ファミリービジネスにおける「キャリアコンサルタント」の役割
「キャリアコンサルタント」は平成28年4月に民間資格から国家資格になりました。このたび試験にチャレンジして資格登録を終えましたので、その概要を共有させていただきます。
ファミリービジネスのアドバイザーとして「気付きを促す」役割の重要性を改めて認識したことが新たな学びとなりました。
「キャリアコンサルタント」について
「キャリアコンサルタント」とは
職業能力開発促進法で「キャリアコンサルティング」は、「労働者の職業の選択、職業生活設計又は職業能力の開発及び向上に関する相談に応じ、助言及び指導を行うことをいう」(第二条5)とされ、「キャリアコンサルタントは、キャリアコンサルタントの名称を用いて、キャリアコンサルティングを行うことを業とする」(第三十条の三)とされています(名称独占業務)。
「キャリアコンサルタント」になるには、厚生労働省が行うキャリアコンサルタント試験に合格することが必要で、以前は人材派遣会社など複数の機関が独自に実施していた民間資格が平成28年4月から国家資格として一本化されました。
1)受験資格:
厚労省が認定する機関の養成講座(8.5時間×10日間の実講座+自己学習=合計140時間、費用約30万円、厚労省専門実践教育訓練給付金の対象)の修了、または規定の実務経験
2)試験内容:第1次試験 筆記 4肢択一の50問(100分)、
第2次試験 論述(50分)と ロールプレイングと口頭試問(20分)
3)合格率 :43%(第1,2次同時受験者、第5回国家資格試験の実績)
4)受験者 :40歳代が中心、女性が6,7割(公表はなく試験会場での印象)
5)資格登録者:現在約3万人、厚労省は10万人まで増やす計画
なぜ厚労省は国家資格化したのか
日本の人口減少、経済の国際化、働き方の多様化などの環境のもと、女性活用・高齢者活用・若年労働者の戦力化・働き方の改革を図ることが喫緊の課題となっています。
既に産休・育休の制度強化、65歳までの定年延長などは法制化されました。一方で、新卒者の3年以内の離職率が高いこと、中小企業の社員は大企業に比べて人材育成の環境が恵まれていないことは、調査結果にも表れており、取り組みが必要な課題です。
「キャリアコンサルタント」は大学の就職指導課、人材派遣会社のスタッフ、ハローワークの相談員、企業の人事部内の人権・退職相談員などが主たる活動の場でした。
昨今の状況を踏まえ、義務教育の段階から就職、雇用中、退職後に至るまで、男女両性全年齢層に対するキャリア相談ができる人材を増やし、いろいろな機会で相談に乗る仕組みを構築することを狙ったものです。
ある企業では一定のマネジメント職には資格取得を強く勧奨しているとも聴きました。但し、現在は「キャリアコンサルタント」の低い認知度、専門性のばらつきなどのため、資格だけで生業とすることはなかなか難しいようです。
養成講座(90時間)の内容
(いずれも専門家からすれば初歩的な知識レベルです)
1)倫理 コンサルタントの使命・役割・倫理規定、クライアントの尊重、守秘など
2)理論 フロイトの心理学から最近のキャリア理論に至るまでの知識
3)法務 労働関連法務の知識
4)実務 ジョブカード(職歴/能力開発の記録/計画書)の仕組み・指導方法
グループカウンセリング手法、各種心理テスト/適性検査の内容
5)統計 労働・雇用実態などに関する計数、知識
6)実技 面談の心得・技能、ロールプレイ
資格取得(面談の実技訓練)で学んだこと
人との対話における自分の聴き方のスタンスが変わったと同時に、自分の話し方も従来とは異なるトーンになったと実感しております。人との対話において「見える景色」が変わったということでしょうか。
「傾聴によるラポールの構築」から始まり、「クライエントの経験から発せられる言葉の背景に重点を置き、クライエントに自分を語らせて感情を引き出し、それに至った経験を自分自身で再現させ、自己探索を促す」、その過程で「気付きを促す」ことが面談の実技訓練で学んだ要点です。
同じ養成講座でロールプレイを一緒に学んだメンバーを見ますと、
・上から目線
・興味本位の質問を重ねる
・クライエントの弱点を指摘し指導する
・コンサルタントが自分自身のこと、他のケースを言う
・自分の概念で人を評価する
・自分の価値観で決めつける
などの傾向の強い受講生はあまり良い結果が出なかったように思います。
私自身も長年の経験から上記のような対話を行っていたことを「気付かされた」次第で、今後は会社の中、あるいはクライエントとの間では留意すべきであると強く感じました。
ファミリービジネスの永続性に活用できること
経営者・後継者とのラポール
私はFBAAの認定プログラムの「非同族経営幹部の心得と育成」の講義を担当させていただいております。
そのコンテンツは非同族幹部として勤務するファミリービジネスでの実経験とそれ以前のサラリーマン時代の価値観との大きなギャップをベースにしております。
講義の中でも申し上げましたが、ファミリー経営者・後継者をサポートするにあたっては、以前から「気付いてもらう」機会を創造することが重要と考えておりました。
特に中途入社組は、価値観の相違から意見が批判と受け取られてしまう傾向がありますので、いわば「企業内コンサルタント」の立場で、ファミリービジネスの永続性の観点から、なお一層トップとじっくりコミュニケーションを取ることを心掛けたいと考えております。
人材育成
規模の小さな企業の従業員ほど個々人の多機能・高能力が期待される一方で、大企業と比較してOFF-JT(仕事を離れた研修)および自己啓発の機会に恵まれておりません。
加えて、ファミリービジネスの従業員は、そのビジネスの規模・分野に限られたキャリアパスしか選択肢がなく、加えてオーナーの価値観に大きく影響を受け易いために、自分の将来を多方面・多様な価値観から考える機会が持てないように思えます。
日常の業務を通じながら、会社全体としては人材育成の体制の強化・見直しの実施、個々人に対しては「傾聴」により相手に「気付いて」もらうことに注力し、ファミリービジネスの永続性の観点から人材の強化・育成を図っていきたいと思います。
Author Profile
製造部門と総務部門を担当。この間、主力工場運営・合理化、ISO/IS16949(欧米自動車メーカーに部品を供給するための工業規格)取得、執行役員制度導入、新規事業の不動産賃貸部門のインフラ整備、不動産投資などを実施。「100年企業」を目標に、次世代に向けての持続的な仕組み作りを企画推進中。前職のメガバンクでの人事(教育・研修)、総務、ニューヨーク米国本部(総務)、カリフォルニア現地法人(M&A)、国内法人取引、銀行関連会社(不動産)など、多岐に亘る経験を現職に生かしている。一橋大学商学部卒、米国シカゴ大学経営大学院経営学修士(MBA)、宅地建物取引士、FBAAファミリービジネスアドバイザー資格認定証保持者(フェロー)