“Work is Life”は悪ですか?
「Work is Lifeは悪ですか?」と問いかけると、たぶんほとんどの人から、良いことではない、という返事が返ってきそうです。
働くことは苦役である、という考え方を多くの人が持っていて、できれば働かなくて済むことを願っているようでもあります。
それは、自分の時間は自分自身のものであって、その一部分を賃金の対価として売り渡しているという発想からきているのでしょう。
これまで資本家と労働者の対立軸でもって、働くことを考える時代が長く続きました。自らオーナーとなって仕事を生み出すことが難しい時代に浸透した考え方が、いまだに残っているのかもしれません。
一方で、ベンチャー起業家としてビジネスを生み出し実行していく働き方は、労働者のそれとは全く違います。また、起業家とファミリービジネスのオーナーは似通っていると思います。自らがオーナーシップを持って働いているので、言い換えれば雇われ人ではないということです。
働くということを、己のビジョンやミッションから考えると、全く違う受け止め方ができると思います。
ビジョンに基づくとはこういうことです。自分が実現したい製品・サービスを思いついて、それを多くの人に届けたいという情熱から働くならば、その仕事をする労働者のオーナー(指揮命令者)は自分自身になりますから、そこには、使う側/使われる側の対立はあり得ません。
自分から望んで、働きたいだけ働くのです。自分のミッション(使命)に基づいて働く場合も同様でしょう。自分の役割としてこの仕事に就いていると思えるのであれば、どれだけ長い時間拘束されても不満は出てこないでしょう。
もちろん、体が健康でなければ続けられないので、自ずと仕事にかけられる時間にも限界があるでしょうが。この場合も自分の自発的な意思に基づいて働いているはずだからです。
時にオーナー企業が「ブラック企業」と言われてしまう原因も、オーナー自身が勘違いしていることから起きているように思われます。使われる側の社員を自分と同じように働く人だと悪気なく思い込んでいるのです。
自ら自発的にビジョンを持って長時間働くことが苦にならない人間(オーナー)から見ると、同じ仕事に携わってはいるが、雇われ人として時間を切り売りしている社員の気持ちは到底判らないのでしょう。
起業家として事業を生み出してきた能力が高いオーナーほど、普通のサラリーマン的な働き方は理解ができないでしょう。
人は、自らの意思で思う存分働けると幸せになれるのではないでしょうか。なぜなら、仕事自体からの満足感ももちろんこと、その方が成功確率が高まるからです。同じ仕事に人の倍の時間が掛けられるのであれば、比較して競争優位に立てることは明らかでしょう。
皆さんは、現代の労働法で決められている労働時間が、どれくらいの比率か計算してみられたことはあるでしょうか。
365日×24h=8,760時間ある中で、働く時間は、年間営業日日数243日×8h=1,944時間(残り:6,816時間、77.8%)となっています。
人は生きていくために最低必要な睡眠や食事などの時間を除いても、一般的な労働時間と同じくらいの時間を持っています。だから、理論的には2つの正社員の量の仕事ができることになります。
それが普通できないのは、ひとつの正社員の仕事で十分に疲弊してしまって、その回復に同じくらいの時間を費やしてしまうからでしょう。
もちろん、子育てや介護などの家族関係の時間に使われることが想定されているから、労働法の規定があるのでしょうが、孤独に一人で生きている人にとっては、時間は持てあまされていて、時間消費型のゲームなどの娯楽が活況を示しているのでしょう。
もしも、仕事が苦になるものではなくて、正社員の倍の時間を楽しく働けて、事業が成功するのであれば、これほど幸せなことはありません。
創業者はベンチャー起業家だったはずです。ファミリービジネスには、そのときの記憶がどこかに残っていて、ハードワークは善だという意識が残っているように思います。
ファミリーメンバーとして、自らのビジョン・ミッションと一致した仕事について、成功できればこれに勝る幸せはないでしょう。
ファミリービジネスにおけるビジョン・ミッションを示した家訓や創業訓を振り返って、自分達の仕事がそれらと現在も一致しているならば、社員にとってもハードワークは喜びとなるはずです。
苦役に思える仕事は長続きしません。喜びを感じて働いている社員が多くなければ会社は発展しません。だから、Work is Life ととらえて仕事ができる人達の集まりによって永続する企業となれるのだと考えてもよいのではないでしょうか。
ファミリービジネスの後継者は、社員が自ら意欲的に働けるように、共有できる新しい時代のビジョンやミッションを作り出すことが求められ、ファミリービジネスアドバイザーはその支援をする役割も持っています。
Author Profile
また、15年に亘ってビジネスプランコンテストを主催しているNPO法人日本MITベンチャーフォーラムの理事を長く務め、起業家の事業計画書作成の支援を続けている。
サイバー大学IT総合学部准教授として、起業入門他の講座を担当。