ファミリービジネスを「永続させる事業承継の支援アドバイザリー」の現場から
日本には、地域経済にとって、社会にとって、かけがえのない素晴らしいサービスや商品を提供しているファミリービジネスが多く活躍しています。
私は、その日本にある素晴らしいファミリービジネスをひとつでも多く次世代へとお繋ぎするネクストステージ・コンサルティングを提唱しています。
そこでは、ファミリービジネスが永続的に発展していくための「事業承継」について、総合的かつ網羅的なアドバイスを行っています。
今回は、ファミリービジネスにとって最も重要な事業承継の現場におけるポイントとアドバイザーの在り方について、長年の現場経験から提案をさせていただきたいと思います。
事業承継にとって大切なことは?
皆さんは事業承継というと、どのようなことを想像されるでしょうか?
巷でよく聞く、後継者が居ない会社のM&Aの話でしょうか?
単純に相続税等の節税・資金対策の話でしょうか?
これらは、事業承継の場面でのツールのひとつとしては有効ですが、前面に出過ぎてしまうと、時として事業の成長を阻害し、永続的な企業の発展への弊害になることに繋がります。
ファミリービジネスを成功させるための、事業承継で最も大切なものは何でしょうか?
それは、地域や社会にとって真の存在価値あるファミリービジネスの永続的な企業価値の維持、向上がポイントで、地域や社会、株主、経営陣、従業員、取引先にとっての付加価値を高めることであると考えています。
この考え方は、昨年発表された金融庁の新しい指針と一致しており、特に地方の金融機関にも理解しておいてもらわなければならない事業性の評価に繋がるものです。
ファミリービジネスはヒーロー?
『ファミリービジネス』は、一般の企業が株主(オーナー)とビジネス(経営&運営)の二つの要素で構成されているのに加え、オーナー一族(ファミリー)が介在した三つの要素が複雑に絡み合う組織となります。
多くの場合、ファミリービジネスの社長は、一族の長であり、主要株主であり、最高経営責任者であります。
この複雑に絡み合う組織を様々な役目で、まさにスーパーマンとしてその責務にあたっているわけであります。ゆえに、その座を承継するには大変な準備と手間暇がかかりますし、あらゆる場面を想定した周到な計画が必要となることが理解いただけると思います。
ファミリービジネスの永続性のための5つの成功要因
ファミリービジネスの社長を中心に、このファミリービジネスが永続発展していくためには、以下の5つの要因が重要であり、これらに対して我々はファミリービジネスの三つの要素それぞれに向けたアドバイスを行っています。
・ビジネスファーストを貫いて、確実に企業価値を向上していくこと
・そのために、オーナー家の有形無形の資産を守り、活用すること
・ファミリービジネスを盤石にする人財育成と
・コーポレートガバナンスに加えファミリーガバナンスとのバランス構築、そして、
・なによりも大切なことは、ファミリービジネスを経営していく上でのM&Aや事業再生を含めたコーポレートファイナンスの取り組みです。
企業の永続性のための最も大切なことは?
企業の永続性のために必要な一番の根本は何でしょうか?
100年を越える老舗企業大国の日本において、老舗企業が永続する秘訣の一つが、一世紀を超える超長期的な未来社会のビジョン・戦略を持って経営をしていることです。
来たる100年後にどのような社会になって欲しいのか、それには、未来から遡って、今の会社が事業がどのように、未来30年、10年、5年までに、どのように成長を遂げていくべきなのか。そのために、今から、それを誰が、どのような順番で、どのように入って動かしていき、どうつなげていくのか、将来ビジョンに基づいて企業価値を高めていく「事業承継」が大事なのです。
このためには、必要な財(人・お金)をどう投資し回収していくのか。
企業価値を上げて継続させるためには、企業が経常的にキャッシュを生み出していけるように常に経営革新にチャレンジしていくことも肝要です。
ファミリービジネスの事業承継とは?
事業を承継するということは、単に、そのファミリーのなかの誰かが株主になったり、社長になったりということと思われるかもしれませんが、まさにそれがそうである場合であったとしても、実際に事業(会社)を継ぐ人が、この会社の価値を増加し、継続する能力をもっているかということを踏まえた承継が重要なのです。
そして、将来に向けた事業承継のプランニングを立てる上で、承継の前提として事業が(短期的・中期的・長期的)将来どうあるべきか、そのために次に誰がこの経営を引き継いでいくべきか。
株主の承継の話か、社長(経営)の承継か、いずれにしても、直系の親族の誰かにその能力がないのであれば、遠縁の者や一時的に番頭のような第三者に継いでいくべきかを真剣に考える必要があります。
このように、将来誰にどう継いでいくのか、その次の世代にはどうするのか、これは非常に大切な課題であり、
・次の世代へ繋ぐためのどのような事業の成長展開プランがあって、あるいは、
・危機のときにどのようなウルトラCのプランがあって対処するのか、
・それを乗り越えたときには、更に誰にどのように継いでいくのか
を常に構想することが重要です。これが将来に向けた事業承継のプランニングと実行の現場のエッセンスです。
事業承継におけるファミリービジネスアドバイザーの役割
我々は、企業の価値を増加していく事業承継のためには、
・明確な会社の将来ビジョンが必要であり、
・ビジョンがあってはじめてどう事業を展開していくのかというシナリオが描け
・そのシナリオの延長線上に事業の拡大や縮小、新規投資や整理などのタクティクスのひとつとして、コーポレートファイナンス(M&Aなど)を駆使して体現していくことができると考えています。
そのような、スキルセットが必要なものですから、ファミリービジネスアドバイザーとして事業承継をアドバイスする場合、どうしても後継者をどう育成していくのかという対人的な教育に目が行きがちですが、実は、まずは、
・ビジネスそのものをどう展開していくのかという将来的なビジョンの明確化、
・事業の承継を念頭においた中長期事業計画、そして、
・そのためのコーポレートガバナンスやファイナンス計画の策定
に的確なアドバイスをすることが重要です。
その上で、ビジネスサイドとオーナー家の立ち位置を理解し、
・コーポレートガバナンスとファミリーガバナンスそれぞれがうまく機能する適切なバランス
となるようにアドバイスすることも望まれます。
ファミリービジネスの事業承継アドバイザーは、社長はじめ、主要株主、オーナー家のメンバーや経営幹部、従業員、取引先と、多岐に亘る関与者に対して、必要な場面で、それぞれに向き合い、傾聴し、可能性を惹き出し、気づきを与え、企業価値を向上するという解決へと導いていくことが求められています。
さらに“事業の承継”という企業の将来性を左右する一大取り組みに際しては、
・総合的な統率能力と
・コミュニケーション能力、
・ファイナンス能力、そして
・なによりも事業性を見極める目利きの力もある、
そういう能力が必要になってきます。
あらゆる会社のあらゆる問題に対してすべて対応が可能な応用力が必要なのですが、これができる総合プロデューサー的アドバイザーはまだまだ限られているといえます。
それゆえ、私どもでは、そのような総合的かつ包括的なプロデューサー的アドバイザーを目指し、具体的な各人の専門能力を見極めてクライアントに的確なアドバイス体制を執るための実践的研究会『ファミリービジネス事業承継研究会(FBSC)』を開催しています。
経営者から各分野の専門家まで多様な会員がいらっしゃいます。
100年を越えるファミリービジネス永続の未来のために、ファミリービジネスの真の事業承継にご関心ある経営者や専門家の方々とさらに展開できることを楽しみに祈念しております。
Author Profile
ファミリービジネス事業承継アドバイザリーの第一人者
(社)日本ファミリービジネスアドバイザー協会
(社)事業承継学会
ファミリービジネス事業承継研究会 主宰
米国ボストン大学経営大学院修了後、ファミリービジネスアドバイザリーの本場、米国大手会計事務所KPMGにて会計・税務アドバイザリーに従事。帰国後、同社ファイナンシャルアドバイザリー(FAS)部門の日本拠点創設に関わり、金融機関の大型不良債権の処理を始め、長年、多数の事業再生支援や国内外のM&Aアドバイザーを勤める。独立後、企業の次のステージへの展開をさらに深め、コーチングを含めた事業承継と経営革新の総合支援を手掛けるネクストステージ・コンサルティングを展開している。