ファミリービジネスの「未来に備える」
日本の企業はコロナ禍で疲弊し、事業継続「あきらめ」も増え、倒産数が前年の同月比34%増になった。(2023年5月649件 帝国データバンク)
この中にはいわゆる「老舗企業」も多く、又、倒産の前に自ら休廃業を決断し、市場から退出した老舗企業の数は更に多いとみられる。
【1】〈日本のファミリービジネスは大きな転換点に立っている〉
国内市場のダブルの縮小(人口減少と高齢化の進展による需要の減少)、 核家族化の進展、経営者とビジネスモデルの高齢化、後継者の高齢化や後継者不在企業の増加、世代間ギャップ、テクノロジーの大変化、気候変動、環境破壊、ロシアのウクライナ侵攻、 原材料コストの急激な上昇、賃上げ圧力、インフレの進展、人手不足…。これらの様々な問題を乗り越えて未来に備える転換点に立っている。
【2】〈ファミリービジネス(FB)は危機対応能力に優れた経営形態である〉
一方、歴史的に見ても、世界、日本で、様々な危機に適応し続け、持続的に発展しているのはFBが多く、FBはレジリエンス(回復力)を備えていることが証明されている。
【3】〈ファミリービジネスが持続的に発展する為に備えねばならない2つのポイント〉
- 長期的視点で〔ファミリー〕〔オーナーシップ〕〔ビジネス〕のバランスの取れた「三位一体経営」を行い、ファミリービジネスマネジメント力(FBM)を強化する。
- 事業の成長を確かなものにするビジネスビルディング力(BB)を強化する。
その為に
(1) マーケティング力を強化する。
ターゲット顧客を〔昨日の顧客〕〔今日の顧客〕〔明日の顧客〕に分類した上で、狙いを定め、ターゲット顧客のニーズを端的に表す「コンセプト」に落とし込む能力。
(2) イノベーション力を強化する。
ターゲット顧客が求めている「コンセプト」を独自の製品やサービスで満たす「ソリューション」を商品化する能力
ファミリービジネスが未来に備え、持続的に発展する為には、上記のファミリービジネスマネジメント力(FBM)とビジネスビルディング力(BB)の2つを備える必要があります。
【4】「未来に備える」事例紹介 -イオンの覚悟
次に事例として大手の小売流通グループのイオンが、どのように「未来に備えてきたか」そして、また、これから変わりゆく「未来に備えようとしているか」を紹介する。
- イオンの創業家の1つである岡田屋は今から265年前の1758年に創業し、その後岡田屋百貨店、ジャスコを経て日本を代表する大手小売り流通グループ、イオンへと変貌を遂げている。現在(2023年3月度)イオングループの売り上げは9兆円、従業員数57万人、店舗数 17817店。中国、東南アジア各国でも存在感を増すグローバルリテールでもある。
- 私は、このイオングループの最高幹部会である「イオン経営懇談会」で、この数年間で3回の講演を行ってきた。 その演題は、
- 第1回 ファミリービジネスから学ぶレジリエンスと永続性
- 第2回 創業家の存在が正しく役立って成長、発展している事例
- 第3回 創業精神の継承と経営理念への進化と浸透
この講演とその後の質疑応答や情報交換によって、イオングループの幹部は真面目で勉強熱心、その真摯な態度と姿勢に学んでいます。
イオンの歴史、つまり江戸時代から第2次世界大戦を経て、ジャスコ、イオンへの発展して来た事例は、今迄も様々に紹介されて来ているので、今回は、最近の30年くらいの中でイオンが「未来に備えて来た」事例を「イオンの覚悟」として2つ紹介する。
イオンの覚悟「その1」
イオンはバブル経済に塗れなかった数少ない流通大手の1つである。一時、 日本の流通をリードしたダイエー、マイカル、ユニー・・・などのビッグネームは既に市場から退場した。
しかし、現会長の岡田元也氏が社長に就任した当時、日本経済はバブル後遺症で疲弊し、先行きは不透明であった。
1997年に社長に就任した岡田元也氏(現会長)は「未来に備える」ためには、1つの巨大リテールを目指すのではなく、強い1つ1つの企業がグループを構成し、結果として強靭なグループになる戦略の構築を目指したと思われる。その上で、次の4つの基本方針を打ち出し、不透明な経済状況の中、新たに歩み出す「覚悟」を示した。その戦略(今後力を入れる分野)は
1.グローバル
2.シニア
3. 大都市
4.デジタル
この戦略は功を奏し、日本経済が失われた30年と言われ停滞していた中で、岡田社長が23年間の在任期間中にイオングループの売上は2兆円から8兆円に成長した。
イオンの覚悟「その2」
岡田社長は其の後、会長に就任し、社長職は生え抜きの吉田昭夫氏に譲り、二人三脚でイオンの経営に当たっているが、急速に変化する内外の市場環境の「未来に備える」ために、その経営の基盤となる
A.イオンの基本理念を見直し、新しい時代の競争環境をどう切り拓いていくか明文化した。
その上で、
B.イオングループ未来ビジョンを制定した。
A.イオンの基本理念は、これまでのイオンが大切にしてきた理念を振り返り、創業の精神の現代的見直しと解釈を加え、イオンのステークホルダーにメッセージを送っている。
その中で特に 私(西川)が印象的なイオンの覚悟が見られるフレーズを紹介すると、
「イオンは革新し続ける企業集団でなければなりません」
「イオンは家業から企業へ、そして産業へと変貌してきました」
「何よりも恐れているのは、ますます激しくなっていく変化の中で、求められる革新や企業家精神を失い、大企業に特有の停滞に陥っていくことです」
「より新しい革新に取って変わられないためには、イオンが最大かつ最先端の革新者であり続けるしかありません。それは創業の精神を保持することで常に刷新し続け、時代を先取りした組織であるという覚悟なのです。」
B.イオングループ未来ビジョン
(ビジョンステートメント)
一人ひとりの笑顔が咲く未来のくらしを創造する
(イオングループが実現したい未来)
お客さまが
「明るくなっていく社会」と
「自分らしい幸福せ」を実感できることで、
「心豊かにくらし、笑顔が広がる」未来
(イオングループのありたい姿)
くらしの共創をリードし、一人ひとりも社会全体もより豊かにするグループ
大切なことは、この基本理念と未来ビジョンの策定の中心となったのは、次の時代を担う若手グループであり、将来イオンのグループ経営に責任を担う人達によってまとめられた事である。
つまり次世代が「自分事」として責任を持ち経営できる態勢を準備し、粘り強く育ててゆく現経営陣の「次世代育成への覚悟」が見られることである。
【5】FBAAでファミリービジネスの〈未来に備える〉ポイントを学びませんか?
FBAAは、ファミリービジネスアドバイザー資格認定講座を開講しています。
ファミリービジネス(FB)が持続的に発展するポイントを学び、一社でも多くのFBが元気になり、地域社会の発展に貢献できるように企画されたのがFBAAの資格認定講座です。
〈受講によって得られるメリット〉
◎もし、皆様がFBの経営者、ファミリー、社員である場合には、自社の持続的な発展の条件やステップを学べ、発展をより確かなものにできます。
◎もし、皆様が企業に助言をするアドバイザー、コンサルタント、弁護士、中小企業診断士などの士業の皆様である場合には、御自分の専門分野に新たな付加価値を加えることができ、相談能力が向上し、 クライアント満足度を上げることができます。
◎世界、日本の最先端の研究、コンサルテーションの情報が手に入ります。
◎卒業生のネットワークが活用できます。既に資格認定を得た卒業生(220名)のネットワークであるフォロー会を活かし、情報交換を行ったり、学んだ事の実践的な経験や知識、情報を交換することができます。
Author Profile
http://www.yokohamaconsulting.com
ファミリービジネスにおけるファミリー、ビジネス、オーナーシップの各システムの効果的な運営にマネージメントとして参画。企業理念策定委員会の副委員長として全世界のジョンソングループの企業理念(This We Believe)の策定に携わる。
現在ファミリービジネスのコンサルティングの会社であるヨコハマコンサルティング(株)の代表取締役会長として多くの企業に社外取締役、アドバイザー、顧問として活動を行っている。
ハーバード大学経営大学院(AMP)修了。
著書
「長く繁栄する同族企業(ファミリービジネス)の条件」:日本経営合理化協会、「実務者からの提言一 勝ち続けるファミリービジネスの条件」:日本のファミリービジネス(共著):中央経済社、ほんとうの事業承継(共著):生産性出版 他。