「所有」と「経営」の分離へ。米ファミリー企業が迎える大きな転換期

近年、米国のファミリー企業(家族経営企業)は、大きな構造的転換期を迎えています。KPMGが発表した「2026年米国ファミリービジネスレポート」によると、リーダーシップの承継に関する伝統的な常識が今、大きく覆されようとしています。
【Family-Owned, but Not Family-Run: U.S. Family Enterprises Expect Sizable Shift Away from Internal Leadership Over Next Decade, KPMG Finds】
https://kpmg.com/us/en/media/news/family-owned-but-not-family-run-us-family-enterprises-expect-sizable-shift-away-from-internal-leadership-over-next-decade-kpmg-finds.html
◯「ファミリー経営」から「ファミリー統治」への戦略的シフト
本調査の中で最も注目すべきは、次世代メンバーに対する高い信頼と、実際の経営体制との間にある「ギャップ」です。
調査では、次世代のファミリーメンバーが「所有者」や「取締役」として企業を主導できるという点に対し、実に関係者の91%が強い信頼を示しています。しかしその一方で、今後10年間にファミリーメンバーがCEOをはじめとする上級経営陣の過半数を占めると予想する割合は、わずか36%に留まりました。
このデータは、これまでの「事業承継=経営のすべての役割を家族が引き継ぐ」という伝統的な前提に、ファミリー企業が明確に挑み始めていることを示しています。つまり、日々の実務オペレーションは非ファミリーのプロフェッショナルな経営陣に委ね、ファミリー自体は「所有(オーナーシップ)」と「統治(ガバナンス)」に専念する動き(ファミリー・ガバーンド・モデル)への戦略的シフトが鮮明になっているのです。
実際に、ファミリー企業の73%は次世代に対してOJT(実務教育)を実施していますが、その内容は日々の日常業務ではなく、取締役会レベルのガバナンスに焦点を当てたものへと移り変わっています。
ファミリー企業の強みである「長期的視点」や「ファミリーの評判」、「共通の目的」という最も大切な価値観を世代を超えて守り抜くために、日常業務の経営は外部の優秀なリーダーに委ねて事業を成長させる。これこそが、次世代の持続可能な成長を見据えた、新たなファミリー企業のあり方と言えます。
◯次世代に必要なのは「ガバナンス能力」の育成
この「所有と経営の分離」という潮流は、決して米国だけのものではありません。
わが国においても、経営は非ファミリーの幹部に任せ、ファミリーはオーナーシップやガバナンスに専念するケースが増えています。
これに伴い、次世代ファミリーメンバーに対する教育や育成のあり方も根本的な見直しを迫られています。これまでの「後継者教育」と言えば、社内実務を叩き込むといった「経営能力」の育成が主流でした。しかしこれからは、オーナーシップやガバナンスに関する能力、すなわち「ガバナンス能力」の育成へと、次世代の能力開発課題がシフトしつつあります。
FBAA(日本ファミリービジネスアドバイザー協会)の基礎プログラムでは、このような現代のファミリービジネスが直面する課題解決や、次世代のガバナンス能力育成という観点からも、実戦的かつ体系的なファミリービジネスの支援を考えてまいります。
日本ファミリービジネスアドバイザー協会
理事長 武井一喜
Author Profile
慶応義塾大学経済学部卒。
コロンビア大学ビジネススクール経営学修士(MBA)。経済産業省「地域経済におけるファミリービジネスに関する研究会」委員(平成21年度)。
キャラクター商品メーカーを経て家業の寝具製造卸会社に勤務。基幹業務システム設計導入、リストラプラン策定実施、新規事業立ち上げの後、4代目社長。その後IT関連の起業に参加。'03年WellSpring設立。'24年2月にセブン・スプリングス株式会社設立、代表取締役・ファミリービジネスコンサルタントとしてコンサルティング・講演・研修・執筆活動を行っている。
著書:「同族経営はなぜ3代で潰れるのか?~ファミリービジネス経営論~」クロスメディア・パブリッシング、「ほんとうの事業承継」共著 生産性出版 他