ファミリービジネスリーダーが目指すべき両手利きのリーダーシップ

分離派と統合派

以前は正しいとされ、常識と考えられていたことも、研究が進むにつれて間違いであることが立証され、常識が180度転換することがあります。そのようなもののひとつに、ファミリービジネスの経営法があります。

世間一般で信じられているファミリービジネスの経営法に、「ファミリーはファミリーらしく、ビジネスはビジネスらしく」という定説があります。

ファミリーとビジネスを別のものとして扱い、それぞれを別のものとして扱い、高い境界線を設け、非ファミリービジネスの経営スタイルを理想的なものとして、ファミリービジネスもそれに合わせようとするものです。

ビジネスにファミリーの要素を持ち込まない、ファミリーの考えも持ち込まないようにしようというものです。

しかし、約30年前から先行する欧米のファミリービジネス研究の結果、現在ではこのような「分離派」の視点を支持する研究結果はほとんどなく、むしろファミリーとビジネスを一体のものとして見るべきとする「統合派」を支持するものがほとんどです。

●「ファミリービジネス・マネジメントの根本的な課題は、ファミリーとビジネスを同時、並行的に育成することにある。互いに損ないあう力を減らしながら、それぞれが相互に強化しあうことが重要である。」

●ファミリーとビジネスをひとつのものとして扱い、ファミリーとビジネスが相互に良い影響を与え合うような経営、つまり「統合派」が収益力も永続力も強いものになることが明らかになった。
(ジョー・アストラチャン,”Family Business Magazine”の20周年記念号)

学会誌”Family Business Review”の元編集長、ジョー・アストラチャンのこの指摘は、ファミリービジネスの構成員であった私自身の体験や、コンサルタントとしての経験からも、納得がいくものです。

ファミリービジネスの経営からファミリーらしさを取り除こうとしても、それが企業の強さに繋がるものではありません。

むしろ、ファミリーらしさをうまく経営に生かしていく事がビジネスの強さの源に繋がります。

強いファミリービジネスは、社員を家族のように扱い、育てるという文化をもっています。

そして、それを支えるオーナー家の人々は、ビジネスを発展させ、継続させようという、強い意志を持っています。

つまり…
ファミリーとビジネスを一体のものとして扱い、双方の健全な育成に努め、
「ファミリーは少しビジネス的に、ビジネスは少しファミリー的に。」
これがファミリーとビジネスの境界線をマネージするための基本的な指針です。

両手利きのリーダーシップ

「統合派」のリーダーシップのあり方について、FBAAのアドバイザー、Ivan Lansberg氏は、2011年10月のFFIでの講演で以下のように述べています。

ファミリービジネスリーダーの課題は本来矛盾に満ちたものである。
例えば、

  • 高品質と低コストの両立
  • 長期ビジョンと短期・中期の利益の両立
  • 自由さと計画性の両立
  • 感情と効率の両立

そして、ファミリービジネスの根源的な矛盾、

  • ファミリーとビジネスの両立

を抱えている。

ファミリーとビジネスの両方を育成するファミリービジネスリーダーは、例えばビジネスに対しては右利き、ファミリーに対しては左利き、というように、それぞれに対して別々のリーダーシップを発揮しようとしてしまいがちである。

しかし、ファミリービジネスリーダーが目指すべきなのは、右利きと左利きを別々にトレーニングし、これを使い分けるのではなく、「両手利き」として統合することである。

これが「両手利きのリーダーシップ」である。

  • 両手利きのリーダーシップを備えたファミリービジネスリーダーは、締切のある夢を持ち、
  • 謙虚さに裏打ちされた特権意識を備え、
  • 厳格な公私混同を行い、
  • 厳しさのある柔軟性で対処し、
  • 短期的な成果を伴う長期的ビジョンを実現する。

また、優秀な両手利きのリーダーが行わないこととは、以下の通り。

  • 全体の利益を犠牲にして自分がやりたいことをやる
  • 一つの尺度だけで物事を単純に切り分ける
  • 面倒を避けるために誰かにジレンマを押し付ける
  • 面倒を避けるために空しい妥協をする
  • 他者への依存や自己陶酔的なヒロイズムを助長する
  • パワーゲームに乗せられる
    (以上、Ivan Lansberg)

特に厳しく重大な局面では、上のような罠にはまりがちです。

我々ファミリービジネスアドバイザーの仕事は、ファミリービジネスリーダーの両手利きのリーダーシップを育み、このような矛盾を「統合」するための支援であると言えるでしょう。

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