、公平性について率直に話し合える安全な環境を作ります。
  • 後継者の育成と権限の段階的移譲: メンタリングや外部経験を通じて後継者の能力を可視化し、創業者の信頼を高めることで、手放すことへの心理的障壁を下げます。
  • 感情の正常化: 恐怖や悲しみ、未練を感じることは自然であることを伝え、創業者の防衛本能を和らげます。

事業承継の成功には、技術的な専門知識以上に、心理的・関係的な次元をナビゲートする力が不可欠です。FBAAの基礎プログラムはこのような観点から、ファミリービジネスを支援する方々や、ファミリービジネスのオーナー・経営者の皆様が集い、学び、意見を交わし、互いに深め合う場を提供します。

日本ファミリービジネスアドバイザー協会
理事長 武井一喜

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