後継者育成の分水嶺
はじめに ~ 経営者の仕事とは?
「経営者の仕事とは?」と問われ、どうお答えになりますか。このFamiBiz(ファミビズ)をご愛読いただいている読者の中には、事業をされている方、会社経営者や役員の他、会計事務所、公的な支援機関、金融機関、コンサルティング会社の方もいらっしゃるでしょう。
皆様の頭のなかに、この問いに対する様々な回答が去来しているものと推察いたします。私見ながら、経営者の最も重要な仕事の一つは、「後継者を育てること」だと考えております。
1.事業承継の本質
なぜ、後継者を育てる必要があるのでしょうか。経営者は、できるだけ事業を継続する義務がありますし、会社の制度も継続を前提としています。
経営者が不老不死であれば、事業承継の問題はおこりません。しかしながら、経営者は、人間です。悲しいことに寿命があり、必ず、例外なく私も読者の方も死んでしまいます。
事業は、スタッフ及びその家族、お客様など利害関係者を幸せにするために存在するものです。経営者が亡くなったら、会社もなくなる。こういうことはあってはなりません。
経営者は、次の経営者「後継者」を育てる必要があり、覚悟が必要です。
2.後継者育成の覚悟
なぜ、後継者を育成するのに、覚悟が必要なのでしょうか。後継者を育成できない場合、第三者承継(M&A)か廃業しか道はないからです。
経営者は、60歳を迎えた時、後継者を育成できなければ、経営力のある上場会社ないしは資本力のある大会社などへ全株譲渡する覚悟が必要です。
会社の継続を考えた時、実力のある経営者へ経営をお任せしたほうが、利害関係者が幸せです。頼りないリーダーに委ねると、皆が不幸になります。
事業承継には、4つの出口しかありません。
(1)上場 (2)親族内か役員への継承 (3)第三者承継(M&A)(4)廃業
中小企業の経営に携わる方々全員、この選択肢しかないことをご認識頂ければ幸いです。
3.大会社の戦略とM&A
上場会社ないし資本力のある大会社の戦略は、M&Aによる規模拡大と海外戦略が特徴です。事実、上場企業のM&Aによる買収が圧倒的に多いです。
また、人口減少が明らかで、縮小する日本市場の比率をどんどん小さくしており、海外市場への比重を増やしています。
私見ながら、大会社によるM&Aが活発であるということは、日本の国力の衰退を招く側面もあると考えています。
大会社は、その資金力等で、相当手強い。中小企業は、そんな会社と競合することなく、しなやかに生き残っていく必要があります。常日頃、同じ業種の上場企業のIRなどで、どういう戦略を立案しているかよく見ておく必要があります。
むすびに ~ 経営計画書の作成
後継者育成には、育成する方には相当の我慢が必要でしょうし、教えられる方は相当の能力や修練も必要です。育成できなれば、大会社へ全株売却する覚悟で臨みますから、毎日が真剣勝負となります。
中小企業は、事業主そのものです。誰よりも会社のことを考え、学習し続けているのも事業主です。ただ、私の感覚では、経営計画を作成している事業主は、3割。残りの7割の事業主は全く経営計画を作成していません。
後継者育成の方法として、経営計画書を書いて頂くことをお勧めします。狙いは、(1)商売から経営に転換させることであり、(2)会社の経営計画と個人のライフプランを切り離すことです。
今後、経営のプロフェッショナルでなければ生き残ることはできないと思います。 後継者が経営者になる分水嶺(ぶんすいれい)は、経営計画を作成しているか否かかと確信しています。経営計画を作成していないということは、商売をしているにすきない。超短期的な目の前のことだけを頑張っている状態です。
一方、経営計画を作成しているということは経営をしていることと同義です。中長期の計画、戦略を立案できると言い換えても良いでしょう。
Author Profile
税理士法人木村経営ブレーン 代表社員税理士
株式会社 木村経営ブレーン 代表取締役社長
認定登録医業経営コンサルタント(公益社団日本医業経営コンサルタント協会)
中央大学卒業後、KPMGピートマーウィック株式会社に入社。その後、「木村経営グループ」に入社。
一般社団法人日本ファミリービジネスアドバイザー協会(FBAA)・ファミリービジネスアドバイザー資格認定証保持者(フェロー)