中小企業の事業承継における人間模様(経営の承継と資産の承継)

私は18年ほど中小企業の経営支援に関わる仕事をしてまいりました。その中でファミリービジネスといえる同族企業のご支援も多数させていただきました。

本日はこれまで目の当たりにした事業承継について、特に人間模様を中心にお伝えできればと思います。

「経営の承継」と「資産の承継」

事業承継は大きく分けると「経営の承継」と「資産の承継」とにわけられます。「経営の承継」で特に重要な問題となるのは

(1)後継者問題

(2)事業そのものの問題

(3)組織体制や仕組みづくりの問題

といったところです。

また「資産の承継」では

(1)自社株の問題

(2)相続の問題

があげられるでしょう。

ファミリービジネスにおいてはこれにファミリーの関係性の問題が重要となります。私がよく直面する問題の中でも本日は「経営の承継」についてお伝えさせていただきます。

後継者問題

ファミリービジネスという観点からは、まず継ぐ意志のあるご子息がいる、ご子息ではないが他の親族がいるというご家族は恵まれています。

ご子息がいない、いてもまったく違う道に進み継ぐ意志がない場合、親族以外の従業員か第三者による承継もしくはM&Aを考えなければなりません。

実際に後継者不在を理由とした中小企業の廃業は、昨今年間7万社以上、毎年20万~35万人もの雇用が喪失されています。

ただ、継ぐ意思があるご子息の後継者がいらっしゃっても能力的、資質的に難しいなどで事業承継が困難である場合もあります。

以前に、従業員が数百名いるとある製造業の社長さんが来られて、「息子を1週間ほど預けるので後継者としてやっていけそうか、個人的な見解でいいのでみてもらえませんか?」と頼まれたことがあります。

私は、個人的な見解と言っても…と非常に困った覚えがあります。結局、強くお願いされて引き受けることになってしまいました。

そして、息子さんが初めて会社に来られての第一声が「おやじに行けと言われたので来ました!」

それからいろいろとざっくばらんにお話をお聞きし、お考えを書いていただいたりして、どのような経験と知見があり、どれほどファミリー家としての自覚や心構えがあるのか、志はあるのかなどを探りました。

そして、一週間後に社長にご報告に行く事となりました。社長は「遠慮なく本音でどうだったか話してくれませんか」と言われ、私は「個人的な見解ですが、正直申し上げて今のままでは息子さんへの経営の承継は難しいと思います」とお返事しました。

社長は「やはり、そうですかぁ」と目線を落とされました。

これらの問題はなぜおこったのでしょうか?

それはファミリー内のコミュニケーションの悪さが一番の大きな原因と思われます。

親子でろくに話もしない。父親に薦められた事、言われた事をやるのが嫌。

もちろん事業の話もあまりされていない、というよりも会話にならないようでした。このコミュニケーションの悪さはファミリービジネスを継続発展させていくにあたって、とても大きなボトルネックになってきます。

ファミリービジネスであることの強みを発揮した経営をしていくためには、ファミリーの絆を高め、共通の価値観を持った強いファミリーを作り、ファミリーのコミットメントによって強いビジネスを作っていく必要があるのに、ご家族はそのような事を意識されてやってこなかったのです。

ファミリービジネスにおいて後継者は、若い頃からファミリーとしての心構えや認識が醸成されるような機会を持つことが非常に重要に思います。

その中でもファミリーでの会合の機会を定期的に開催することはとても有効です。

また、私が見てきた後継者教育の多いパターンは後継者は大学を卒業したら、まずは外部の同じような事業領域の企業で経験を積んで、戻って来て継承する会社に入り、数年間でいろんな部署を経験して承継の準備をするというものです。

しかし、海外、特にヨーロッパではファミリービジネスのご子息は将来の事業承継に備えて、大学院などでファミリービジネスの専門コースに通い、知識的にも人間的にも経営者になるに相応しい教育を受け、その上で社外社内の経験を積むという話をよく聞きます。

日本においては、このファミリービジネスの分野の教育がとても遅れています。もっともっと、このような教育に力を入れて、日本の国際競争力アップにつなげていくべきと考えます。

このような専門コースに行かないにせよ、後継者は経営者としての知識やリーダーシップ力を高めるために、自ら率先して本を読んだり、研修に参加したり、経営大学院や後継社長の勉強会などに行き学びを深めておく必要があります。

現実においては、後継者は息子だから社長になったに過ぎないと思われがちです。親族だからではなく、やはりその会社の社長に最も相応しいと思ってもらえる努力を怠ってはいけないでしょう。

事業そのものの問題

私達を取り巻く環境は昨今すごいスピードで変化しています。特に急速な技術革新やグローバル化、少子高齢化、嗜好性の多様化など、更なる進化を遂げるテクノロジーと新たな価値観が交わったことでこれまでとは違った社会が生まれつつあります。

そしてもうすでにAIやIOT、多用な働き方などは身近なものになってきました。今後の事業はこれらの事を考慮して考えていかなければなりません。

そんな中で、今まで続けてきたビジネスモデルをそのまま承継するだけでは難しい場合も多々あります。後継者は先代と同じことをすることだけが事業承継ではないという認識に立ち、必要に応じて新たなビジネスモデルに変革することも大事です。

そしてこれらは社内の人だけでうんうん唸って考えても今までの延長線上での考えやアイデアしか生まれないことから、うまくいかないケースが多くあります。

そんな時は視野を広げて、海外など新たな市場展開を考えてみたり、新たな価値を創り出すためにWIN WINで連携できそうな外部と組んだり、コンサルタントを活用して新規事業を立ち上げるなど検討の余地があるでしょう。

それでも、どう考えても衰退産業であり、打つ手がなく「継がす不幸」となる場合は、売却や廃業を考えなくてはなりません。

多くの場合、親は子供に同じ苦労をさせたくないという想いがあるようですが、子は同じ苦労をするのではなく新たに第二創業をする苦労すべきと私は考えます。

私共のお客様に、親から旅館を継承された社長がいらっしゃいます。承継時は多くの負債を抱え古びた廊下の修繕費さえままならない状況でした。しかし、後継社長は独自のアイデアでサービスを変革、ネットの活用、私共のコンサルティングも活用され、社員教育にも力を入れられました。

数年で旅館は人気旅館となり、予約を取ることが難しいほどになりました。その後、まったく違うコンセプトのホテルを建設オープンし、今では旅館もホテルも予約を取ることが非常に困難な大人気旅館となりました。これはまさに、第二創業の成功事例と言えるでしょう。

組織体制と仕組みづくりの問題

以前、とある創業60年以上、従業員百数十名の製造業の次期社長が来られてこうおっしゃいました。

「父が会長に、私が社長になる予定ですが、従業員は今の社長だからついてきた!というご年配の方が多く、どのようにやっていけばいいのか正直言って悩んでいます。」

中小企業はなんだかんだ言ってもトップの影響力は多大です。特に社長がカリスマ社長、ワンマン経営でやってきた場合は、社員は「この社長だからついてきたんだ!」と言われることが多々あります。

この会社では勤続30年以上の方も多く、お聞きすると「あの社長についてきたのに、次はそのへんをうろうろしていた鼻たれ小僧だったやつが社長か・・・」とおっしゃっていました。

こういうところでは、社長が交代した時に今までと同じ組織体制や仕組みでやろうとしてもうまくいきません。

この会社では社長交代のタイミングで、旧体制の幹部の方に敬意を払いながらも根回しをしっかりして第一線からは退いていただき、幹部の顔ぶれを刷新して若返りを図りました。

ここはうまくやらないと新社長になったとたんに集団退職されてしまったという話もよくあります。しかし、経営陣としては、一部の人が辞めていっても仕方がないという覚悟をもって取り組む必要はあるでしょう。

また、この会社では「社員を主役にした経営をする」という大方針をかかげて、初めて全社員を集め経営方針発表会を開催し、新社長が方針を述べ、新事業部長は自分達の考えが入った事業部方針を作成して発表しました。

その他にも人事制度も新たに構築し、幹部研修も充実させました。この会社はそれ以来、十数年にわたり毎年全社員を集めて経営方針発表会を開催されています。

この事業承継はうまくいきましたが、うまくいった秘訣はこれらの取り組み以外にも、承継する中で社長は肝心なことは会長に確認を取り、会長は社長がやることにあまり口出しをしなかったことにあるように思います。

今では後継された社長として、しっかり経営されています。そして社長にはまだお若いですが息子さんがいらっしゃいます。私共は引き続き次世代の承継までご支援させていただきたいと思っています。

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