ファミリービジネスと村、京料理業界
FBAA7期の鳥居久修と申します。
私は、京都の貴船という地で、旅館飲食業をしております。現在は、母と私と妻の三名のファミリーメンバーで経営にあたっております。
現社長の母が2代目で、私は3代目予定として日々奮闘しております。
特にここ数年は、ファミリービジネス視点でのアクションというよりは、事業計画や、業務内容の整理など、ビジネスの実務的な部分に注力しております。
ゆくゆくは3代目として、理想とするファミリービジネスをしっかりと構築していきたいです。
京の奥座敷・貴船
私どもの店は、京都市内から北へ車で30分ほどの山間部に位置しています。
貴船山と鞍馬山の谷間を流れる鴨川の源流の一つである貴船川の側の一本道に、20件ほどの旅館・飲食店が連なっており、その最奥に店を構えております。
村の中心には水の神様で有名な貴船神社があり、四季を通して、多くの参拝客がいらっしゃいます。
また、京の奥座敷とも呼ばれるこの地は、人口50名ほどの小さな村ですが、夏は避暑地として多くの観光客で賑わいます。
特にその時期は、各店が「川床」と呼ばれる貴船川の真上に木製の床を設けた場所で料理を提供しており、観光地としても事業としても、この時期がトップシーズンとなります。
コロナ禍で考えなおした存在意義
さて、この長いコロナ禍で多くの方が様々な影響を受けておられると思いますが、私どもの事業も昨年は本当に大きな影響を受けました。
昨年は夏の時期に新型コロナの第4波、第5が重なり、時短営業や、酒類提供の禁止、またそれとは別に、メインの交通手段である叡山電車が大雨による土砂崩れのため一年以上運休していたこともあり、とても厳しい年でした。
そのような状況は、観光地で事業を営む者としての自分たちの役割や存在意義、今まで目を背けていた問題や疑問、これから何をどう残していきたいか等、あらためて考えさせられる期間でもありました。
数十年かけて起こるような変化が数年のうちに起こり、その対応を迫られているように感じています。
貴船のムラ社会
ただ、このことは、決して受け身な捉え方ではなく、ポジティブに捉えられている部分でもあります。
私どもが事業を営んでいる貴船という地域は、貴船神社を中心とした小さな山村で、古くは神社にご奉仕しながら山林業を営んでいたと聞きます。
今のように、夏の時期の「川床」をメインとした旅館、飲食店街となったのは大正時代以降と、村の生業としての歴史は浅いです。
私どもの店は祖父が創業し、茶店時代も含め約60年ほどですが、貴船では比較的新しい店です。村の約9割が家族経営であり、親類縁者が多く、大きく3つの家系に分かれます。 皆が川床をメインとした家業をしていることもあり、「冬は親戚、夏は敵」というような言葉もあります。
貴船は夏の観光シーズンに頼り切った体質的な問題を抱えており、また川床は天候の影響を受けやすく、近年の不安定な天候は大きなリスクとなっています。昨年はコロナ禍で団体旅行は激減し、コロナ対策のための各種規制も大きな枷になりました。
また、ここ数年は、新型コロナの影響で、村の旅行や、神輿を担ぐお祭りも中止となり、また廃業や、経営権が他の資本に移った店などもあり、段々と地域内での古くからのコミュニケーションの場が少なくなりました。
集まりごとといえば町内会や観光会などで、極力少ない回数でという状況でした。(もちろんオンラインではありません)
ムラとファミリービジネスに共通する弱さ
そんな中、オフシーズンの秋のライトアップイベントに関する会議に出席したのですが、年々参加者が少なくなっています。特にここ数年は毎回同じ顔ぶれで、全体の2割ほどの出席率でした。
そのような状況でモチベーションが高まる訳もなく、惰性でイベントの運営を続けているような状態です。
オフシーズンのイベントとは言え、あまりにもモチベーションにばらつきがあるのではないか、と大きな危機感があります。
参加者は、問題提起や新規プランを発言するのですが、実行までに移すわけでもなく、毎回うやむやになり、はたしてこのような会議に出席していて意味があるのかと感じていました。
そして、それぞれに思いや考えがありながら、村全体でそれが議論や共有されるわけでもなく、ただ埋もれていくような感覚。
「あ、これは自分の店の一番悪い状態の時と同じだな」。私はそう感じました。
ファミリービジネス特有の「言葉にしなくても、なんとなく理解し合っている」と勘違いしているような感覚。
ビジョンや理念が明文化されていなくても、みんなが同じ方向を見ていると勘違いしているような感覚。
お互いのことを深く知ろうとしなくても、皆が同じ価値観持っていると勘違いしているような感覚。
役割がハッキリしていなくても、なんとなく惰性で事が運んでいるような感覚。
世代間で、考え方や、モチベーションが大きく分かれてしまっているような感覚。
それでいて、皆が似たようなバックグラウンドを持ち、ある種、運命共同体のような。
この村と、ファミリービジネスの弱い部分は似ているところがあるなと感じました。(少なくとも私のファミリービジネスとは)
今までの自分であれば、ただ現状を嘆き、途方に暮れていただけだと思います。
FBAA認定プログラムの学びをムラに生かす
しかし私は、FBAA認定プログラムを受講して、浅いながらも多少の知識とみんな同じく悩みながらもチャレンジしているという大きな安心感を得ていました。
また、ケースペーパーの作成は大きな経験になりました。
ケースペーパーは過去、現在、未来の3部構成となっており、過去を振り返り、現在を整理し、忘れていたもの、気づいていなかったことを共有し、未来の計画を立てることだと考えています。
このケースペーパー作成のプロセスを、村の現状に当てあてはめられないかと考えました。
具体的にはスリーサークルを応用して、貴船神社の氏子をファミリーと考え、店舗や住居の所有者をオーナーに、事業を営むものをビジネスに分類する。
昔から続く地域新聞をもとに当時の話をしながら少しずつ年表を作成する。
みんなでSWOT分析をして現状を整理し、共有する。未来へ向けたビジョンやプランを作成する。村を良くするための新たなルール作りをする、などです。
先日、この秋のイベントに関して、現状の確認と問題点や埋もれた意見を共有するために、また、停滞していたコミュニケーションをもう一度活性化させるため、そして上記のような流れを生み出すきっかけのために、各店にアンケートを実施したところです。
村の現状を少しでもいい方向にシフトしていくために、秋のイベントの会議を足掛かりに、少しずつアクションしていきたいと思っております。(一筋縄ではいかないでしょうが)
FBAAでの学びや気づき、認定プログラム受講の経験をきっかけに、自社のファミリービジネスに対して、俯瞰的な視点を持つことができたことは大きな成果でした。
その中で、ファミリービジネスを取り巻く環境やその業界に対しても、次世代に繋げていくために、何かアクションを起こしていかなければいけないと感じています。
ファミリービジネスの現場から感じたこと、気づいたことで少しずつアプローチしていきたいと思っています。
京料理事業者とファミリービジネスをつなぐ
最後に、私は2020年から、京都料理芽生会という任意団体に所属しています。
京都料理芽生会は、京都における料理屋を中心とした、2代目以降の若主人・料理人の会です。
約50店舗が所属しており、三つの委員会に別れて対外的な社会貢献事業や、会員向けの勉強会や交流会を企画、運営しております。
創業何百年というようなお店の会員も多く、また基本的には全てファミリービジネスです。
メンバー同士の会話の中にも、ファミリービジネスに関する内容や、それを感じさせるフレーズが多く、この芽生会とFBAAを繋げるような機会が作れれば、おもしろいのではないかなと感じています。
時代への対応と変化が求められる中、FBAAの切り口で京料理のファミリービジネスを見ることは、この芽生会でも大きな出来事になるではないかと考えています。
京都の山奥で、本当にスモールなファミリービジネスを営んでおりますが、小さなアクションで少しずつ、本当に少しずつですが、未来をいい方向にしていければいいなと思います。