地域経済とファミリービジネス、そしてこれから取り組むべき課題について

ファミリービジネスにご関心のある方であれば、地域経済におけるファミリービジネス(以下「FB」)の重要性はよくご理解いただいていると思います。

一般的には、雇用の確保や地域貢献活動が挙げられますが、私も福岡を中心に主に九州圏内で、税務/コンサル/監査を主軸としてFBオーナーの方とお仕事をさせて頂く中で、FBの地域における重要性を肌身を持って感じております。

例えば、福岡の伝統行事として、『博多山笠』や『博多どんたく』が挙げられますが、これらの行事が今でも継続できているのは、地場FBの貢献があってこそと思っております。

もちろん、東京本社の上場企業支社やノンファミリー地場上場企業からの協賛金等もありますが、それ以上にFBが、資金にとどまらず、運営協力、参加者動員、行政等の関係者調整といった全般において強力なリーダーシップを取ることが見受けられます。

これは伝統的なものに限らず、地域としての新しい取り組みや、地場ベンチャー企業支援など多岐にわたって、リーダー的FBが率先して支援をすることで、さらなる支援者を引き寄せ、結果として新しい動きが具体化し、地域経済が活性化していくという循環が自然発生的に構築されているように思います。

その意味では、FBの繁栄は地域経済の根幹であるといっても良いと思います。

そういった中で、私自身、地場を代表するFB若手オーナーとご一緒する機会を多く頂いており、今年は2月に九州を代表する30~50代のFBオーナー30名ほどで台湾を訪問し、陳建仁副総統への表敬訪問をはじめ、台湾を代表するFB若手オーナーと3日間交流させて頂く機会がありました。

このように地場FB若手オーナーの方々とビジネスやプライベートで接する中で、事業承継等の全般の支援に加えて、以下2つの新たな取組の必要性を実感しております。

(1)経営者のご婦人(母親)向けの支援

FBには多くの乗り越えるべき課題がありますが、先代から現若手経営者への承継がクリアされている場合、最大の課題は次なる後継者の育成になります。

優秀な次世代がいるか否かによって、業界内の勢力図は将来的に大きく変わってくるでしょう。

私が親しくしているFBオーナーの多くは30~40代のため、将来の後継者候補はまだ幼児~高校生であり、この世代に最も影響を与える存在は、一番時間を共有している母親(妻)と思います。

とあるFBオーナーの方も奥様が、幼稚園のママ友など他の家庭に比べて亭主が家庭に費やせる時間が極端に少ない事や、後継者になるべき長男に好きな夢を追わせてよいのか、など戸惑っていると言っておりました。

特に実家が事業家ではない家庭から嫁いできた方は戸惑う事も多いと思います。

そのため、同様の環境の方が集い、親睦を深め情報交換をし、FBについての学びの場を設ける事が出来れば良いのではと考えております。

経営者は、ロータリー等、同じ悩みを持つ仲間で交友をもつ機会がありますが、次世代に最も影響を与える妻にこそ、集いと学びの場を提供することで、次世代が健やかに育つ、これこそFBの長期的な繁栄の底支えとして必要ではと思います。

(2)地域企業群での緩やかなアライアンスの構築

私が尊敬するFBオーナーの方が、『FBの長期的繁栄にとって最大の課題は国税と銀行への対応』と言っておりました。

国税に関しては、承継の税務上の問題をいかに適切に対処するかに尽きますが、最近ではキーエンス創業家が行為計算の否認で1500億の贈与税申告漏れを指摘されたりと国税サイドも富裕層に対して強気な姿勢を見せております。

このような形式的要件での強引なスキームは避けつつ、採るべき対策はしっかり行うべきでしょう。

もう一点の銀行への対策、これは新しい視点になりますが、FBの繁栄を100年スパンで考えた場合、現経営者がいかに優秀で企業を繁栄させたとしても、長期的には、ある世代では適切な経営者が不在になったり、業界自体の衰退や業種転換などの危機に直面する可能性はすべての企業にあります。

その際に、金融機関がしっかりと支援してくれるのかという疑念です。

九州でも百貨店をはじめ、老舗FBが支援を打ち切られ結果として、上場企業等へ買収され、オーナー経営がなくなったケースが多くあります。

確かに企業自体は存続し、雇用も一定は維持され、地域経済に急激なマイナスをもたらす事はありません。

しかし、冒頭に記載した通り、地場を代表するFBの地域貢献は計り知れず、それが薄れる事は間違いありません。

現に私自身、随時再生案件に携っておりますが、金融機関の姿勢が企業の存続に絶対的な影響を及ぼし、その対応に追われる事が現実であります。

また弱った状態ですので、金融機関とのパワーバランスが取れない状況になります。

そして金融機関自体も金融庁の方針に右往左往しているように思います。

そういった中で、地場FBとして長期にわたり親睦を深めてきている企業集団が一体となり一定の牽制を金融機関に働きかけ、支援の可否を金融機関の一存のみに委ねるのではなく、地域企業集団を含めた地域の意向を金融機関へプッシュする、そういった働きかけのできる地場FB群のアライアンス体制を構築する事が出来れば、それは各企業そして地域にとってのセイフティーネットになるのではと思っております。

もちろん、創業家一族の利己主義が前面に出る事は避けるべきと思いますが。

長くなりましたが、私自身は、現在、FBと地域経済の永続的な繁栄の底支えのために、九州にて、こういった取組みを実践していければと考えております。

FBに携わる皆様の参考になるようであれば、幸いであります。

Top