ファミリービジネスのメンタルヘルスは「経営ガバナンス」の最優先課題——IMD最新報告書が明かす実態

  • 見過ごされてきた「家族の心」と「事業の継続性」

ファミリービジネスの経営において、リーダーシップや事業承継、所有権の分配といったテーマは常に議論されますが、その根底にある「メンバーのメンタルヘルス」について正面から議論される機会は多くありませんでした。

この課題に一石を投じるべく、スイスのIMDビジネススクール、カナダのオタワ大学、そしてファミリービジネスネットワーク(FBN)が共同で制作したのが「グローバル家族企業メンタルヘルス報告書(Global Family Enterprise Mental Health Report)」です。

本報告書は、世界37カ国・246名のファミリー企業関係者からの回答を分析した世界初の国際調査であり、家族のメンタルヘルスが企業統治や事業運営に与える影響を明らかにしています。
https://www.imd.org/research-knowledge/family-business/reports/gfe-mental-health-report/?utm_source=chatgpt.com

  • 調査が明かす実態:高い診断率と経営への広範な影響

本調査では、ファミリー企業の関係者の間でメンタルヘルスや学習障害の診断が非常に頻繁に見られるという衝撃的な実態が示されています。

・半数以上が「家族の診断歴」を報告 ― 回答者の50%以上が、家族メンバーがメンタルヘルス疾患や学習障害の診断を受けたことがあると回答しました。

・3人に1人近くが「自身の診断歴」を報告 ― 回答者自身の約3分の1(ほぼ3人に1人)が、自身もメンタルヘルスの診断を受けた経験があると回答しています。

・取締役会や事業現場への直接的なインパクト ― 回答者の大半が、メンタルヘルスの状態がファミリー企業全体に影響を与えていると答えています。特に、オーナーグループ(所有)、現場の事業運営(執行)、そして取締役会(監督)において最も大きな影響が出ていることが報告されています。

  • 所有層・ガバナンス層に潜む「認知のギャップ」

本報告書が指摘する最も深刻なリスクの一つが、組織内における「認識の急低下」です。

身近な家族の間ではメンタルヘルスの状態が把握されている場合でも、企業の所有権グループやガバナンス・戦略的意思決定を担う層に行くと、その認知度は急激に低下します。

つまり、企業の将来や重要な経営方針を決定するガバナンス層において、メンタルヘルスの課題が隠されて認知されないまま放置され、意思決定や組織運営に意図せぬ歪みを生じさせている可能性が浮き彫りになりました。

  • 個人の問題から「企業ガバナンス・事業継続の課題」へ

こうした分析結果を踏まえ、報告書はメンタルヘルスを単なる「個人のプライベートな問題」として片付けるべきではないと結論づけています。

メンタルヘルスは、ファミリー企業の「ガバナンス(企業統治)」および「事業継続性(サステナビリティ)」に関わる重大な経営課題です。家族企業の持続可能な発展と永続的な繁栄のためには、感覚的な対応に頼るのではなく、情報に基づいた明確なポリシーの策定や、予防的かつ計画的なアプローチを講じることが不可欠です。

報告書では、さまざまな状況にあるビジネスファミリーが実践できる具体的な取り組みや、レジリエンス(回復力)を高めるためのガイドラインも提示されています。

  • ファミリーガバナンスの新たな一歩として

ファミリービジネスにおけるメンタルヘルスへの取り組みは、単なる福利厚生ではなく、リーダーシップの育成、円滑な世代交代、そして企業の長期的な成功を左右する戦略的テーマです。

事業のバトンを次世代へとつなぎ、ファミリーとビジネスの双方が健康的に繁栄し続けるために、ファミリーガバナンスの一環としてメンタルヘルスの課題に直面し、オープンな対話と仕組みづくりを進めていくことが求められています。

私自身の支援経験からも、関係者、特にファミリーメンバーのメンタルヘルスがビジネスに与える影響は大きいものがあり、決して個人だけの問題として放置できないという実感があります。

FBAAは、ファミリービジネス関係者のメンタルヘルスにも光を当て、ファミリービジネスの持続的発展を支援します。FBAA資格認定基礎プログラムでは、ファミリービジネスアドバイザーが考慮すべき重要なテーマとして、ファミリー・セラピーの観点からメンタルヘルスを扱っています。

日本ファミリービジネスアドバイザー協会
理事長 武井一喜

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