長期的な伴走支援できるファミリービジネスアドバイザーがなぜ必要か
日本企業の90%以上がファミリービジネス(以下、FB)であり、なかでも創業200年を超えるような長寿企業は世界の40%が日本企業となっています。所有と経営が緊密な関係にあるFBは、ファミリー内部の問題やガバナンス上の問題が起きやすいといった特徴があるものの、社会の変化に対応する柔軟性や長期的な視野に立った経営判断、思い切った経営判断ができるといった強みも持っています。
FBのオーナー経営者や社員が自社の強さやFBの良さを認識し、これに誇りをもって進めていけるようにする。
FBに発生しやすい脆さをあらかじめ認識し、そのような事態に陥らないように未然に対応を進めていくようにする。
両面において、ファリービジネスを支え、長期的に伴走していけるファミリービジネスアドバイザーが重要な役割を果たします。
今回は、FBにおける事業承継の現状と長期的な伴走支援ができるアドバイザーの重要性についてお話させていただきたいと思います。
FBを取り巻く現状とは?
近年、先行きの予測が困難なVUCAの時代と言われ、世界情勢の変化やテクノロジーの急速な進展により、あらゆる企業でビジネスモデルの変革を余儀なくされています。前時代的な経営思考への固執で時代に乗り遅れると、ビジネスの老朽化や家族内コミュニケーションの劣化による企業経営の停滞など、FBが持続可能な状況を維持できなくなるリスクにさらされます。
こうして厳しい局面で動きをとめてしまい、時代の変化に乗り遅れてますます人材難の悪循環に陥っていく企業と、厳しい時期だからこそ、若い経営者にバトンタッチして時代にフィットした経営にチャレンジする企業とで、FBの二極化が顕著になってきています。
FBの強み・特徴として、創業精神・企業理念をオーナー経営者が語り継ぐことで社内の隅々まで浸透していること、企業経営に長期的な視点で臨むことができること、地域・社会との強固なネットワークを構築していることなどがあります。これらの強みを活かした経営を引き継いでくれる後継者の存在が求められていますが、FBの事業承継をめぐる後継者不足問題は一段と厳しさを増しています。
FBの事業承継にむけての備えは日ごろからの親子のコミュニケーションに
2023年の帝国データバンクの事業承継の実態調査では、親族内承継の件数が減少し、血縁関係のない役員などを登用した内部昇格が初めて1位になりました。
お子さんがいらっしゃらない場合だけでなく、お子さんが家業を継ぐことを選択肢に入れていない場合には、親族内承継が難しいケースもあるでしょう。
子供には苦労させたくない、という親の思いの裏返しで、家業を継ぐことを選択肢の一つとして意識させてこなかったことも一因として挙げられます。
このため、親がFBに対して誇りを持っていることを伝え、家業を継ぐことが誇りや自信を持てる人生の選択肢であると感じられるようにすることも、後継者教育として重要なのではないでしょうか。
FBの後継者に求められる素質とは
FBの世代交代マネジメントにおいては、ビジネスとファミリーを同時に考えながら進めることが必要で、ビジネスが持続可能な状況でない限り、FBもファミリーも幸せにはなれません。
後継者に求められる素質として、まずはビジネスを回していける人材であることが必要です。時代の変化が急激である中、広い視野と高い視座を持ち、既存事業と新規事業の両利きの経営、DX、サステナビリティ、社員のエンゲージメントなど、多くのものを同時に考え実行できる知識と、厳しい局面でも強い意志をもって乗り切って行こうとする胆力の両方が求められます。
【世代交代のマネジメント】
また、後継者育成は、創業家に生まれた時から始まっており、幼少期からの教育が非常に重要です。親のFBに対する誇りを見せつつ、家業を継ぐことを選択肢の一つとして幼少期から意識させることで、「いつかは継ぎたい」と思えるように導いていくことがポイントです。
長期的な伴走支援ができるアドバイザーはいますか?
FBAAは、FBの後継者問題や経営の変革に伴うサポートを提供する団体で、FBアドバイザー資格認定基礎プログラムでは、講義やケーススタディを通じて、FBに対する知見と客観的かつ複眼的な視野、実践における考え方を獲得することができるようになっています。
スリーサークルモデルというFBの基本理論を採用しており、経営資源を活かして新たな価値創造を目指す「経営の承継」、次世代に次ぐことで家庭の幸福を目指す「家族の承継」、目に見える資産に限らず、無形のものも含めた「資産の承継」の3点が要となり、これらを三位一体として調和させていくことが重要だと教えます。
ファミリービジネスアドバイザーにとって最も大事な「人間力」
アドバイザーに求められる要件として、ファミリーへの深い理解と、オーナー経営者から全幅の信頼をもって迎えられる人間性を磨き上げることが挙げられます。ビジネススキルに長けた専門家はたくさんいますが、一時点でのソリューションを提供する専門家ではなく、長年にわたって付き合い続けられる、そのような信頼できる存在として、オーナー経営者や後継者から認められる存在になるためには、「人間性」がなくてはならないものになっています。
- ソリューションに限定されない、真にファミリービジネス、およびオーナーにとってともに考え、伴走してくれる存在
- 長期にわたって伴走し続けられる、人間力のある信頼できるアドバイザー
- 信頼してファミリーの恥部を晒すことができる存在
- ファミリー、ビジネス、オーナーシップ全体の調和のもとでの総合的アドバイス
- 経営者と後継者の間に入って共通の言語でつなぎ役を務められる存在
- 後継者が自信をもって継げるようになるように支援できる
このようなFBアドバイザーの分野は、年齢を重ねることで経験や人間力が備わり、活躍の場を広げていくことができる、シニアにとっても大変魅力ある仕事です。人生経験が豊富で、真に顧客と向き合って長く付き合っていけるFBアドバイザーこそ、シニアリスキリングとして最高のフィールドになるのではないでしょうか。
「月刊先端教育」(2024年4月号:3月1日発売)において小林のインタビュー記事が掲載されています。ぜひそちらもご参照ください。
Author Profile
https://www.facebook.com/socialcapm/
日本興業銀行、みずほ証券にて、M&Aアドバイザリー、経営企画、コーポレートコミュニケーショ等に従事したのち、ウェルスマネジメント本部長を務める。
2017年に㈱ソーシャルキャピタルマネジメントを設立、代表取締役社長に就任、現在に至る。経営戦略、M&A、理念浸透を含むコミュニケーション、ガバナンス、サステナビリティなどの観点から、社外役員、コンサルティング、社員研修、後継者育成支援など、さまざまな業務を行う。
FBAAには2016年より参画、2022年2月より執行役員プレジデント、11月より理事プレジデントに就任。
ファミリービジネス学会、事業承継学会会員。日本跡取り娘共育協会代表理事、グロービス経営大学院教員も兼任。