FBアドバイザーになってわかった「場づくり」の効果
ファミリービジネスアドバイザー(FBアドバイザー)として最も重要な仕事は、安心して問題を話し合える「場づくり」だと私は考えています。
アドバイザーが「場づくりを意識して存在すること」で、家族や社員同士は、口にすらできなかった問題を、「話しても大丈夫なんだ。解決できるんだ。」と感じ、取り組みを始めます。
問題がテーブルに乗せられ、それを皆で共有できると、メンバーは変化し始めます。そして、いつのまにか必要な行動を起こせるようになるから不思議です。
FBコンサルタントやアドバイザーが、いつもの決まったメンバーに加わることで今までにない化学反応が起きて、変化が可能になるのだと思います。
事例① ファミリー会議を通じ、メンバーが成長
例えば、3年間関った二世代6人(年商60億の専門商社)のケースでは、教育水準もビジネス能力も高く、実績を積まれた紳士たちがメンバーです。それでも、当初のファミリー会議では、家族のパターンが色濃く出て度々脱線しました。
誰かが口を開くと会長がすぐに上から抑えるような演説を始める、下の世代が会長世代に気遣いし過ぎて本音を言わない、オブラートに包むような発言ばかりで問題を直視できないかと思えば、売り言葉に買い言葉のような対決になるなど、大変でした。
しかし、3年間、私どもも参加して毎月のファミリー会議を重ねた結果、会長は演説を止めて他のメンバーの話をしっかりと聴くようになりました。他のメンバーも冷静に事実と感情を分けるようになり、問題を直視し、解決策を普通に議論できるようになりました。
目的だった株式協定や承継計画をまとめ上げ、全員納得して承認の押印をするに至りました。来月の調印式とその後の食事会で任務は完了となります。
私はこのファミリーのドラマを間近で拝見できたことに感動し、僭越ながらメンバー皆さんの成長に感動し、この仕事の奥深さに感動しました。
事例② ファミリー会議での「グランドルールの設定」
もうひとつの事例は、三代目社長の率いる、年商200億のメーカーの、社員の皆さんと関わっているケースです。
創業ファミリーが代々大切にしている価値観を元に社員の方々の意見も参考にしながら、現在、企業理念の見直しをしています。
古き良き日本を感じる社風で、謙虚な方が多く、5~6名のグループでお話を伺っても、一人一人の姿勢も丁寧で、和を尊ぶ雰囲気があります。
その一方で、本音がなかなか出ないのでは?と社長も心配なさったため、「場づくり」のツールに工夫をしました。
場づくりのツールの一つに、「グランドルールの設定」がありますが、参加者によって、その都度内容を微妙に変えています。会議の際には全員納得の上で従っていただくものです。
この会社では、次の4つを設定しました。
(1)全員が話す
(2)違う意見でもしっかり聴く
(3)自分のことを棚にあげて話す
(4)当たり前と思うことでも口に出してみる
特筆したいのは(3)の、「自分のことを棚にあげて話す」です。今回のような謙虚な社風の場合、社員の方が、「自分ができてもいないのにこんなことを言うのは申し訳ない」と意見を飲み込んでしまうことがあります。
そのため、あえてこの一文を加えました。
その結果、「ルールに書いてあるので、自分のことを棚にあげて遠慮なく言うと…」とほとんどの方が正直に現状や意見を話してくださり、深みのある議論をすることができました。今後さらに回を重ねて、社員の皆さんのモチベーションが高まるメッセージに、そして社会的にも心に響く企業理念が誕生するだろうと確信しています。
訪問する会社やファミリーには、それぞれ愛すべき特徴があり、オーダーメイドの「場づくり」が必要だと実感しています。
FBアドバイザーは、クライアントの進化をもたらす「場づくり」でメンバーの安心感を引き出し、新たな変化が起きるのを見届ける人、だと思っています。
Author Profile
キャラクター商品メーカーを経て家業の寝具製造卸会社に勤務。基幹業務システム設計導入、リストラプラン策定実施、新規事業立ち上げの後、4代目社長。その後IT関連の起業に参加。'03年WellSpring設立。'24年2月にセブン・スプリングス株式会社設立、代表取締役・ファミリービジネスコンサルタントとしてコンサルティング・講演・研修・執筆活動を行っている。
著書:「同族経営はなぜ3代で潰れるのか?~ファミリービジネス経営論~」クロスメディア・パブリッシング、「ほんとうの事業承継」共著 生産性出版 他