鉄道王VS銀行王、何が明暗を分けたのか

アメリカのコーネリアス・バンダービルト、ドイツのマイアー・アムシェル・ロートシルト(ロスチャイルド)。二人は共に19世紀に成功し、莫大な資産を残した実業家です。

創業者から数世代を経た現在、その子孫の実業界での存在感には大きな差がついています。

なぜこのような違いが起きたのか?そこには我々が学ぶべき重要な教訓があります。

 

ヴァンダービルトとロスチャイルド

鉄道王と呼ばれたアメリカのコーネリアス・ヴァンダービルトは、1877年に他界したとき、現在の価値で1,600億ドルの財産を残しました。

彼は、残された一族が子供や孫の世代まで全く心配しなくて良いように、優秀な弁護士を財産の管理人に雇い、完璧な準備をさせ、全て管理人に任せればよいようにしました。

ところが、子孫に残された彼の莫大な財産は、現在ではわずかなものになってしまい、ヴァンダービルト家は、実業界では影が薄いものになっています。

同時代に銀行業を中心に創業したロスチャイルド家を見てみましょう。

ドイツ・ロスチャイルド商会創設者の初代マイヤー・アムシェルは、ヴァンダービルトのように財産の承継の準備をしっかりと行うだけでなく、家族の中の課題にも取り組みました。

彼は5人の子供に資金を貸し付け、それぞれロンドン、パリ、ウイーン、ベニスへと送り込み、銀行業を立ち上げさせ、生み出した利益から創業資金を返済させました。

子供たちはこの経験を通してビジネスを学ぶことになりました。

同時に、各国からの生の情報は、ロスチャイルドのビジネスに大きく貢献しました。その結果、200年近く経った今も、ロスチャイルド家は財界に大きな影響力を持ち、存在し続けています。

ファミリーの絆をしっかり育て、それを最大に活かしたロスチャイルド家のアプローチは、ヴァンダービルト家とは違ったものです。

ヴァンダービルトとロスチャイルド、両者とも可能な限りの知恵を投入して財産の承継にあたりました。しかし、数世代の後、その明暗ははっきりと分かれました。

何がこの明暗を分けたのでしょうか?

ヴァンダービルトは、財産の保全だけに心血を注いだ一方で、ロスチャイルドは財産の保全にとどまらず、子供たちに多額の借金をさせ、事業を経験させ、更に厳しく返済させて、人間力や信用力を高める努力を怠らなかったのです。

この違いが、数世代の後の子孫に天と地ほどの違いとなって現れました。

 

ファミリービジネスの資本とは

FFI(Family Firm Institute)では、ファミリービジネスの富を次のように定義しています。

「ファミリーの富とは、『人的資本』、『社会関係資本』、『財的資本』の全体である。」

非ファミリー企業においては、バランスシートに現れる、金額で評価される資本、「財的資本」に加えて、社員の知識、経験、意欲や勤勉さといった「人的資本」、経営者と従業員、会社と取引先・顧客、地域社会などとの信頼関係やネットワークといった「社会関係資本」が企業の競争優位性を高め、高い業績に結び付くことになります。

ファミリー企業においては、会社だけでなく、創業家、オーナー家のメンバーの「人的資本」、「社会関係資本」、「財的資本」が競争優位性に大きく影響します。

これは、会社で働くオーナー家のメンバーだけでなく、次世代を育てる社長夫人や後継者の兄弟姉妹、分家の叔父、叔母も含めて、創業の精神、ビジネスに対する理解と意欲、勤勉さ、家庭内や親族の内外の信頼関係、コミュニケーションなど、オーナー家が持つ人的資本、社会関係資本が、次世代、次々世代にいかに伝えられ、育まれるかが、会社の長期的な競争力に密接に関係しているためです。

世代交代を考えるときに、ともすると相続税対策を最重要課題と考えがちです。

しかし、鉄道王と銀行王の例に見る通り、ファミリービジネスが末永く繁栄するためには、お金の対策以上にファミリーの「人的資本」、「社会関係資本」を高め、次世代へと引き継いでいくことが最重要の課題です。

これらがしっかりと承継されれば、相続税の負担も恐れるに足らないものになるでしょう。

さらに良いことに、最も重要な財産でありながら、「人的資本」、「社会関係資本」に対しては相続税、贈与税が課税されません。

家庭と職場で各人の精神を磨き、能力を高め、互いの信頼関係を育むことが、ファミリービジネスの永続的な繁栄の第一歩です。

ファミリービジネスのリーダーは、会社の経営だけでなく、ファミリーの運営、育成も等しく重要な課題と考え、ファミリービジネス・システム全体の経営に取り組んでいただきたいと思います。

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