ファミリービジネスの深〜い谷 ―基礎プログラムを修了して―|百田 浩

ファミリービジネスの深〜い谷 ―基礎プログラムを修了してー
  • 「ファミリービジネス」の険しい谷

ファミリービジネスの基礎プログラムを修了した私の最大の気づきは、ファミリーとビジネスの間には深く険しい谷(分断)がある、ということです。
谷の片側には事業、もう片側には家族。家族と事業の間の谷は、霧に包まれたようにぼんやりとしていて、その深さや広がりを正確に見極めることは難しい。

創業者にとっては、ビジネスは自分の分身であり、家族と共に歩んできた歴史そのもの。創業のドラマを家族とともに歩んできたので、創業者自身がそこに谷(分断)があること自体もあまり意識することはないのかもしれません。創業者と一緒になり、長年ビジネスに深く関わってきた家族にとっても、我が家と道路の間の小川を一跨ぎ、ということかもしれません。

一方、2代目、3代目などから見るとどうでしょうか。創業者たちとは見え方が異なるのが自然でしょう。そもそも2代目、3代目という感覚すらないかもしれません。そのビジネスとほとんど関わらずに育ってきた、暮らしてきた家族にとってビジネスの存在は、はるか遠くにあります。我が家とビジネスの間には、深い谷が口を開けて横たわっていて、向こうに渡る手段もない、谷底も見えない、という風景かもしれません。

どちらの見方が正しいのでしょうか? 見え方が色々あるのが自然、いわば谷のどちら側から見るか、ということではないかと思います。

  • 歴史の谷、本質の谷

「ファミリービジネスの谷」は「歴史の谷」であり「本質の谷」ともいえるでしょう。
自分が辿ってきた家族の歴史によって、谷の形も大きさも変わります。それが「歴史の谷」。
そもそも家族とビジネスは、本質が異なります。それが「本質の谷」。

たとえば子供にとって家族は、生まれたときに既に存在するもので、自分が選び作るものではありません。「親ガチャ」という言葉があるくらいです。まして「○○家」という親戚関係に至っては、顔さえ合わせたことのない親戚がいるのも今は普通です。

一方、ビジネスは価値を創造し提供する仕組みです。同じ目的を持った人たちが、集まって、価値を創り顧客や社会に提供していくこと、その仕組みが会社(カンパニー)です。自分の自由な意思で、同じ目的の仲間と一緒に進む、これが会社つまりカンパニーの本質であり、ビジネスの本質です。

このようにファミリーとビジネスは、歴史も本質も異なります。その間には「谷」があるのが当然です。

  • ファミリーとビジネスの谷を意識しないとどうなるか

「谷」の存在を意識しない「ファミリー=ビジネス」と思い込むとどうなるでしょう。創業者は谷を毎日、当たり前のように渡ってますが、気がつくと家族の誰も谷を渡ってこないということもありえます。

また、あまりにも安易に谷を渡って、ビジネスとしての目的を共有していなかった、ということもあるでしょう。時々、世間を騒がせる同族会社の不祥事の根っこもこの辺りにありそうです。

こういう残念な事態を避けるにはどうしたらいいでしょうか?

  • 橋をかける、谷を渡る

「険しい谷」があることを直視すること、そしてその谷に橋をかけることが必要です。
その橋を渡るか、渡らないか、それは家族一人一人の選択です。

橋は、頑丈な橋よりも、渡るにはちょっと勇気がいる丸木橋や吊り橋の方がいいかもしれません。橋の先が楽しそうであれば、渡る人はいるでしょう。むしろそういう人こそが、ビジネスをさらに強く回していく仲間になりそうです。

私のすべきことは、谷を見えるようにして、橋をかける手伝いをすることではないか。これがファミリービジネスの基礎プログラムを終えた気づきです。これからも関わる人たちとともに学び続けたいと思います。

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