第二世代から第三世代への継承
ファミリービジネスにおける課題の一つである第二世代から第三世代への継承について論じる。
そもそも、ファミリーはなぜ存在するのか。それは、「生物は生き残って子孫を残すことを目的としている」からである。
生物は38億年も生き残ってきて、生き残ることを目的としているようだ。
生き残るには二つの壁がある。「熱力学第二法則の壁」と「環境変化の壁」である。
一つ目の壁、熱力学第二法則は、建物も、細胞も、会社も、すべて形あるものは放っておくと必ず壊れるという物理学の大原則である。
二つ目の壁である環境変化は、どの時代でも、どの地域でも、気候変動、水質変化、社会変化などが必ず起こり、それに適応できないものは絶滅する。
生物は個体としては熱力学第二法則によって死ぬが、子孫を残し永続することで熱力学第二法則を克服した。
また有性生殖で、遺伝子を組み合わせることにより、多様性を生み出して環境変化に適応できる確率を高めた。この法則は生物である人間にとっても適応される法則である。
ゆえに、なぜファミリーがあるのかという説明は、熱力学第二法則の壁と環境変化の壁を克服して生き残るためだということになる。
つぎにビジネスについて考える。
会社という組織ができたのは、16世紀のオランダの東インド会社からだと言われている。
38億年の歴史をもつ生物と比べると、まだわずか500年の歴史しかない。
それゆえ、会社という組織が行き残れるかはまだわからない状態である。
しかも、放っておくと、熱力学第二法則によって、会社組織も必ず内部から崩壊する。
また、経済的、技術的な経営環境は必ず変化する。その環境に適応できなければ、絶滅する。
企業はゴーイングコンサーンといわれように、生き残り、永続することが目的とされる。
組織を定期的に再生することで熱力学第二法則を克服し、製品や能力などの経営資源の多様性を確保することで、環境変化に適応しなければならない。
これらのことから、ファミリーとビジネスに共通する目的は生き残ることであり、そのためには共に「熱力学第二法則の克服と環境変化への適応」が必須である。
ファミリーもビジネスも生き残るという目的を内在しているので、おのずからそのような動きをする。
私の観察によれば、ファミリーでは第三世代の株主は「気が付けば株主」であるが、株主の活動の中に放り出されれば、「内在的目的」が発現される。
その芽が「プロフェショナルな株主」にまで成長するように、よくよく一代目の意向を理解している二代目が「世話」をする必要がある。
一方、ビジネスでは、二世代目、三世代目なると、組織化、専門化が進み、社内から自発的にプロフェショナル志向が発生する。
それに対応できるよう、第三世代の経営者は、ファミリー、非ファミリーにかかわらず、プロフェショナルな経営者でなければいけない。
三世代目の株主と経営者をつなぐ取締役会も「プロフェショナルな取締役会」でなければ機能しなくなる。
従来、日本企業においては、取締役の大半は使用人や執行役員を兼ねており本来の機能である経営者の「監視役」としては機能していなかった。
しかし「本来の取締役は、株主などの投資家の意向をうけて、経営者の仕事ぶりを監視し、よりよき経営の実現を後押しすることがその役割である。」
上場している大企業でさえ、このように監督と執行が分かれていることはまれである。非上場のファミリービジネスとなると、通常、取締役会は紙の上ということが多い。紙の上の取締役会を機能させることは難しい。
では、この取締役会について世界ではどのようになっているのであろうか。
「取締役会は米国では伝統的に株主の利益を代表し、英国では会社の利益を、ドイツでは労働者の利益を代表する」傾向がある。
日本ではというと「会社は公器」といわれるので、取締役会は公益を代表する傾向にあるようだ。
どちらにしても、非上場のファミリービジネスにおいては、取締役会よりも、幅広い知識と経験を提供してくれるアドバイザリーボードのほうが適しているかもしれない
ドイツを代表するヘンケル社のケーススタディを参考に、第二代から第三世代への継承の展望を理解しようと試みる。
同書にヘンケル社の「ベストプラクティスとして評価された内容」(129頁)として6項目が書かれている。(ファミリー、ビジネス、ガバンナンスへの分類は筆者が行った)
ファミリー
・一族の影響を次世代に効果的に継承する
・一族による積極的な次世代リーダ育成プログラムを運営する
・一族の利権を取りまとめ、各世代が一括して意思決定を実行する
ビジネス
・次世代の事業継承のための正式な長期計画を構築する
・オーナーシップ行使にあたり一族の利益よりも事業を優先する明確な一族の経営方針を採用する
ガバナンス
・外部プロフェッショナルを活用し効果的ガバナンスシステムを構築する
「熱力学第二法則の克服と環境変化への適応」に成功するには、ファミリー・ビジネス・ガバナンスの三つの組織である「ファミリー評議会、株主総会、取締役会」がうまく機能する必要がある。
「存在は本質に先立つ」というサルトルの実存を思わせる「気が付けば株主」が、ファミリービジネスを熱力学第二法則の克服と環境変化への適応に成功させるなら、「成功とは、品性と知性の証拠であり、また、神聖な保護を受けた証拠である」とサルトルはいうであろう。
ファミリー評議会、株主総会、取締役会がそれぞれの役割を三位一体で果たし、神聖な保護を受けられるように祈るばかりである。
参考文献
1.本川達雄(2016)『人間にとって寿命とはなにか』角川新書
2.日本取締役協会 編(2002)『取締役の条件』日経BP社
3.ジャン=ポール・サルトル (ウィキペディアほか)
4.ランデル・カーロック、ジョン・ワード(2015) 階戸照雄 訳
『ファミリービジネス 最良の法則』 出版社ファーストプレス
5.ヨハヒム・シュワス(2015) 長谷川博和・米山隆 訳
『ファミリービジネス 賢明なる成長への条件』 第10章
6.ラム・チャラン、デニス・ケアリー、マイケル・ユシーム(2014)
河添節子 訳 『取締役会の仕事』 第9章
Author Profile
家業の機械製造販売業の兵神装備株式会社に入社。
4年間ドイツで機械製造会社に勤務。帰国後、部品加工工場を設立。
工場の拡大、運営に従事。製造部長、工場長、副社長を経て、現在、兵神装備株式会社の取締役副会長。
2014年より、一般社団法人FBAAファミリービジネスアドバイアザー資格認定証保持者(フェロー)