夫婦間に起きうる悪循環の5つのパターン

私は14年間、パーソナルコーチとして、主に経営者の方のサポートをしてきておりますが、現在は、ファミリービジネスに携わるご夫婦のカップルコーチングにも力を入れています。

電話会議システムを使って、ご夫婦それぞれ別の電話機からかけてきてもらう形で、電話によるカップルコーチングを行っています。

今回は、夫婦間に起きうる悪循環のパターンについてお話ししたいと思います。

ファミリービジネスに携わる夫婦に限りませんが、どの夫婦にも、その夫婦に特有のコミュニケーションのパターンがあります。

多くの夫婦は、そのパターンを無自覚なまま繰り返しているのですが、そのパターンの中には、繰り返せば繰り返すほど悪循環を起こし、夫婦間の溝を深めてしまうものもあります。

カップルコーチングにおいては、その夫婦に特有のパターンに気づき、そのパターンに小さな変化を起こすことで、悪循環を好循環に変えていくのですが、

今回ここでは、カップル・ダンスと言われる、よくある悪循環のパターンを5つ紹介したいと思います。

1.「衝突のダンス」

おたがいが相手を責めるパターンです。双方が「変わるべきは相手のほうだ」と思っているので、非難の応酬となり、対立関係になっていきます。

2.「距離のダンス」

おたがい相手に対して言いたいことがありながら、相手と向き合うことを避けるパターンです。夫婦間の葛藤に触れることを避け、無難に過ごそうとしますが、おたがい心の内に不満を溜めていくので、冷戦状態のようになっていきます。

3.「追跡者と回避者のダンス」

一方が感情的に他方を追い求め、他方は理論理屈で回避するパターンです。追跡者は自分の欲求を満たしてくれることをパートナーに求めますが、回避者はパートナーと距離を取ることで自分を守ろうとします。

4.「過剰責任と過小責任のダンス」

一方が他方の世話役になってしまうパターンです。過保護な親と子どもの関係にも似ています。世話する役(過剰責任者)が、世話される役(過小責任者)のワガママや怠慢の尻拭いまでするため、世話される役は心理的に退行(子ども返り)し、ますますワガママ・無責任になっていきます。

社内で傲慢な態度を取って社員の反発を買う社長と、その尻拭いに粉骨砕身する妻も、このパターンといえます。このパターンは共依存関係ともいわれます。

5.「三角関係化のダンス」

夫婦間の葛藤を二人で向き合って処理することができず、第三者を巻き込んでいくパターンです。巻き込まれる第三者には、夫婦の親や子どもや兄弟、さらには経営幹部、社員、浮気相手などもあります。

以上、よくあるパターンを5つ紹介しましたが、どのパターンも、繰り返すほど悪循環に拍車がかかり、ますます関係が悪化していきがちです。

今回は1つ目の「衝突のダンス」を取り上げて、なぜ悪循環に拍車がかかるのかを説明したいと思います。

夫婦間の関係に限ったことではありませんが、私たちは相手に対して不平や不満があるとき、「相手こそが変わるべきである」と考え、外圧的な方法で相手を変えようとしてしまいがちです。

外圧的な方法というのは、こちらの正しさを主張し、相手の間違いを指摘することで相手を変えようとしたり、不機嫌や怒りをぶつけることで相手を変えようとしたり、相手に文句や不満を言うことで相手を変えようとしたりすることです。

外圧的な方法で相手を変えようとした場合、短期的に見れば、うまくいったかに見える場合もあります。つまり相手を変えることができたと思える場合もあるのですが、中長期的に見ると実は逆効果になることがわかっています。

人は皆、「自分の行動や選択は自分で自由に決めたい」という欲求をもっており、自分の選択の自由が脅かされたり、他者から外圧的に強制されたりすると、たとえそれが自分にとってプラスになる提案であっても無意識に抵抗する性質を持っています。

この抵抗を心理的リアクタンスといいますが、外圧的に相手を変えようとすると、相手の中に心理的リアクタンス(抵抗)が生じるので、相手はこちらに対して、必要以上に否定的・攻撃的になってくるのです。

心理学の言葉に、「ロミオとジュリエット効果」というものがあります。

ロミオとジュリエットは恋愛関係になるわけですが、その恋愛を家族から反対されればされるほど、二人の恋愛感情は尋常ではないほど燃え上がります。

こんなふうに、周囲から外圧的に強く反対されるほど、二人の恋愛感情が激しく燃え上がってしまう現象を「ロミオとジュリエット効果」というのですが、これはまさに心理的リアクタンスが働いているのです。

ファミリービジネスに携わる夫婦のケースでも、発言力の強い方が、発言力の弱い方を外圧的にコントロールしていて、短期的に見れば、それでうまくいっているように見える場合もありますが、中長期的に見ると、この関係は、悪化したり、破綻したりする確率が高いのです。

そして、外圧的に相手を変えようとするやり方を双方が取った場合、「衝突のダンス」が起きるわけですが、この場合、双方の心に心理的リアクタンスが生じ、おたがいが相手に対して否定的・攻撃的になるので、コミュニケーションを取れば取るほど悪循環に拍車がかかってしまうわけです。

以上今回は、夫婦間でよく見られる悪循環のパターンを紹介しましたが、多くの場合、夫婦は、自分たちのパターンを客観視する機会がないため、それを無自覚なまま繰り返してしまい、その結果、悪循環を起こしてしまっているわけです。

ファミリービジネスに携わる夫婦の場合は、夫婦間で生じている悪循環が、そのまま会社経営や社内の人間関係にまで決定的な悪影響を及ぼしているケースも少なくありません。

まずは夫婦間で繰り返しているパターンに気づき、必要に応じて専門家の力も借りながら、そのパターンに有効な変化を起こしていくことが、ファミリービジネスの永続的な繁栄と幸せな夫婦関係の両方を実現するうえで大切なのではないかと思います。

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