ファミリービジネスの長寿性を「家訓・家憲」の視点から考える

世界で200年以上続いている企業は8785社あり、そのうち3937社が日本にある。(日本経済大学 後藤俊夫教授 2013年2月9日FBAA講演資料より)

そして、そのほとんどがファミリービジネスと言われている。このように、日本のファミリービジネスの長寿企業が多く存在しているのだ。

では、なぜこのように長寿性をもつ企業が存在するのだろうか。

様々な研究が行われているが、ここでは、長寿ファミリービジネスが多い秘密として、後藤教授があげている以下の4つのポイント(後藤俊夫「三代、100年潰れない会社のルール」プレジデント社 2009年 P92~94参照)について、「家訓・家憲・家法」の側面から考えていく事にする。

(1)各種マネジメントシステムの蓄積

(2)経営を取り巻く外部環境要因としての長期的拡大への対応

(3)家業の継続的発展を目指す強い意志

(4)継続する強い意志の背景としての思想的要因

今回は(1)、(2)について解説する。(次回、(3)(4)について解説する。)

(1)各種マネジメントシステムの蓄積

長寿のファミリービジネスというと、「経験・カン」に裏打ちされた属人的な経営を思い浮かべがちだが、実は大変緻密な経営がなされていた。

江戸時代にはすでに精密な複式簿記が存在し、さらには、丁稚から番頭に至る人事管理・教育制度などが広く普及していた。

江戸時代から続くファミリービジネスでは「店則」(家訓、家法の一部として記されている)があり、そこでは働く人たちへの「働き方の心得」などが記されている。

また、各種リスクマネジメントとして、火急の際に備えた準備金制度などが存在していた。

こうしたことは、三井家の家法のもととなった「三井宗竺(そうちく)遺書」にもみられる。

その第31条には「相続銀」として以下のように述べている。

『すべての利息のうちから、10年に20分の1の利息を別に積み立てて置き、これを相続銀と定めて、古参の手代や身上が衰えた者、その他、火災に遇った者への救済のために、(中略)この積立金から支出する。(中略)ただし、このような定めをしたのは、三井一族がいつまでも繁昌することを願ってのことである。一時は繁昌して富める者であっても、その恩恵を下の者にいつまでも与えることができない。 永遠に栄えることを祈る時は、その徳を下のものに及ぼすことである。このことは天の道理であり、古くからの慣わしである。したがって、利息の中から支出するのは、せっかくの積立金を減少させるものであるが、この徳が三井家永遠の支えになることをよく考えなければならない』

(吉田實男『商家の家訓』清文社 2010年 より)

この他にも、茂木家の積立講、安田家の非常経費準備金、菊池家の永代積立などが家訓に記されている。

このように、ビジネスを成功させるための「言い伝え」や「決まり事」が、すでに江戸時代にも存在し、家訓や家憲・家法といったものに記され、継承されていたのだ。

(2)経営を取り巻く外部要因としての長期的拡大

江戸時代200年の経済は平均して年率0.1%で成長。また政治の中心であった江戸では18世紀初頭に世界最大の人口100万人都市に成長していた。

長期的拡大という外部要因もあるが、それを「機会」と捉え、様々な工夫がなされて、長寿企業として生き残っている会社も多い。

これらの企業は、お客様の変化、時代の変化に柔軟に対応して、自分たちの取り組みを変えていこうとしていた。

それは、虎屋の黒川社長をはじめとする、多くの老舗のトップが言う

「伝統とは革新の連続である」

という言葉に象徴されている。

そして、その工夫や姿勢に関しては、家訓などに残されている。近江商人の外村與左衛門(現在の外与(株))の家訓には、以下のようなことが残されている。

◆第18条「仕入れの時期」

仕入れは、おしなべて、人々が欲しがらず需要がない時を考えて、安値になった時に商品を十分に吟味して、売り場で絶対に必要になる商品だけを選んで仕入れて、自然にお客さんが欲しくなる時のために準備することである。

◆第19条「売りて悔やむ事、商人の極意と申す事よくよく納得いたし」

商品を売る場合の心得は、仕入れの時とは逆で、お客の望む時に、在庫の商品は売り惜しみをせずに、買う人の気持ちを考えて、その時の相場では引き合わなくても、その時の成り行きの相場次第で売り渡すことである。決して、損得に迷わず、人々が望んでいる時は、その機会を逃さずに次々と売り渡すことである。

◆第20条「商売の駆引き」

昔から我が家に伝えられてきた駆引きの方法は、売買ともに、自然の成り行き、天の道理に適ったものであるから、自分の都合のよいことばかりを考えてはならない。自分も相手も共に利益になることを深く考えて勤務をすることである。

(以上、吉田實男『商家の家訓』清文社 2010年 より抜粋)

20条以降も、「相場の変動」「取引の心得」「取引限度」など商売を進めるための様々な心得が10条近くにわたり続いている。

このように、環境の変化を、「脅威」ではなく「機会」として捉え、お客様視点を大切にして取り組むことで、ビジネスの継続がなされていったのだ。

続きの後半(3)(4)は、次回に続く。

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