「実務家は個人の幸せと事業承継の両立にどこまで関与すべきか」

親族内承継が減少する昨今、ファミリービジネスの永続を支援する我々アドバイザーにとって、避けては通れない課題があります。家族の承継の基をなす「結婚」の問題です。
私のもとにも、「同じ方向性で会社の発展を目指せる伴侶」を求める切実な声が寄せられます。本稿では、フェローの皆様にご協力いただいたアンケート調査を含む、事業承継学会での発表内容を基に、実務家がこの課題にどう関与すべきかを報告します。

晩婚化が招く承継の構造的危機
なぜ今「結婚」が重要なのか。背景には深刻な少子化と晩婚化があります。
かつて孫は祖父母と親の協働を見て育ち、帝王学を自然に吸収できました。しかし結婚が40代まで遅れると、孫は現役の祖父母と接する機会を失います。晩婚化は、3世代間の理念浸透を阻み、ファミリーの求心力を弱める構造的リスク要因となっています。

実務家アンケートが示す現場のリアル
では、税理士やコンサルタント等の実務家は、クライアントの結婚にどこまで踏み込むべきか。実務家25名を対象とした調査からは、現場の実態が明らかになりました。
まず、約6割(59.4%)の実務家が、クライアントから「結婚相手の紹介」を依頼された経験を持っていました。さらに、実際に紹介を行ったケースの成婚率は20%に達しています。一般的な結婚相談所の数値を凌駕するこの結果は、信頼関係のあるファミリービジネスアドバイザーによる紹介が、極めて有効なマッチング手段であることを証明しています。

また、「実務家は関与すべきか」との問いには、「本業に余裕があれば」を含め84%が肯定的であり、多くの方が「後継者の未婚」を経営課題として認識していることが浮き彫りとなりました。

「個人の幸せ」なき承継は永続しない
本研究では、第3世代・三女という共通項を持つ2つの事例(承継成立・不成立)の比較分析も行いました。
承継の成否を分けたのは「自律性」でした。本人の意思が尊重され、周囲からも結婚相手が受け入れられたケースでは、幸福な承継が実現しています。一方、対話が不足し、後継者が「結婚か承継か」の二者択一を迫られ、自己犠牲で家業を継いだケースでは、結果的に歪みが生じていました。

Handler(1992)が指摘するように、承継者には「個人のニーズ」「影響力の発揮」「周囲との関係性」の充足が必要です。結婚相手を自分で選ぶという「自律性」が損なわれた承継は、個人の幸福を犠牲にするだけでなく、長期的にはファミリービジネスの健全な発展につながらないリスクを孕んでいます。

「配偶者」=「優秀な中途採用」という視点
ある実務家の「配偶者はファミリーへの『中途採用』であり成長の好機」という指摘は重要です。しかし、この人的資本の獲得をアドバイザー単独で支えるには限界があります。
そこで不可欠なのが、結婚支援の専門家との連携です。「結婚も承継計画の一部」と捉え、専門家へ適切につなぐことこそ、少子化時代の新たな支援の形でしょう。

本研究により、実務家と結婚支援者が連携し、第三者として適切に配慮することで、幸せな親族内承継を増やせる可能性が示されました。
アンケートにご協力いただいたFBAAフェローの皆様に深謝申し上げます。「後継者の結婚」は、個人の幸せであると同時にビジネス存続の要です。今後も皆様と共に、幸せな親族内承継の実現に取り組んでまいります。

参考文献
Handler, W. C. (1992). The Succession Experience of the Next Generation. Family Business Review, 5(3), 283-307.

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