事例に学ぶ、ガバナンスと継承(カ―ギル社と国内企業の事例)

海外事例紹介(カ―ギル社のガバナンス)

穀物メジャーのカ―ギル社は、アメリカミネソタ州に本社を持つ世界一のアグリビジネス会社である。2009年の売り上げは9兆3000億円、67カ国に13万8000人を抱えた世界一の非公開ファミリー企業でもある。

現在カ―ギル社の取締役会は、ファミリーが5名、社外取締役が5名、経営陣が5名の計15名で構成されている。アメリカの大会社としては珍しい構成である。

経営者はあくまでも能力と実績で選ばれる。ファミリーメンバーは非ファミリーメンバーと競争し、ときには非ファミリーメンバーが競争に勝って経営者になっている。

経営者は自分たちが育てるというのが基本的な考え方で、現社長のグレゴリー・ページも大学卒業後ずっとカ―ギルで働いており、カ―ギル社のトップ7名は勤続30年以上という人達で占められている。

カ―ギルの経営方針は長期的視野に基ずいたグローバル成長戦略で、5年から7年ごとに自己資本であらわす企業規模を2倍にするという目標を公表している。そのために、キャッシュフローの87%を再投資し、配当は3%にすぎない。

こういう経営が出来るのも非上場の同族企業であるからだ。

そしてファミリーガバナンスとしては、定期的なファミリーミーティングがおこなわれ、
工場見学会やファミリービジネスの勉強会が開かれている。そのファミリーミーティングを率いているのがファミリー評議会である。またファミリーの教育訓練にも取り組んでおり、次世代を育てる事に力を入れている。

さらにファミリーの資産運用、税務などを扱うファミリーオフィスを設け、ファミリーが現金を必要になってカ―ギルの議決権株を売る場合は、カ―ギルの従業員持ち株会が買い取る仕組みとなっている。この仕組みが従業員の士気を高めることにもなっている。

またファミリーとして適切でないファミリーメンバーの株式も従業員持ち株会が買い取るルールとなっている。

国内事例紹介 サントリー上場とファミリー企業としての文化、理念の継承

サントリーが子会社のサントリー食品インターナショナルを上場した。今後は国内外で積極的にM&Aを行い国際的な飲料のメジャープレーヤーを目指すようだ。

ファミリービジネスの研究面で興味深いのは、グローバル戦略用の資金の調達と同族経営の良さの維持、と言う一見矛盾するかに見える経営の両立を図った点にある。つまりホールディング会社が子会社上場後にも60%の株式を握り影響力を維持し、上場して3000億円以上の資金を調達し、同時に広く社会に貢献する文化活動や、長時間かけて事業の種を育てる社風(やってみなはれ)を如何に維持するか興味深いところだ。

今後、M&Aによって国内外の様々な企業文化を持った会社と社員を統合することが予想されるが、サントリーの持つ同族企業の文化を、拡大したグローバル組織の中でどのように育むか、注目すると同時にエールを送りたいと思う。

サントリーのケースは日本では珍しく映りますが、世界ではファミリービジネスとして創業家が議決権を握り、理念や価値観は大切に保持しながら、上場して世界的な大企業になっているケースは多く見られる。

サントリーの今回の試みが成功し、日本の有力同族企業の経営者やファミリーに大きな勇気を与え、日本発のグローバルファミリービジネスが次々に誕生するきっかけになればと期待している。

継承を考える

昨年は60年に一回の出雲大社の大遷宮と20年に一回の伊勢神宮の式年遷宮が同時に行われた年となった。企業の永続性を考える小職としてもこの遷宮から学ぶことは多いと考え、昨年6月に出雲大社を詣で、また12月には伊勢神宮に参拝した。

伊勢神宮のおかげ横丁は凄い人だかりで、件の事件の影はまったく感じられずに完全に復活されており、赤福さんの先見性を新たにした。

そこで、伊勢神宮と出雲大社では遷宮の折に社を新たにする考え方が異なることを知った。

伊勢神宮では社の建物から飾る宝物のすべてを新しく作り直し、技術の継承も図る、一方の出雲大社では使えるものはそのまま使い、朽ちたり痛んだところだけを新たにするようだ。

企業が継承を考えるときに、先代のやってきた事のすべてを変え、新たに出発するのか、
時代に合わなくなった制度や組織などを一部変え、使えるものは大切にしながら再出発するのか、考えさせられる。

今までの何をどのように変えるのか、変えずに活用するのか、この判断とやり方が企業の継続性を決めてしまう。伊勢神宮でファミリービジネス継承の難しさを改めて感じたものである。

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