3代目で潰れるのには理由がある
コロナ禍の中での事業運営で、多くの会社でリモートワークを行えるようになりました。会議のためだけに出張することは今後も無駄だとされるでしょうし、書類の電子化も逆戻りすることはないでしょう。働き方が一気に10年分くらい先に進みました。過去のやり方にしがみついている会社は、生き残りの可能性がどんどん低くなっていくことになりそうです。
「会社潰すにゃ手間暇いらぬ。今までどおりやればいい。」鳥取の老舗造り酒屋の 4代目当主から、代々引き継がれている戒めを教えていただきました。「伝統とは同じことをやり続けることではない。時代に合わせて、自社が築いてきた本質を、次の世代に残していく伝承のことである」と常々語っておられます。
もし、老舗と同じ事業にベンチャーが参入してきたらどうなるでしょう。
老舗でいまだに、手書きの注文書を FAXで受付して、エクセルに手入力しているような企業は気をつけないといけません。デジタルに抵抗がないベンチャーは、スマホアプリで注文を受けたらデータを再入力することなく、取引を完了させてしまうでしょう。記帳と仕訳までクラウド会計システムに自動的に入ってしまうのがデフォルトの仕様となっています。人気店の行列はスマホの中にできていて、もはやリアルの店舗の前に人は並んでいないのですから。
アトツギの多くは実家に戻って、世の中の変化に取り残された会社に危機感を持ち、改革を進めようとして孤立してしまいます。親の世代が残した会社の文化が時代とずれてきていることを目の当たりにして危機感を持つが、どこから手を付けていけばよいのか判らないからです。社内でこのままではいけないと悶々とする幹部社員も同じ思いでいることでしょう。
パソコンで例えれば、OS(オペレーティングシステム)を入れ替える必要があるのです。WindowsをMacに変えるくらいの文化の変化を起こさないといけません。アトツギや幹部社員が会社全体の仕組みを一気に変えようと孤軍奮闘することはとても難易度が高いものです。新規事業の立ち上げも、既存事業の改善も、他社の事例から学べることは多いです。アトツギの方に、まずは、自分で担える範囲の新規事業やひとつの部門を、今の時代のやり方で運営してみせることをお勧めします。
そもそも、なぜ後継者が新規事業に取り組まないといけないか、について疑問に思われるかもしれません。ファミリービジネスについて学習したアドバイザーとして、3代目が危機にさらされる原理の本質を整理してみて見えてきたことがあります。
2021年1月に、FBAAの実務家23名と共に、事業承継で考えるべきことをまとめた書籍
<先代とアトツギが知っておきたい ほんとうの事業継承 ―「伝承」と「変革・適応」の教科書―> を出版しました。
私は第3章<「アトツギ」はどう家業を引き継ぐのか。「家業×新規事業」の強みの発揮で市場を開拓せよ>を執筆しました。
多くの方に読んでいただいていますが、改めて本書の中で中心的なテーマとして「3代目で潰れるのには理由がある」と説明している項目を簡単にご紹介しておきます。
3代目が遭遇しがちな4つの困難
- 3円モデルの観点
3つの円のそれぞれの中で複雑性が増し、それらの相互関係はさらに複雑さを増していく - ビジネスモデルの陳腐化の観点
「創業→発展→成熟→衰退」という生命体のようなサイクルが起こる - 相続による株式の分散の観点
子どもたちに法定の相続分で株式が遺贈されていったら、あっという間に株主が分散してしまう - いとこ世代への拡大でファミリーが増加の観点
親族の食い扶持(ぶち)をなんとか提供したいという家長的な感覚に悩む
このように、世代が続くにしたがって、困難が増す環境に3代目はあるにもかかわらず、「唐様で売家と書く3代目」という川柳が有名なように、事業破綻の原因を跡取り社長個人の責任に帰するような風潮が長く続いてきています。
必然的に困難に陥らざるを得ない後継経営者に対して支援することをせず、自業自得とみなして放置するだけの風潮が続けば、会社の数は今後とも減っていく一方となるでしょう。
これからもFBAAのフェローと会員の皆さんと一緒に、次世代経営者の方々の支援に取り組んでいきたいと願っています。
Author Profile
また、15年に亘ってビジネスプランコンテストを主催しているNPO法人日本MITベンチャーフォーラムの理事を長く務め、起業家の事業計画書作成の支援を続けている。
サイバー大学IT総合学部准教授として、起業入門他の講座を担当。